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新幹線の自動運転~世界初の「ドライバレス運転」

9月10日、JR東日本から「新幹線にドライバレス運転を導入します」と発表があった。自動運転というと自動車のイメージが強かったので、新幹線で自動運転が導入されることに驚いた。JR東日本では、2019年から新幹線の試験車両であるE956形式新幹線電車(ALFA-X)にて走行試験を実施している。5年余りで実用化の目途がたち、導入発表ができたスピード感には好感が持てる。「ドライバレス運転」とは、自動運転のうち、運転士の乗務を必要としない運転のことをいう。乗務を必要としないということは、運転に対して、無人で行えることを意味する。

無人運転というと、神戸新交通「ポートライナー」、大阪市高速電気軌道「ニュートラム」、ゆりかもめ、金沢シーサイドライナー、日暮里・舎人ライナー、ディズニーリゾートライン、など日本でも比較的早い時期から列車の無人運転は実用化されている。世界中を見ても、アラブ首長国連邦の「ドバイメトロ」、フランスの「VAL」、シンガポールの「MRT環状線」、香港の「MRT迪士尼線」といくつか存在する。日本の国内外、どれを見ても列車の無人運転はいわゆるローカル路線での運用で、路線長もそれほど長くはない。今回発表された新幹線の無人運転区間も始めは短い区間での実施のようだ。2028年度に長岡駅~新潟新幹線車両センター間(60.8km)の営業列車と回送列車の自動運転(GOA2)、および2029年度に新潟駅~新潟新幹線車両センター間(5.1km)の回送列車のドライバレス運転(GOA4)導入という感じで短い区間からのスタートになる。2030年代中頃には、東京駅~長岡駅間に自動運転(GOA2)を導入したのち、東京駅~新潟駅間の営業列車のドライバレス運転(GOA3)、および回送列車のドライバレス運転(GOA4)導入する方向で検討がされるそう。将来的には、北陸新幹線および東北新幹線においても、自動運転の導入を目指し検討を進めていくということで、長距離の無人運転までには、まだ時間はかかるようだが、計画では、東京駅~新青森駅間、東京駅~上越妙高駅間といった区間での無人運転が実現する。

自動運転を導入することにより、安全性・輸送安定性の向上や、効率的な運転による省エネルギー効果などが期待できる。また、ドライバレス運転の導入により、需要に応じた柔軟な列車運行ができるほか、乗務員が様々な業務に従事できるようになる。人員不足による運輸業の長時間労働の是正が問題視されている昨今、長時間の連続乗務が不可避である新幹線において、無人運転が導入されることで運転士の負担軽減だけでなく、運転士の体調不良などによる事故発生を軽減できると期待される。

自動車の自動運転にはレベル1~レベル5までの段階があるが、鉄道の自動運転にも自動運転レベルがある。鉄道の自動運転レベルは、国際公共交通連合(UITP)が定める基準「GOA(Grades of Automation)」で分類されている。

・GOA0(レベル0):目視運転
すべての操作を運転士が担い、自動運転システムは一切搭載されない段階。代表的なレベル0としては、路面電車などのローカル線などが挙げられる。

・GOA1(レベル1):非自動運転
発進・停止や加減速などの操作はすべて運転士が担うが、速度超過時の自動減速や事故発生時の自動停止といった運転支援機能を搭載している段階。ただし、このレベルでは運転士と車掌が乗るので省人化の効果はなく、あくまで安全支援機能という位置付けです。踏切がある一般的な路線に導入されているため、普段目にする電車の多くはこのレベル1といえる。

・GOA2(レベル2):半自動運転
 運転士が担う操作は基本的にはドアの開閉と発進のみで、発進後の速度調整や駅での停車はすべてシステムが担当する。ただし、トラブルが発生した緊急時は手動運転に切り替え、運転士が停止操作をして避難誘導する。このレベル2から車掌の搭乗が不要になり、運転士が車掌業務を兼任する「ワンマン運転」が可能になる。導入されているのは「丸ノ内線」や「南北線」などの、踏切がなく、人や車が侵入しない地下鉄がメイン。

