WWDC2024~Appleの目指す「AI」とは
2024年6月11日、恒例のApple Event「WWDC2024」が開催された。
WWDCとは「Worldwide Developers Conference」(世界開発者会議)のことで、毎年6月に行われているイベントである。
Appleの新製品や最新技術、ハードウエアやソフトウエアの開発における将来の見通しについて、世界中の開発者や技術者に発表するということで、世界中から注目を集めている。初めの基調講演が日本時間で午前2時ということで、日本人には優しくない時間帯ではあるが、それでもリアルタイムで基調講演を聞く人も多くいたはずである。今年は5月にiPad Pro(M4)の発表、発売があったこともあり、新製品の発表といえば、すでに海外で先行販売されている「Apple Vision Pro」が日本販売されるくらいであった。先行発売当時から多くの日本人によるレビューも上がっており、販売価格も予想通り約60万円と裏切られる部分が何もなかったのは残念であった。新型Macbook Proなどは9月以降に持ち越しだろう。今回の発表の中心は次期OSと「AI」だと思うので、この2点についてみていくことにする。
iPhone向けの次期OSこと「iOS 18」では、ホーム画面やロック画面、コントロールセンターのカスタマイズ性が大幅に向上するようだ。ホーム画面では好きな場所にアプリやウィジェットが配置でき、またアイコンの色合いもダーク系や壁紙の色合いに変更することができる。コントロールセンターでは、スワイプでグループを切り替えたり、他社製アプリを追加したりすることもできる。iOS 18では衛星通信経由のメッセージの送受信が可能で、iMessageやSMSでテキストや絵文字、Tapback(リアクション)を送信できる。また、アプリに個別でパスワードを設定できる機能も導入され、セキュリティ向上を目指すようだ。
iPad向け次期OSである「iPadOS18」では、待望の計算機アプリが導入される。このアプリは電卓としてだけでなく、ユーザーが数式をタイプ入力、または手書きで記述すると、その答えがすぐに表示される「計算メモ」機能が搭載されており、ここでもAI機能が活用されているようだ。iPhoneには計算機アプリが標準搭載されているのにiPadでは非搭載だったことが不思議であったが、やっと搭載されるこということで喜んでいるユーザーも多いだろう。試しに手持ちのiPad Pro(M4)にiPadOS18ベータ版を入れてみたが、ちゃんと計算機アプリが入っており、使い勝手は悪くない。手書き入力も試してみると、計算式の最後に「=」と書くと答えが出るので、ペン入力に慣れている人であれば電卓アプリよりも使い易いと思うが、反応速度が遅いのが気になる。簡単な四則計算(+-×÷の計算)でも1テンポ遅れて答えが出る。手書きの認識は通常の手書き入力と差は感じなかったので、内部処理の遅さだと思うが、AI処理に強いM4でタイムラグがあるのが気になった。ベータ版なのでチューニング不足なのだろうと思いたいが、秋の正式リリースでは改善してほしい点である。
あと、これは個人的な不満になるが、手書きで入力できる数式が電卓アプリと同じものしか使えないという点である。せっかくの手書きなので自由度があるものだと思い、積分や微分といった電卓アプリに設定されていない数式を書いても反応しなかったのである。AI処理なので、その点は学習次第で対応できると思うが、リアルタイムにネット上のデータを学習するのではなく、リリース段階で与えられた学習モデルに固定されるのは現在の技術では仕方がないとしても、手書き入力が使えるのであれば、電卓アプリとの差別化は欲しかったと思っている。iPadを学生のノートの代わりとして利用することも想定するならば、理系学生のニーズにも答えてくれるとありがたい。
もう1つiPadOS18で興味深かったのが「Apple Pencil」による手書きを美しく整えてくれる補正機能「スマートスクリプト」である。今までは手書き入力した文字をテキストデータに変換することは実現されていたが、「スマートスクリプト」は手書きの見た目はそのままに読みやすい字に修正をするという機能である。AppleのHPにどのように文字が修正されるかの動画があるので一度見てほしいが、多少読みやすくなるのが面白いと思った。完全にきれいにするのではない点がちょっとした遊び心をいえる。他にもiOS 18で紹介したホーム画面やロック画面、コントロールセンターのカスタム機能は、iPadOS 18でも利用できるので安心してほしい。
