宇宙のタネ⑤
『戻る地点がわからない・・・』
『時期にリーダーが迎えに来る』
石1つを回収して時間切れになった。
しかし、十分満足していた。私の人生でこれほど満足したことはない。
穏やかで暖かなエネルギーに包まれるようだった。
『その感覚を覚えておくといい。それが君の基準だ。』
暫くして、あの乗り物が二人の前に現れた。
「最初の訓練は上手く行ったようですね。回収した石をこちらのボックスへ。」
操縦席の様なシートの全面に小さな扉が現れた。扉が開いた。
石をそのスペースに置く。
「さあ、次は運転操作です。ここにどうぞ」
リーダーは後部席のほうへ移動した。
『運転?私この乗り物をどう操作すればいい?』
『いいか、さっき石と一体になってボディをひきよせた。その応用だ。』
シートに着席した。ハンドルらしい取っ手はあるが、よくある乗用車のハンドルとくらべたら、飾り程度のものだった。
『今度は石と車と僕らをひとまとめにとらえる。そのまま自分の行きたい方向へ、ビジョンを想像する。』
石の入ったボックスを見つめる。
脳内に思い浮かべる。
今自分のいる場所を感じ取る。隣に石の気配を感じ取る。先程のように。
意識がボディと石の間を暫く往来する。
「ピピピ・・・」
電子音がした。
ハンドルのような取っ手の前にスクリーンモニタが現れた。
スクリーンには「555」の電子表記がされた。
『左腕をみろ』
左の手首に同じ「555」の数字が現れた。
『上手くいった。いいぞ。なかなかやるじゃないか!
この石は555のイシだ。
555という数字の意味や概念、価値が君とこの車を連結させた。
簡単に言うと、時間と重力を固定した。
その一瞬が555と固着したようなものだ。
あとは乗車している皆も555に意識をリンクさせれば走行しだす。
適当でいいから行きたい方向へ指示してみてくれ。』
555の意味さえ深く考える間もなく、車は確かに起動し地面からわずかに浮いていたものだから”走れ””走れ”と念じる。
走行させることに集中する。だが、地面から浮くばかりで移動はしない。
そのときリーダーが
「555は変容という意味を包括している。」
とポツリと呟いた。
手首をもう一度眺める。
555の表示はまだ浮き出ていた。
5の中になにがある?
3と2、1が15・・・555の組みわせを考える。
同時に、三角形やら五角形やビジョンが浮かびきえていった。
思考に空間があるようだった。
感覚と思考と直感でみずからヴィジョンを創造しているようだった。
その空間でホログラムのように自在に姿をかえていく"555"。
ビジョンは流れるよう繰り返す
1・1・1・・1・・・3・2・5・・555・3・・三角形・・ダイヤ・・
5の法則性とともにメロディを感じた。
全てを理解してはいないが
”リズム”や”変化”が、とあるパターンのなかで繰り広げられているを思考の外側で感じ取った。
さっきまであった自分の中の穏やかなエネルギーが凝縮して個体となり、
やがて単音に変化し
5の持つリズムにセッションするように混ざりあっていく。
5という枠に自分のエネルギーが引き寄せられているようだ。
その瞬間、力強く引き寄せられた。
555のもつ普遍的な中心的な、そんな引力が発動した。
『おい、大丈夫か?意識がもどったか?上手く稼働したぞ。でかした。』
『え?私どうしたんだろう?』
車は走行していた。
『気絶していた。意識のオフラインになってゴーストが君の魂を操縦した。』
腕を見た。
表示は555の下に111、その下に222と三行表示がくるくると、上下に入れ替わりながら車を操作していた。
『なんも記憶ないかも・・・5に引き寄せられた。そのあとは・・・。』
『いやそれは仕方ない、自然な成り行きだ。今の課題は、ゴーストと君の意識を天秤のようにどちらも同じくらいに連動し外の世界にある物質の意思を読み取ることだ。』
わかるような、わからないような。なんとなくで頷いた。
『なぜ数字はゾロ目なの?』
『君の世界にもそういう現象があるだろう?今後その現象にであったら、意識をその数字とリンクさせてみるんだ。』
『何か起きるの?』
『・・・そうだな。ざっくりいうと、その数字(ゾロ目だとか)の分君の体は移動している』
?