・GOA2.5(レベル2.5):添乗員付き自動運転
レベル2とレベル3の中間として定義されているレベルで、添乗員のみで運行することができる。添乗員は緊急停止操作と避難誘導のみを担当。

・GOA3(レベル3):添乗員付き自動運転
 車両の発進・停止や加減速などすべての操作はシステムが自動で行い、ドアの開閉のみ人間が担当する段階。添乗員は運転士である必要はなく、緊急時の停車もシステムが自動で行い、避難誘導のみ実施。千葉県のモノレール路線である舞浜リゾートラインなどがこの段階。

・GOA4(レベル4):自動運転
 係員が乗車する必要がなく、完全無人で運行が管理される。まだ導入している路線は少ないが、日本国内ではゆりかもめや神戸新交通などの新交通システムがレベル4を達成している。

この6段階のレベルの中で、最高段階のレベル4を新幹線で実現するために、新しい技術開発が必要になる。1つは、最適な運転パターンで運行する装置の開発。 ドライバレス運転に必要となる加速・減速・定位置停車のほか、臨時速度制限や臨時停車等にも対応し、自動でダイヤ通りの走行や効率的な省エネルギー運転を行うための研究開発が進められている。現在の車両には自動列車制御装置(ATC:Automatic Train Control)が搭載されている。これは、制限速度を運転士に現示で表示しながら、一定の速度を超えた場合に自動的にブレーキを制御して速度を落とすシステム。

走行区間に応じてATCパターンと呼ばれる制限速度があるが、新幹線の場合、制限速度が急に切り替わる区間がある。加速区間といえばいいかもしれないが、運転士は制限速度が切り替わったとしても無理な急加速はせず、徐々に速度を上げ、車両内の人が不快にならないように配慮をする。単純にATCパターンに合わせた速度制御をすれば、急加速になることが予想され、安全性に不安が残る。

そこで、運転士と同様の加速をするように調整された装置が必要となる。加速だけでなく減速、遅延回復、通過時間、臨時速度制御など様々な場面を想定し、運転士が今まで行っていた安全な運転を可能にするための装置をALFA-Xの走行試験によるデータをもとに2028年の使用開始を目指した開発が続いている。もう1つは、列車の異常な振動を検知する機能の開発だ。新幹線の更なる安全性向上のため、台車の異常を検知する既存のモニタリング装置を活用し、走行中の異常な振動を検知した場合、乗務員に代わり自動で緊急停止させる機能の研究開発を進められている。台車モニタリング装置(振動センサー)はすでに開発されているが、今はセンサーが検知した情報を運転士が判断して対応している。無人運転を実現するためには、センサーの情報を異常振動として検知した場合、緊急停止させる判断を装置に委ねないといけない。誤作動をすれば運行にも支障がでるので、高精度の装置が必要ということで研究開発が続いている。すでに特許申請中ということで2029年度の使用開始に向けて最終調整が進む。

今や新幹線が日常の移動手段となっている。日本国内の移動では飛行機よりも安価で利用しやすいもの。そのため、事故が起こったときの被害は甚大になる。

N700系は1両44トン(=44,000kg)、12両編成だと528トンになるので、時速300kmで走行時の運動エネルギーは、307,929,600,000 J(=約3079億J)と甚大だ。
換算すると、マグニチュード4.5、NTN爆薬73.6トンと同等のエネルギー。

これだけのエネルギーの塊である新幹線を事故発生率約0.001件/100万kmという低さで安全に運行しているのは驚異的なことなのだ。これは、JRの努力の賜物以外にない。無人運転の実現はJR側の負担軽減以上に運行の安全を第一に考えた試みだと思う。現在の安全な運行を1段階引き上げる無人運転の実用化に期待したい。

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