夢の中でイカサマをする神さま
あれは不思議な夢だった。
自分以外の人たちが花札?か、なにかのカードゲーム?のようなものをしていて、お金を賭けているような感じだった。そしてその様子を少し離れたところからぼんやりと眺めている自分。
みんなが賭け事をして遊んでいる様子を眺めていた。
すると突然みんなの動きが止まった。
さっきまで普通に動いていたのに、急に時間が止まったかのようにみんなの動きが止まったのだ。
でも、その中で1人自由に動いている人物がいた。
その人物は、鼻歌まじりに1人だけ自由に動き回り、止まっている人たちの手札を見たり、自分に有利なカードを手に入れたり?していて、そして彼が自分の席に戻るとまた時間は普通に動き出した。誰も自分たちが止まっていたことなんて全く気づいていない様子。
「うわー、負けたよ。ちくしょー。もう一戦だ!」
とか言いながら彼らは賭け事を続けている。
「いや、ちょっと!まて、待て!それイカサマだよ!」
と声をかけるのだが、僕の声は届いていないどころか、僕の姿は彼らには見えていないようだ。
普通に賭け事を楽しんでいる彼ら。
そしてまた時間が止まり、動きが停止している人たちを横目に鼻歌まじりで自由に動き回る1人の男。
「くっ、あいつまたイカサマしてやがる」
僕は、その様子を見ながら「この卑怯者!ちゃんと勝負しろよ!」的なことを言っていたが僕の声は届かない。またなにごともなかったかのようにその男がイカサマを終え自分の席に戻ると時間は動き出す。
「ちくしょー!また俺の負けだよ。もう一戦だ!」
「いやいや、もうやめとけって!それイカサマだよ!何回やっても勝てないって!」
虚しく響き渡る僕の声。
(いや、自分にしか聞こえていない声なのでどこにも響き渡ってもいないが)
それにしてもあいつは一体何なんだ?
なんで時間が止まっている空間をあいつだけ自由に動き回れるんだ?
あいつは一体何ものなんだ!?色んな疑問が湧いてくる。
それからも時間を止めてはイカサマを続け、ガッポリ儲けている1人の男。
僕はその様子を眺めていることしかできなかったが、みんなが停止しているなか、その男は急にこっちに振り向いて語り始めた。
「なんでお前は時間を止めたり自由に動けたりできるんだって?そんな顔だね。そんなの簡単だよ。だって私は神だからね」
僕は急に話しかけられたのにビックリして言葉に詰まった。
彼には僕の姿が見えているようだ。ずっと僕のことなんかなにも見えていない感じだったじゃないか、という思いが湧き出てくる。てか、いま神って言った!?この人神さまなの!?
「あなたは神さまなの?神さまも賭け事とかイカサマとかするの?」
「あぁ、賭け事もするしイカサマもするよ。私は君たちとなにも変わらない。煙草だって吸うし、お酒だって飲むさ。君たちの勝手なイメージで神を想像しないでほしいね」
そういうものなのか…?
神のイメージと言えば、酒も煙草もやらず、誰もが尊敬するような立派な品性を持ち、神々しい白い衣装をまとい、立派なヒゲを生やしたおじいさん、みたいなイメージがあったが、どうやらそれは僕の思い込みだったらしい。
「確かに僕のイメージで神さまを勝手に立派な人だと思いこんでいたかもしれません。でも、あたなは神さまって感じはしないなぁ。ボロボロの服装で、お酒を飲みながら賭け事したり、イカサマしたりしてるし」
「おいおい、失礼な奴だな。誰が神は賭け事をしないって言った?誰が神はボロを纏わないと言った?それは君たちの勝手な妄想だろう。君たちはいつも勝手に妄想し、ありもしないストーリーを作り上げるよね。勝手に神のイメージを作り上げて勝手にがっかりしないでもらいたいね」
確かにそうかもしれない…
誰も神の姿など見たことなんてない。なんで人間は勝手に神さまはこんな人、みたいな、そんなイメージを持っていたんだろう?
「君たちが思い込みを持っている限り真実は見えてこないよ。いままで大事に持ってきた観念をぜんぶ捨てるんだ。そうすればもう幻に惑わされることはない」
観念を捨てる…
「持っている観念を捨てるってどういうことですか?よくわからないんですが…」
「全部だよ、ぜんぶ!君たちはなんでも型にはめようとする癖がある。賢者とはこういう人、愚者とはこういう人、悟りをひらくには欲を捨てなければいけない、成功者とは…、立派な人とは…、言い出したらキリがない!そんなイメージはぜんぶ君たちが勝手に作り上げたイメージでしかない。そこに真実はない。そんなイメージはぜんぶ捨てるんだ」
確かに人間はそういうところがあるな。
「分かりました。すべてを捨てるんですね。やってみます。ところで、神さまでも煙草吸ったりお酒飲んだりするんですね」
「あぁ。煙草も吸うし、お酒も飲む。賭け事もするし、イカサマだってするさ。君だって煙草も吸うし、お酒も飲むじゃないか」
「はい、でもイカサマはしないですよ」
神さまは笑った。
「つまり、私は君なんだ。君が自分は立派な人間じゃないと自分を定義すると真実は見えなくなってしまう。煙草を吸おうがお酒を飲もうが、悟りをひらいてなかろうが、自分を観念のなかに閉じ込めたらいけない。すべてを捨てて自由になるんだ。すると、真実が見えてくるよ」
僕が神さま…?
また混乱してきた。
「僕が神さまってどういうことですか?そんなわけないですよ!僕は最低な人間です。仕事もしていないし、お金もないし、いい年して親孝行もできていないどころか親に心配かけてしまっている。こんな人間が神さまなわけないじゃないですか!」
「思い込みを捨てるんだ。すべての観念を手放すんだ。一体誰がそんな人間が最低だって決めたんだ?君たちが勝手に作り上げたイメージだろう?なにかに基準を置いて良い悪いで判断しないこと。視点を変えたらなにが良くてなにが悪いかは変わる。そんなものに惑わされないこと。真実だけを見るんだ。君はさっき私がイカサマをしているときに彼らに私のイカサマを教えようとしていたよね。それは彼らにとっては有り難いことかもしれないけど、私にとっては迷惑なことなんだよ」
やっぱり聞こえてたのかよ…
また、神さまは笑った。
「なにが良い悪いなんて立場が変われば変わるものだよ。時代が変わればまた変わるし、土地柄によっても変わるだろう。神さまだって路上で生活したりもするし、貧困に苦しむこともあるさ。フィルター越しにものごとを見るのではなく、真実だけを見るんだ。それじゃあ、今日は十分儲けたしこれでお開きにしようかな」
神さまがそう言うと再び時間が動き出した。
「くっそー、今日はついてないな。もうこれで今日は終わりにしようや。」
賭け事をしていた男たちの1人がそう言って、彼らは解散した。
神さまも彼らが家に向けて歩き出したの同時に何処かへと帰って行った。
神さまはどこに帰るんだろう…?
家とかあるのかな?
神さまの家は天界の豪華爛漫な宮殿だろうというのは、これも僕の思い込みだった。平屋の一軒屋かもしれないし、魚屋の2階を間借りしているのかもしれない。
「真実だけを見るんだ」
神さまのこの言葉を思い出し、何度も心のなかで呟いた。
いつの間にか夢が終わり、僕は目が覚めて自分の部屋のベッドの上にいた。
「不思議な夢だったな」
なぜか涙が頬を伝って流れてくる。あれ?なんで…?
僕は、すごく満たされたような、温かい感覚に包まれていた。
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