宇宙のたね②

”僕”と会話しながらもコンシェルジュの指定した目的の水槽前に着いた。水槽のガラスに手を伸ばす。指先が触れる。

彼は、脳内にある映像を思い浮かべる。
それはQRコードのようなモヤモヤした画像だった。

目を閉じて居ても見える、映し出される、いわゆる第三の目を使っているのだと私は直感的に思った。

彼の肉体にはいることにより、彼の使える能力をいうものを実感した。知っている五感が二次元的だとしたら、バーチャルな立体感のある感覚のように思えた。

情報が言語化されておらず、純粋なままダイレクトに共有される。

ガラスは彼の情報を、第三の目を通して表されたビジョンで読み取った。指先を更に水槽の奥へとくぐらせていく。

触れた時は確かに硬く厚こいガラスだったが、ラップの様にグニャリと柔らかくなりその先には液体の感覚があった。

彼はそのまま「解」とイメージをする。さらに中の液体に向かってその指先を貫通させた。
物質と物質の境目を解除したかのようだった。

ものすごい集中力を感じた。といっても私には彼の体内の感覚を共感して居るだけなのだが。

手首まで液体にひたる。
液体は、彼の中にいる私を感知した。

私は意識だけなのだが、その意識さえもスキャニングできる様だった。
不思議だ。

『意志があれば、君はゴーストみたいな者として認識されるからね。これから顔合わせする奴らもそんなもんさ。君の大先輩たちだ。』

『それも研究?此処にきて、この星の素性がなんとなく分かったのは、あなたの記憶を私が読みとっていたのかな?』

『そうそう。やっぱり君いい感じに成長してくれてるなあ。
僕は嬉しいよ。飲み込みはやそうだ。地球由来にしておいてよかったよ。』

ところどころ気になることはあるが、今は聞かないでおくことにした。それに、今の私には制限があるのを彼の記憶とリンクしつつ読みとったからだ。

『今、必要なことをその時、確実に引き出す。わかる?』
『・・・。慣れるしかないってことですね。』

にしても、彼と私の関係性とは?彼と私は肉体では血縁ではない。

『僕のゴーストのタネを地球に蒔いた。
君の肉体と僕は一切関係がない。もしかしたら、君のご先祖にもゴーストの繋がりのあった者がいるのかもしれない。そこは詳しくはわからない。

けど、君はここに辿り着き僕とコンタクトし、君の魂をバージョンアップさせる。それだけの関係だ。

魂はクローンではない。自我意識を持たせ意識をある程度にコントロールできるようになることで、魂にタネが定着し進化する。そしていつか僕のもとへもどってくる。』

『長い時間、長い歴史を超えて待っていたんですね・・・』

『地球にも君と同じ様な人間は確かにいる。でもお互いはまだ認知したり、共有する力もない。それぞれがある地点にたどり着いたら、この星へ来る。
違った星の由来をもった者もたくさん地球にはいるけどね。

皆、同じこの宇宙の兄弟だ。
目指すものがそれぞれにあるんだ。

もとは同じゴーストだから。呼び寄せあうみたいにこの星に辿り着く。

地球とこの星とは魂でつながり、魂で行き来する。
地球側のタネ(魂)は発芽もせず・・・何事も知ることもなく死んでしまうこともあるし、いい線まで魂が活性化してきても肉体が消滅してしまい、またタネに戻ってしまうこともある。

いくつかの文明が終わり繰り返している間も待ち続ける。

今回君は、意識の死を迎えるか、それと同レベルの体験をしたかで、7歳以降で培った意識を一度切り替えるタイミングで、魂がこちらへ移動できるスイッチが入ったようだ。

人間は肉体の死の前にいくつかの死をのみこまなくてはいけない。特に君みたいなタイプはね。』

『隻手音声・・・』
なぜかその言葉が浮かんだ。
『両手の鳴る音は知るが、片手の鳴る音は?だね。

僕は君の星、地球の文学や哲学が好きだ。特に東と西が融合した思想が。サリンジャーは好きかい?』

『はい。シーモアはこういう世界をみていたのでしょうか?』
彼は微笑んだ。きっとそれは、とてもチャーミングな微笑みだろう。





『僕は僕で、君は君だ。君の魂のなかにあるゴーストの始まりのきっかけは僕かもしれないけど。きっかけでしかない。

僕自身は神じゃない。君の主でもない。

僕のゴーストから枝分かれする様に君のゴーストは進化し、ゴーストも君の魂に定着した。

地球では同じ由縁をもつ者は他にもいるが、自覚している者はまだ少ない。

僕のゴーストと君のゴーストは原点は同じだが、僕たちそれぞれの意識をとおしてでしか存在を知覚できない。まるで、気体を認識するようにしかイメージできない側面もある。

うまく伝わるだろうか・・・

肉体は魂の乗り物だ。魂はゴーストの乗り物だ。魂はゴーストと直接つながる唯一のもの。

そして、この星に宗教はない。』

私はなぜか彼のいう全てが、最初から自分のなかにあったことを認識した。それは、彼と繋がり続けていた為だからか。

「ご案内いたします。それと、今後のスケジュールを送信しましたので、ご確認ください。」
後ろにいたのはイカだった。いたって普通のイカが空を泳いで私たちの前にいた。
『イカか。君にはそうみえるのか。おもしろいね。その感覚リンクさせてもらってるよ。』
『え。あなたにはどんな風にみえてるんですか?』
『視覚野を共有しよう、君が見たいと念じるんだ』

見えたのは宙にうごめく水の塊だった。

『僕は今この肉体を扱って居るが、本来地球タイプじゃないんだ。君は共感覚初心者の地球人だから、よりリンクしやすくする為にこのボディにしてある。』
『あなたの本当の肉体は?』

『もう随分昔になくしてるかな。』

私は、肉体のなくなることについて考えて見た。
私の世界では、肉体がなくなったら、それは即ち死。と思って居た。こうやって借り物の体に二人そろってテレパシー会話していることも、おなじボディに居るのに見えるものも全然違う。

複雑で自由で未知な感覚・・・なのにすごく懐かしさを感じていた。

この共有の体に共にいる感覚は、まるでプールに数人が泳いでいて、水中の中で感じる自分自身と他人の泳ぐピッチの振動を同時に感じてる、その感覚となんだか近い気がした。水の中で全てが共振しているという感覚。

『懐かしいのか。』

『あなたの記憶とリンクしているのでしょうか?』
『いや。それはリンクじゃない。オリジナルだ。君だけのものだ。』

私の肉体の五感から得た記憶は、後から答え合わせするようにこの星の感覚とを結びつける理由づけしているようにも思えた。

そして沈黙が二人の間にあった。


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