R6 0102 実業校での数学の授業で気をつけたいこと

 昨年は3本程度しか書けませんでしたが、今年は文章化して棚卸しをしたいと思っています。冗長で拙い文ですがご容赦ください。また、教育は「絶対の一通りの正解」は存在しないという考えを私は持っています。おそらく異論を感じる方もいらっしゃるかと思いますが、あくまで「個人の考え」と捉えていただければ幸いです。
 数学を工業高校や商業高校などの実業校で教える際には、普通科校で教えていた頃(教えられていた頃)と前提が異なることに注意が必要です。前提もいくつかあるのですが、その1つとしては「毎日授業が行われることが(まず)ない」ということも含まれるのではないでしょうか。
 普通科校では、例えば1年時には数学Ⅰ3単位+数学A2単位で週5コマ、2年時で数学Ⅱ4単位+数学B2単位で週6コマ・・・というように、月〜金の週5日の学校日で5〜6コマは数学の授業が行われていると思います。なので、大抵は毎日数学が1〜2コマは行われているのではと思います。
 しかし、実業校ではおそらくこのようなコマ体制は珍しい方ではないでしょうか。実業校は、商業高校では商業系の、工業高校では工業系の、農業高校では農業系の授業や実習で多くのコマが当てられることから、1年の数学では数学Ⅰ3単位のみ、2年の数学では数学Ⅱ4単位のみ、といったコマ体制になることがほとんどではないかと思います。そうなると、「数学=毎日授業が行われている」という環境ではなくなります。
 普通科校の場合、この環境から「毎日、数学の積み重ねが行われる」という状態が授業で成り立つため、「昨日出会った公式」「最近勉強している内容」は比較的思い出しやすいと思います。しかし、週3コマ程度の環境の場合は、これがなかなか難しいのが現状です。1日あいているだけでも、記憶は希薄になり、また、後述しますが、重点となる科目が異なることから、「前回の授業でやったことを使って新しいことに出会う」という流れを授業のスタート段階で作ることに手間取ることになります。

 私は、この環境を前提として、心がけていることは
(1) 毎授業「これをやったら終わり」を明確にし、継続性を極力作らない。
(2) 前時で習った公式が必要な場合は、「裏紙小テスト」を最初の5分で。
(3) 初めて聞くかのような話し方をする。
 この3つを優先します。

 実業校の生徒は、ぶっちゃけて言うと普通科の教科(国語や英語、数学など)が、好きだったり、自分に必要と感じて取り組んだりする生徒はあまり多くありません。生徒個々で見れば、そうとは言えないケースもありますが、大概、授業はいろんな尺度を持った生徒群を相手に行うので、普通科校の感覚を持った生徒は少数派だと思って取り組んだほうがいいでしょう。普通科教科を授業する上でまず植え付けておきたいのは「この授業、次の時間も新しいことに出会うことが楽しみだ」と思わせることです。そのから新たな欲が生徒から生まれてくれば「公式を覚えることのよさ」「計算がうまくなることのよさ」に目が向くようになり、ようやく「普通科校で当たり前に鍛えている段階」に届きます。

 (1) について、普通科校の環境では、単元のセクションの途中で授業が途切れても、難しい応用例題を考えている途中で途切れていても、「続きは明日」で次回の授業も生徒は乗ってくれます。しかし、モチベーションが低い生徒の心理で行くと、これで行くと、間に1日空いていようが、空いていまいが、前にやった内容の記憶が残っていないと、そこを取り戻すことも大変です。そこを「前の時間でこういうことをしたよね?」と授業の最初の2分あたりで話し出すと、そこから理解できていない生徒は、その授業、残りの48分が苦痛なものであると想像してしまいます。だから、こっちは継続性ある内容(数学は積み重ねの学問であり、そういう体型で教科書も作られています)であることは心のなかに入れておくけれども、生徒へは、毎回新しい学びを提供するつもりで話し、いつでも「スタートラインに立てる」という気持ちを持てるようにします。

