2021年の自選短歌30首
香水の棄てかた知らず歴代のわたしが並ぶ 古びて並ぶ
フランク・ロイド・ライトの椅子に浅く掛け天に脳を吊られるごとく**
敗戦は戦わぬものに訪れずスノードームの内の静けさ**
ひと冬で死なせた鳥の小さくて鋭い爪で怪我したかった**
似た意見だらけの世界を約分し1だけになる とてもさみしい
プディングのゆれる周期で覚悟などふらつくものと知っていたなら
治外法権のこころをスプリングコートの内にはためかせ笑む
エアコンの効かぬ倉庫にマネキンをなるべく詰めて日給を得る
解体中のビルに水撒き虹の出るこんな終わりがよかったのにな
寺山の海の短歌にふせん貼り書架へと放つ夏の図書室
ゴーフルの缶にリボンの束 ママも少女のころがあった いやだな
いつか読む本に埋もれて朝顔はひとの居ぬ間に螺旋をほどく
ランナーの手と手をつなぐロープ揺れふたつの影が共に越す夏**
パンでなくライスを頼む父のこと許せた日から父が小さい
剥き出しでCDを置く助手席に"I miss you"が乱反射する
まっすぐに帰れば月がついてくる恥ずかしいからコンビニに寄る
シャンプーは底に残ってしまうからいつもかなしい 役立てるのに
ポケットに残る半券やわらかく崩れて春が思い出になる
大ぶりのカフェオレボウルにシードルを注いで宇宙が消えるなら今
ビクター犬のおでこあかるい冬の日に水仙歌う地のあたたかさ
包丁に薄いようかん張りつけてこのまま夜を待たせてほしい
人形のつむじは無臭 真夜中のとなりの寝息確かめている
木のほうがあったかいねと皆が言いプラスチックは静かに泣いた
椅子ふたつ重ねたときに軋む音してさん付けのままの睦言
ぐるんぱのなみだおおきいあれくらいきちんと泣いていればよかった
ボイジャーは船と異なる形してどの船よりも遠い片道
リコリスの味の記憶を消してからあなたの髪をひっそりと吸う
アクセルを踏むローヒールほとんどの旅は意志とは違う終わりで
快晴の気温0度の朝に干す枕 夢なら飛んでみせなよ
バスのあとにバスが連なる駅前でいつか行き先分かつから、手を
*NHKラジオ文芸選評2021/4/24放送
**2021年度NHK短歌入選または佳作
その他は「未来」掲載
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