#みらいプラザを読むー未来2022.6月号
0.そもそも『未来』って何、『みらいプラザ』って何?
「未来」は「未来短歌会」という短歌結社の、月に一回発行される結社誌です。結社といっても世界征服を企んでいたりはしません。短歌をやりたい人が集まった同人グループのようなもので、結社ごとにカラーはありますが、歌会をやったり結社誌を作ったりという基本的なことは共通していると思います。「未来短歌会」はそんな短歌結社の中の一つで、たぶんそこそこ大きいほうです。何しろ毎月の結社誌が背幅1センチくらいあるので……
それだけページ数があると「一ヶ月で全部読めないよ!!」となりませんか? 私はそうなります。まず選者の方々の歌を見て、自分の所属する欄のページ見て、あとは勝手にファンになっている人たちの歌を見て、エッセイや評論、書評を読んで……で力尽きることが多いです。しかしそれだと他の欄の方の中から好みの作者さんをいつまで経っても見つけられない。何だかもったいない。そこで、個人的に「 #みらいプラザを読む 」というのをTwitterで始めました。
「未来」誌には毎月、「未来広場 みらい・プラザ」というコーナーがあります。これは各選歌欄から選抜された「今月いい歌を詠んだ人」の作品が載るコーナーです。(で合ってますよね?)ということは、ここを読めば各選者のおすすめ歌人の作品を毎月把握できるのです。毎月このコーナーを真面目に読むことで、自分の所属欄以外の人と作品を少しずつでも知れるのでは? ということで、毎月のみらいプラザからお一人につき一首ずつ引いて、感想をメモしていくことにしました。
「#みらいプラザを読む」は今年の3月号から始めて、今回6月号で4回目になります。3~5月号分の「#みらいプラザを読む」もTwitterの再録になりますが今後随時noteに掲載予定です。
また、ここまで読んで「欄って何」「選歌欄とは」と思われるかもしれませんが、それについてはまた次の「みらいプラザを読む」まとめで書きたいと思います。
1.6月号のみらい・プラザを読む
春塵や瓦礫の街を眺めつつ粉ふいた脛掻きむしりたり
/後藤泉
画面越しの瓦礫の街に対し、ただ見ているしかできない歯がゆさで乾燥した脛に爪を立てる。春塵と粉ふく肌とがリンクしている。街の痛みを自分の体の痛みに無意識に変換してしまう感じに共感しました。
一日で更地となった角の家なくなることが存在である
/小野美紀
風景の一部として特に注目したことのなかった角の一軒が取り壊され、その時はじめてその家を認識する。この現象は建物に限ったことではないようにも思えます
いるはずもなきカッコウの声がする雪てんてんと降る空の奥
/工藤光子
雪の降る空を見上げていると空の深さがわからなくなります。いないはずの鳥の声を聞いてしまうことで、空の奥行きが更に増すような一首です。
どの家もユダヤ人らが住んでゐた今年は薔薇のつきがよいとふ
/西田リーバウ望東子
「今年は」のひと言で、ユダヤ人がその界隈に住んでいた頃から現在までの、積み重なった年月に思いを馳せてしまう。巧みな歌だと思いました。
帰りたい気持ちはどこから来るのだろうハモニカ、春の唇につめたく
/さとうはな
ハーモニカ、金属だから吹きはじめはひやっとしますよね。少し懐かしい楽器が望郷の念に繋がっていくようで、ハーモニカで吹いた曲もこども時代に習ったものなのかも、と想像が膨らみました。
春くれど一人発語の時間増しアニャムラナニヨ今日は曇りだ
/さかき傘
冬の寒さが過ぎて活動的な季節になっても誰とも会話せず、一人で言葉を発することばかりという孤独な生活が見える。アニャムラナニヨ、という意味を持たない音の繋がりが絶妙に軽くていいなと思いました。
ロシアから来たナターシャは同い年ともに蜜柑を剝いたりもして
/紺野ちあき
日本でもみかんが採れるのは温かい地方だから、ナターシャは生まれて初めてみかんを剝いたかもしれない。今はどうしているのだろう、みかんと日本、そして主体のことを思い出す日もあるのでしょうか。
イヤホンを耳から逃がす 夢を説くあなたの歌が街にこぼれる
/西藤智
前向きな音楽に力を貰えるのは確かだけど、眩しすぎてしんどい日もあるんですよね。そういう時はちょっと街にこぼす。 (今月分から自分がプラザに載った時は自作の紹介もします)
悲しみを教えてあげる子の肩にポニーテールを低くずらして
/坂名かな
低いポニーテールってなぜさみしい感じがするのだろう。二句切れで読むか、「教えてあげる」が「子」 にかかる形で読むかで迷うが、ポニーテールを下げることと悲しみを結びつけたことが好きです。
おしなべて料理をしない人たちが口出しするから鍋は嫌ひだ
/秋田哲
ストレートに歌意の伝わる歌。こういう歌はきっと、修辞を凝らすより「嫌ひ」と言ってしまうのが気持ちがいい。
ひまわりは一本一本くっきりと俯かないで立つ花だから
/庄垣内淳子
直接的な表現はないけれどウクライナ情勢を詠んだ一連より。いまこの歌題で詠むのは個人的には難しいなと思う。そんな中でこの連作は「それでも今これを詠まなければ」という意志を感じました。
南極はそれでいいのか太古より溶けない雪を腹に収めて
/寺山恵
南極には古いものだと80万年くらい前の氷/雪があるらしい。そんな長い年月を重ねた暗く冷たい塊があることに、得体の知れなさだけでなくほんのりとあこがれも感じてしまいました。
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