 (2) について、(1)でこのように話しましたが、例えば2次関数の単元では、グラフ書きの授業、最大最小を求める授業、とぶつ切りにしても平方完成の計算はできていないと成立しない、というように、前時で身についた内容を使わざるを得ないことがありますよね。そういう場合は次のようにしています。

 平方完成の授業を行った回で授業の最後に「こういう計算ができるかどうかを小テストします」と予告
 →小テストは、裏紙(私はA4判をさらに半分の半分(A6サイズ)に切ったものをいつでも配布できるように大量に所持してます)を配布し、黒板に問題を書いて生徒に書かせる。1分で終わる問題を4題程度、5分で終了。
 →答え合わせはさせずに回収をする。(これはあとで職員室で採点して、評価に入れる)
 →黒板に、問題の解答を書き、生徒に、問題と解答を板書させる。そして内容に入る。小テストで使った式を使って、軸や頂点を求めてグラフを書くくだりを見せて、本時の内容に入る。

 解いた生徒が理解できたかどうかのフィードバック、理解できていなかった生徒はこの板書でスタートラインに立たせ直す、そして板書した内容を使って今日勉強する内容を話すことで新しい勉強に出会わせる、1石2鳥どころか3鳥はあるかと思います。小テストの準備や、問題の選定についてはまた今度お話します。

 2次関数のグラフ書きから教え始める際に、途中の平方完成で授業が止まることはありませんでしたか?また、その際に「前回の授業でやったよね」「前に教えたでしょ?」と言うことはありませんでしたか?私はこのセリフは、よっぽど意識の高い集団のみのとき、このセリフを発すればきっと復習の必要性を思い出してくれる、そういうときにしか言わないようにしています。学力が厳しい子や、勉強習慣が身についていない子、勉強に対して自己肯定感が低い子には、そういう気持ちは持ってほしいとは(当然)思っていても、このセリフで気持ちを下がり、「今の内容がわかっていないからここから先もわからないのか・・」という気持ちで残りの時間を過ごすことになります。残りの時間だけで出会えるものも、そのような低い気持ちでは出会う楽しみも生まれないよね。私はそう思います。

 だから、その代わりの形として、こういう小テストはします。そして、できが悪くてもこのタイミングで説教はしません。「今日だけ教えるのではないから、またの機会に」と自分に言い聞かせます。黒板に答えを書いて板書をさせる活動はそのあたりの伏線回収の意味も込めています。

 (3) ですが、(2) で「これ、前に教えたよね」というようなことは言わない、という話をしましたが、その意図もこれに込められています。授業の1時間1時間、それぞれで「新鮮な出会いの経験」を持たせること、これが授業の目的であると考えています。前時ではモチベーションが上がっていなかった生徒が、新鮮な内容として展開した本時では手を動かして考える姿勢を見せてくれた、こういうことは可能ですし、そうやって授業に参加できるチャンスをこっちは作ってあげることが必要です。

 そのためのコツとして「ここまでの内容は前やったんだけど」というセリフはこっちは言わないように気をつけています。そこの意識は生徒に委ねます。理解している生徒は心の中で「ああ、前教わったところだな」と思ってくれるし、全くその意識がない生徒は「ここも新しく勉強するところだな(実は前やった内容だけど本人は気づいていない)」、その中間の生徒は「前の時間に見たような気がする(気がする程度で十分)」、それぞれの考えで聞いてくれるでしょうけど、そこは気にしません。それよりも大切なのは、今出会ったことを使って、ワークシートに書き出すこと、例題をお手本に問題を解くことです。そして、満足感ある1コマを過ごさせることを目指します。

 今回は、授業づくりで習慣としていることのことを1つお話しましたが、私もこの文章を作っているうちに
① 実業校の普通科校とは異なる「前提」は他にもある
② 重点となる科目が異なることについて
③ 数学の科目、普通科校ではⅠAⅡBⅢCだが、実業校では?
④ 小テストの問題の選定、取り上げる問題レベルの選定
⑤ 宿題について、勉強の定着のさせかた
⑥ 何を目指した数学を提供するか
あたりを掘り下げて述べたくなってきました。
不定期にはなりますが、また、書いていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?