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空との約束【てのひら物語シリーズ】
草原に、小さな花が咲いていた。
花はか細い茎で、そよ風に吹かれてゆさゆさと揺れていた。
花は空を見上げるのが好きだった。
特に青い空がとても好き。
ある日、花の蜜を吸いにきた蝶が言った。
「あなたと空はとてもお似合いね。特に青い空に、あなたの色がよく映えるわ」
花はとても嬉しかった。
毎日毎日空を見上げた。
そんなある日。
空が、花に話しかけてきた。
「君は、いつもわたしのことを見ていてくれるね」
花は嬉しくなって言った。
「うん、青い空が大好きなの!」
空はゆったりとした声で答えた。
「ありがとう、でもね、これがわたしのすべてではないんだよ。わたしがどんな姿になっても、君は君らしくいてくおくれ。どうか、負けないで」
花は、なんのことだかわからなかった。
でも大好きな空に言われたことだから、ただ素直に頷いた。
次の日。
空は仄暗いく重たい雲に覆われた。
もう青さなんてどこにもなかった。
ぽつりぽつりと雨が降り始め、それはやがて激しい豪雨となった。
草原は水浸しになり、草花や虫たちは悲鳴を上げた。
風もひどくなっていった。
茎にしがみつききれずに流されてゆく虫たち、
水たまりで根が腐って枯れてゆく草。
花は必死で耐えた。
激しい雨と風に、花びらは何枚か抜け落ちた。
根っこ周りの土が流されてぐらぐらするから、必死で踏ん張った。
細い茎が風に煽られて折れそうになって、必死で
養分を吸い上げて固くした。
豪雨は、三日三晩続いた。
4日目の朝。
何事もなかったかのような真っ青な空がそこにあった。
花は、花びらが何枚か抜け落ち、根っこは一部が露わになって、体中が傾いていた。
ボロボロだった。
「わたし、約束守りました」
花は空に言った。
空はにっこりほほえんだ。
「ふぅ〜ひどい雨だった!助かったあ〜!」
いつも蜜を吸いにくる蝶がヒラヒラと現れた。
そして、花を見るとこう言った。
「あら、今日のあなた、とっても綺麗」
「ありがとう。でも、わたしボロボロな」
花は言った。
蝶はにっこりしてこたえた。
「ううん、今のあなた、宝石みたいよ」
そう言うと蝶は、ヒラヒラと舞い上がり空に吸い込まれるように去っていった
花の上には水滴がついていて、それらがキラキラと輝いていた。
水滴をよく見ると、そこには逆さまに映った青空が見えた。
風がふいた。
花はもう、前みたいに弱々しく揺れなかった。
ただまっすぐ、空を見据えて、ぴんと立っていた、
日差しは眩しく輝いていた。
草原に、もうすぐ夏が来る。
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