『一体どこへ』
『ゴーストにしかわからん。
だから、主役は君だが、監督はゴーストのような、そんな設定の意味はわかるか?』
『なんとなく』
『いずれ、監督は主役になる。』
『区別がなくなるの?私とゴーストの?』
『なにが正解というのはないが、そのようにもみえるかもしれないな…。
君の世界の住人たちのほとんどは、台本も放り投げ、主役さえ放棄し、酷い者は、客席へ着席し始まらない舞台を悲しげに見つめている。
監督はキューをずっとだしているんだけどね。
そういう者もいれば、自分の役を演じ監督と一心同体にまでなり呼吸さえ役として捧げている者もいる。
依存や洗脳ではない。偽善でもない。
一つの真実に監督と主役は寄り添いシンクロすることも可能だ。
でも、今の君は石の持つ555にも、君自身のゴーストにも、意思をたてられなかった。
君に足りないのは』
『自身の理解』
『まあ、それも。全体を感じ、おなじくらい一つの中心にフォーカスするんだ。これも、天秤のイメージだ。個と全。
君は個人主義よりだ。全体主義をたたきたい、そう想うことがあるだろ。』
『そうかもしれない。主義自体が嫌いだけど』
『そう、嫌いだ。主義がきらいだ。
嫌いな事柄は天秤の軸になる。
つまり、偏りがきらい。避けたい。
主義は偏りを意味もしている君はそう考える。
主義に偏らない程度で、君が個人主義よりなのは、
”あたりまえ”を叩きたい批判が奥底にある。
君の人生に”あたりまえに裏切られた記憶感情”があるからだ。』
黙って彼の説を傾聴する。
『人生におこる経験はゴーストの意志だ。
原因と結果。
しかし、それも一つのステージでの演出だとしたら?
役者は監督の意志、そう台本の裏の裏まで通じていなければ何も動き出さない。動かせない。
主役は動かすためにある。そして動くため。
中動態の在り方だ。
自ら動かされ、
"動かす意志"
を、演技という表現のスキルを使う。時に超自然に。』
『ステージは、螺旋状のだだっ広い舞台装置。何度も同じ方位にもどる。戻ってきた時に、これはデジャブか?と思う。
でも、それは上昇であり、地下への深みでもある・・・』
私はなんの考えもなしに答えた。
『・・・。君は今ゴーストと歩調を合わせた。今。』
彼はつづけた。
『これは特別な能力なんかじゃない。人はだれしも、命あるモノ全ては命の流れとリズムとともにある。
形ある全ての自然にも。
宇宙の普遍と繋がりあって流れにのって奏でている。ヒトよりもっと純粋な意思を秘めている。
音のない、音ではない、そのような旋律を聞きとれるセンサーが人間にはある。
大きな流と音符を繋ぐのは純粋な感情だ。情報の原型だ。
それらを読み取りその流れ、メロディに乗ることができる。通じ会える。
その事象は石の回収でも、今の車の操縦も君の中で、体感し言語化させられた筈だ。
ここまで話したことは、僕の自由な発想にすぎない。誰しも理解できるとは限らない。
真実や普遍の欠片は、その人個人個人に理解できる姿であらわれる。
だから、そのまま他人へテンプレートできない。
したとしても、模写にすぎない。
メタモルフォーゼにもとどかない。
今横行している言葉の育みや扱いはそれに近い。
君はゴーストと繋がり、本当の黄金の言葉を学ぶんだ。
その学びで君の見える世界を書き換えるんだ。
そこまでできる頃には、ゴーストと同時に存在するようになるだろう。』
一息に語り尽くすと彼は、静かに沈黙した。
「パートナーから一通りの解説はおえましたか?」
リーダーがそっと肩に手を置いてたずねる。
「はい。」
「次に挑戦してもらう、ボディからボディの移動の訓練ですが、この車の操縦よりもまた一段と難しい。
ですが、是非あなたには、そこまで挑戦してもらいたい。
しかし、今回の段階でそれを習得することはおそらくできないでしょう。
経験してもらい、その習得のためのプロセスを自分の日常に落とし込むために行いのが目的です。」
左手首に電流が溜まっているようにビリビリと感じた。
何かの流れだ。
血液か?肉体と魂の摩擦なのか?
わからないが何か自分の肉体から開放されるのを待っているようだ。
外へと。
そして、また
外ら入るものを受け入れようとしていた。
自分の意識より先に魂は理解し、私の感覚へそっと教えてくれている。
『あぁ、そうか。六感すべては答え合わせのためについているのか。』
⑥へ続く