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小説を読み続ける理由

 いつから眠っているかもわからない冷凍のホットケーキを引っ張り出して口に放り込む。食べることと眠ること以外に身体が動こうとしない。いつもより時間が長く感じた。YouTubeを開いて再生速度を0.75倍にして動画の時間を無理にでも長くする。動画の時間は長くなっても現実の時間が進むスピードは変わらない。それがかえって時間の長さを強調してしまう。

 何もしなかった日曜日。そんな事実を塗りつぶすようにデスクに座って本を開く。主人公は水道の蛇口から落ちる水滴を数え、最後に洗ったのがいつかわからないコップを眺めて、1日が終わるのをただひたすら待っていた。

 わたしと同じだ。現実には存在しない文章から生まれる誰かと同じ気持ちになる。ただそれだけでなぜか心が軽くなった。現実では言葉にすらできない心のありのままを小説を通じて、会話する。わたしが小説を読み続ける理由がわかった気がした。

 そんな気づきのおかげで何もしなかった日曜日を黒塗りする必要は無くなった。堂々と新しいことに気づけた日。そう書き残す。


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