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2022年の自選短歌30首

このごろは言葉も横に流れゆき吹雪のように頬を冷やした


自転車で椿を踏めば痛いって思う ニュースに今日の死者数
ただ花を愛でるばかりのひとと居る耳のうぶげの見える近さで*
バスの来るはずのベンチで目を閉じて遠い車体の軋みを聞いた
ストッキングつまんでできた空隙はわたしの肌の続きだろうか
火事を見た面持ちのままコンビニへ入れば命だったものばかり
夕暮れにごぼうを切った手のにおい生きてるぽくてくり返し嗅ぐ
たましいのあるもの皆に責められる心地 こけしも裏側にして


怒りつつたんぽぽを吹く次の春たんぽぽ多いな、と言うために
日の高いうちの入浴まはだかの腹にあかるい石けんを置く
夏の日の蟻のゆく手に飴を置き蟻の絡まるまでのしずけさ*
イヤホンを耳から逃がす 夢を説くあなたの歌が街にこぼれる
ストローの口を離せばゆっくりとメロンソーダは夏へ戻った
永遠に幼魚のかたち標本の腹を出られぬウミタナゴの子
閉じられた水族館の園路から草は芽吹いてここもまた陸


夜というやさしい指に導かれカサブランカの蕾の裂ける
好きじゃない服を着て寝る なぜ今夜死ぬことはないと思えるのだろう
私にもピンクが似合うと知ってから生き易くなる 戻れなくなる
平等で正しい水を吐くことに疲れたのだろう 蛇口が曇る
風向きが北に変わって夏の果てマスクに溜まる汗の冷えゆく
ゆうぐれに米三キロを腕に抱き夜泣きのころを思い出にした
一番星 いちばん先に夜を飾りうつむく人の顔を上げたい**


秋の日の死骸の蝉の爪痛くことば残さぬ生きかたもあり*
足元のくずれるさまを思いつつ女王のごとく渡る歩道橋
アクアパッツァ口にふくめば水底の古代船から幾万の泡*
島を出るたったひとつの橋を焼きあなたの横でひらく酸漿*
寿司桶の鶴の模様は剥げかけて祝いの夜をいくつ知る鳥
コンタクトレンズが落ちる眼球の曲率のまま床を歪めて
そんなこといわんといてと言いかけて飲み込む喉に西風の吹く**


このごろは真珠が似合うようになりひかりやさしい坂を下った



*2022年度NHK短歌入選または佳作
**ネットプリント『#SideM短歌 315プロ49人詠んでみよう!』より
その他は短歌結社誌『未来』より


久しぶりに店の焼鳥が食べたいです!!サポートしてください!