火加減はいかがですか #15

早いもので、一人暮らしをしてあともう少しで12ヶ月目に突入する。

色々あったし色々あるから、東京という場所で音楽で暮らしていくために始めた自炊生活。もともと小さい頃から父や母の料理の手伝いをしていたり、料理番組が好きすぎてテレビの前でかぶりついて見ていたりしたので、根っからの料理嫌いではなかったが、のほほんぬくぬくと25年間実家で育ったため料理をする機会はほぼほぼなく、誰かのために作ることも多くはなかった。

料理は誰かのためにするものだと思っていたけれど、自分のためにすることでいいこともたくさんあった。

それこそもともとは好き嫌いも食べず嫌いも多く、とにかく野菜が苦手。ちょっとした味変も苦手。わかりやすい味付けで米・肉・菓子を食べるのが大好きだった。昔はなんとも思わなかったけれど、いい歳になり仕事で美味しいご飯をご馳走していただく機会が増えてくると、好き嫌いが多いことが恥ずかしく感じ、相手にも気を使わせてしまうと痛感したため好き嫌いをついに克服にかかった2021年。

結果、好き嫌いを克服する1番の近道は自炊だったような気がする。

幸い、例え味が濃過ぎても薄過ぎても、焼き過ぎても生焼けでも、自分で作るご飯がとてつもなく美味しいと感じてしまう幸せ体質のため外食には一切興味がなくなり、毎日自炊できる心の余裕があるときに楽しく作っている。


少し料理の腕も上がった。


先日料理をしているときに、料理上手ってどういうことを言うんだろうとふと思った。私の身近に料理が本当に上手な大先輩がいて、いつもその方のおうちに遊びにいくとたらふく美味しい料理を食べさせてくれる。私も家に帰って同じように作るのだけれどイマイチなこともあり、どうしてレシピ通りに作って分量も手順もきちんと守っているのにうまくいかないんだろうと思った。特にお菓子作りは好きだけれどクッキー必ず焦がしてしまう。

そしてその結論は最近になってようやくはっきりとわかった。


料理が上手な人は火加減が上手。


火が強すぎても弱すぎても、煮込みすぎても生焼けでも美味しくない。分量をきちんと量ることは誰にでもできるけれど、レシピ本には正確な火の加減はどこにも書いていない。 "中火"は思った以上に強くないと言うことも自炊をして学んだ。


世の中にあふれるもの、ことすべては火加減である。想いが熱すぎても、冷たすぎても、言葉や想像が強過ぎても弱すぎてもいけない。

人間関係がうまくいっている人や、物事をうまく捉えて前に進んでいける人は、みんないい火加減だ。一人暮らし11ヶ月目を全う中の私は、今弱火寄りの中火くらい。



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佐野仁美 -Hitomi Sano-
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