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おーん。
2022年1月20日 23:14
佐々木は足早に店内から0のいるテーブルへもどってきた。「お母様に連絡いたしまして、今夜7時に食事でも、と申しておりました。0さん、お時間は大丈夫ですか?」「はい。大丈夫です」「その際に、0さんとお母様のお二人きりになりますが、それも問題はないでしょうか?」「はい。」「そうですか。では、その旨、私からまたお母様に連絡しておきます。時間は19時、こちらの場所で待つそうです。」メ
2022年1月20日 22:55
0は後ろから肩を叩かれた。振りかえると、小柄で、人の良さそうな顔つきの女性が立って居た。淡いグリーンのワンピースにネイビーのジャケットを羽織り、にこやかに微笑んでその人はいた。「0さんですよね、穂村かぞえさんご存知ですよね。」0は何か嫌な予感を感じた。「はい、母ですけど。」疑うような眼差しで、その女性を見つめる。細い目の隙間から黒いレンズが0を捉えて佇んでいた。「娘さんの
2021年12月29日 16:41
りんごの皮むきをしていた。7歳のころには0はりんごの皮むきが上手だった。果物ナイフで器用にりんごの側面に角度を合わせ左手の指先の位置をずらしていく。誰かの為に、りんごを剥いたことはない。皮むきを初めてしたのは6歳の頃だ。多分生まれて初めて自分の為にやろうとした行いだ。祖父母の家で暮らす前の頃。当時暮らして居たマンションには、菓子パンとりんごが、いつもリビングにあった。りんごが
2021年12月28日 22:36
「ねえ、新しいワンピースこのオフホワイトのかボルドーどっちか、迷ってるんだよね。1はどっちのが好き?あたし、1の好みに全然あわせるよ。」1はスカーレットの色についてぼんやりと考えて居た。暖かく、鮮やかさより深みと融合を感じる赤。それについて考えていた。マリの声に遮られても、考えは中断しなかった。俺は、あまり赤って好きじゃないんだけど。なんでこんな事を考えて居たのか?「ちょっと、
2021年12月24日 21:32
訪問者は日常の外側にいる。けれど何時もそこに居る。片方の手のひらを差し出し、虚空のなか打ち合う音を聞く時、我々は同じ空間にいる。隻手。その境地にいる者なのかもしれない。僕らは、見ようとする。何時も絶え間なくある音を聴くのも忘れて。音は純粋な情報だ。見る事よりも先だ。音は形をつくる。作られたモノを僕らは見つける。そして心が動くように思う。心は、音を聞いた瞬間に分かっていた
2021年12月22日 10:31
僕はずっと誰かの感情がわからなかった。いや、わからないフリをしていた。いつからだろう?それを考えるといつも想い出す記憶がある。ずっと昔。まだひらがなも書けないくらい幼い頃。誰かが泣いていた。ああ。弟だ。痛いな。弟のすすり泣く声に僕の体が痛むのだ。「どうしたの?痛いの?」弟は壊れた壁掛けのカラクリ時計を指差して「壊れたの」 と言う。「壊れたから悲しいの?」
2021年12月21日 21:06
私の思いは、いいえ。夢は自分の存在ごと消え去ること。別れた恋人の家にわざと自分の持ち物を置いていく女もこの世界にはいる。わたしは相手に残った、私の記憶ごと消し去りたい。心を深く通わせた人ほどそうだ。私という者の痕跡が一切残らないように消え去りたい。 自殺願望じゃない。 一切を、この世界のすべてと私を切り離しておきたい。境界線をきちんと自覚する為。それが私が幼少の