宇宙のタネ⑦

「私の身体を使って、今度は貴方がメイン操縦者として他の者達と一体となりこの身体を使うのです。」

リーダーの意識空間が薄れていった。存在するがより薄い存在感へ変化した。

私の感じ取れる範囲の自分自身のテリトリー、つまり魂という乗り物に、ここに居る他の者達が、そこに集結し存在している状態になった。

皆の視線が私に注がれているようだった。

これまでに感じたことのない、個の感覚。濃縮された内側の感覚。

これまでは、自分の内面に引きこもれば、外の世界も他人も、シャットアウトできる避難所のように感じていた。

その内面のシェルターという場所に、見ず知らずの他者が多数同時にそこにいるのだ。区切りがはっきりせず、境界線が流動的にあるようだ。


心がざわつく。

他人・・・いや、ほかの個体の存在の密度を肌で感じとる。それは、真夏の熱帯夜の空気のようだった。

皮膚感触とまとわりつく気体。隔てるものは皮一枚。なのに意識せずにはいられない。


それぞれの個が、自分という個に重なり合って居るようだった。密着しているようにも感じ取れる。

それは、融合とも言えた。マーブル状に皆そこに纏まっている。中心点には私がいるのだ。

リーダーは融合した私たちに

「では貴方が操縦者として、舵取りし車の操作をさせてみましょう。

車と石と我々の連動が必要になります。

メンバーのなかでもベテランの者を誘導し、その者のスキルをあなたは読み取り、このボディに再現し、走行させてみましょう。

いいですか?どんな時もあなたがメインです。

たとえ、ボディが他人のものでも、スキルが他者のモノであっても、あなたには共有する価値があるのです。

あなたがいるから、今が目の前に有ることをわすれずに。

命ある存在すべてにそれは、あるのです。

その上ですべてを、あなたの全てを委ねるのです。

信じる心をあなたが再現する。


それがメイン操縦者、一体となる者、なのです。

じゃあ、やってごらんなさい。」


リーダーは、私の魂と融合した者達の中から、ベテランを指し示した。

その者は、すっと私のまえに向かい合った。


「お願いします。この車の操縦を、皆をのせて走行するスキルをかしてください。」

精一杯の心で頼んだ。

「はい。喜んで引き受けましょう。」

そして、私とそのベテランはさらに深く融合した。


ベテランの感覚体が私の意識とリンクして行く。

知識が経験が流れ込んでくる。魂の情報の書き換え、ダウンロード。そういったことのようだった。


自分の中にあった”当たり前が当たり前じゃなくなる”そんな喪失感も伴った。


車が稼働し始めた。

リーダのボディの視野は、チャクラのような感覚体を通して、メンタルな要素さえもここにいる皆に共有されていた。

第6チャクラのサードアイはまさに皆の共同の視野情報となっていた。

「もしかして、チャクラは他の生命体との情報共有機関だったりするのか?」

リーダーは何も答えなかった。


手首には「555」ではなく、「999」という数字がならんだ。

”おわり・サイクル・使命”


"  今    私  "


自分の左から皆のエネルギーが入り込み、ハートが勢いよく回転した。車輪のように。

頭上には右回転と左回転の輪が2つ重なり合い石臼のように鳴り響く。

そして、右がわから、皆と自分の統合されたエネルギーが放出されていくのを感じた。

とてもしっかりとした金属音で、迷いのない鐘の音のように。




そこにいた者達が「999」に意識を集中させる。

私も集中する。


私に皆が集中してくる。

その流れの中で、左から右へと逆回転する中心点で浮かび上がる言葉。

”受け取る” ”転換する" "書き換える"

そのとき、他の者達の「それぞれの常識」が私に合流してきた。

それは、個人たちのささやかな日常の記憶の鱗片。

地球での当たり前が、わたしの日常で培われてきた常識がゆらいでいく。透明になってゆく。ゆるんでゆく。

そのどちらもが折り合わさってゆく。

わたしの当たり前として存在していた常識という意識には、ところどころ緩みがあった。

そのゆるみにそって、機織りの編み物のように、縦と横の網目に"他の個"が入り込み、新たに縫い閉じられていくように、隙間なく新しい密度の高い織物へと変化していくかのようだった。

私の中にあった常識とは

木は話さない。山は動かない。星は太陽が沈んだあとに見える・・・そんな当たり前なことが、一挙に退けられた。

「これまで見てきたものはなんだったのか?何をもとにそれらを信じたのか?」

もはや、もとの私とは一体何者だったのだろう?


密度が高くなるにつれ、自分が空洞になっていくようだった。

しかし、その空洞という空間はかつてないほど個人だからこそ、作り得ることのできる甲殻的なシェルターのようなものに思えた。今まであったものよりもさらに質が向上している。

「何者でもなかった。まるでそれが答えのようだ。そして、これからも、何者にもなろうとせずともいいのだろう」

漠然とした思いだった。しかし揺らぐものはなく、シンプルに強固。

ベテランの意識はすでにその状態が作り上げられていた。魂に触れた時

そこには静寂しかなかった。

静寂が999とともにあり、

ベテランが全てを私に解放し、自分の得手きたスキルや知識を交換条件なしに、捧げる姿がそこにあった。

静寂と暖かさがあった。平和だった。そこに、自分と他者を隔てるものはなにもなかった。


「これは・・・奉仕だ」

”与えること”の最善を見たような気持ちになった。

今体験していること全て、正しいかどうかの判断より早く腑に落ちるように納得した。言葉をこえた理解があった。

なぜならば、私自身が”奉仕””委ねる”の意味をこれまでなんども頭で思い浮かべては「それは嘘にすぎない」と拒否してきたことがあったからだ。


それがいま、常識がふるい落とされ、まったく未知の命と共鳴している今、その者の存在自体が、すべてを物語っていた。


少しづつ自分の知識の経験の幼稚さに惨めさを感じ始めた。

「ああ、自分はなんて小さく情けないのだろうか・・・」



”終わらせなさい。同時にあたらしくなりなさい。その有りようがわたしなのです”

わたしのゴーストの声。

終わらせる・・・この今までに蓄積してきたものを執着せずに解放させる・・・

新しく・・・受け入れる。

古い私を受け入れ、認め手放し、新しいモノをうけとる。


ああそうか。日々の日常にもそんなサイクルがあった気がする。

小さいサイクルと大きなサイクルがあって、その中に、間に常に私はいたのだな。

こんなわたしに力を惜しみなく貸してくれる・・・

自分はなんて非力で、何もできないのだろう、何者でもなく、ただここに居る。でも力を無条件で貸してくれる。

何かやるべきことがあって、ここに居る。ここで未知の体験をしている。

”どれも、私の望み”

理由や意味がわからなくても、存在することに世界があって、ここにいる皆の個々の宇宙がともにある。

「無力は無限のように素晴らしい。」

今体のない私に形のない涙がつたう。

地球で肉体をもってすごした日々を思い返す。

同時に他のもの達の日常もリンクされて行く。

自分へ入り込めばその分だけ、他の世界とも繋がりが深くなる。



「自身の中にすべての学びはすでにあるのです。日々の生活の中にも」

リーダーの声だった。


”開きなさい。私自身の全てを相手に。世界に宇宙に”

宇宙のタネ⑧につづく


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