他のOSについても新しいversionは出るが、それほど驚く進歩がなく、修正レベルだと個人的には思えたので、この点も残念に思っている。
次期OS以上に基調講演で強調していたのがAI機能である「Apple Intelligence」である。Appleはどうしても「AI」と略したくないらしく常に「Apple Intelligence」と言っていたのが印象に残っている。このApple Intelligenceは、iOS 18、iPadOS 18、macOS Sequoiaと緊密に統合されており、Appleシリコンのパワーを活用して、言語や画像を理解して生成したり、複数のアプリにわたってアクションを実行したり、個人的な背景にもとづいて、日々のタスクをシンプルにしてよりすばやくこなせるようにするということで、生産性を上げるAI本来の目的に沿ったものだと理解できる。Private Cloud Computeにより、AppleはAIにおけるプライバシーの新しい基準を打ち立て、デバイス上の処理から、専用のAppleシリコン搭載のサーバ上で実行する、より大規模なサーバベースのモデルまで、演算能力を柔軟に拡張できるようになるようで、これまで生成AI止まりであったコンシューマー向けAIサービスとは異なり、通常のタスク処理をサポートしてくれるものとに思える。基調講演でティム・クックCEOも「Apple独自のアプローチは、生成AIとユーザーの個人的な背景を組み合わせ、真に有用なインテリジェンスを提供します。また、Apple Intelligenceは完全にプライバシーとセキュリティが保護された方法で情報にアクセスでき、ユーザーが自分にとって最も大切なことを行うのを支援します。」と述べられていたので、個人的にも期待が高まっている。
具体的な機能としては、ユーザーが入力した文章に対して、「書き直し」を使うとApple Intelligenceによってユーザーは自分が書いた文章の様々なバージョンから選ぶことができ、読者や作業中のタスクに合わせて表現方法を調整できるのである。また、「校正」を使うと、文法、言葉の選択、文の構造をチェックするほか、編集候補をその説明とともに提案するので、ユーザーは確認したり、すばやく受け入れたりすることが可能になる。「要約」を使うと、ユーザーはテキストを選択して、それを読みやすい段落、箇条書き、表、リストなどの形にまとめることが可能になる。「書き直し」「校正」「要約」は各言語で利用できるので、母国語以外での文章にも活躍しそうである。日常利用しているアプリの中にもApple Intelligenceが入り込み、様々なサポートをしてくれる。例えば、標準アプリ「メール」であれば、受信ボックスの先頭に表示されるセクションである優先メッセージは最も緊急性の高いEメールを表示し、受信ボックス全体でユーザーはメッセージを開くことなく、各Eメールの最初の数行のプレビューの代わりに要約を確認できるようになり、スマートリプライはすばやく返信するための提案を提供するほか、Eメール内の質問を特定して、すべてに確実に回答できるようにするという感じである。他にも、メッセージ、写真、Siriといったアプリに対してもApple Intelligenceは新しい体験を実現しているので、ぜひ体験してほしい。
主だった点だけを紹介しているが、Apple Intelligenceが一番の革命的変化であることは間違いない。AIを取り込む形での進歩は各社が行っており、Googleの消しゴムマジックのように単体での機能利用はよく見かけるようになってきているが、AppleはそれをiPhone、iPad、Mac全体の標準アプリに取り入れようとしている。普段使っている人が、気づく程度の変化だとは思うが、日常的な利用での小さな不便さを解決しようという方向性はユーザー側からするとありがたい変化ではないだろうか。現在公開されいるのはベータ版ということもあり、完璧に機能しないものも多いが、AIの取り込みとしてはAppleの方向性は支持できるものであると感じる基調講演であった。正式版ではベータ版からの改修がどれだけできているかで、評価は変わるかもしれないが、それでも秋の正式版を楽しみに待ちたいと思わせてくれるものであることは間違いない。