アメリカ帰りのイケメンは日本で引きこもりになった~自分の居場所の話
20代のころ、朝まで営業しているカジュアルなバーで働いていた。
お盆休みになると、常連以外のお客さんがふらりと入ってくる。
そのイケメンも、友人と連れ立ってやってきた、1回限りのお客さんだった。
ひと目でハーフとわかる、浅黒い肌に彫りの深い顔立ち。
黒くカールした髪に、濃いまつげが目立つ。
タイトなジーンズに包まれた足は、信じられないぐらい長かった。
友達の横で、静かにお酒を飲んでいる姿は、それだけで絵になっている。
「イケメンですね! 日本ではモテるでしょう」
と言うと、彼は少し顔をゆがめた。
「日本では外見めあての女の子ばっかりで、ほんと嫌だ」
それでも、モテないよりいいのではないか・・・と考えてる私に、続けて言う。
「アメリカに住んでたときは、外見に注目されたことはなかったのに。
日本だと、俺の中身を見てる女の子はいないなって感じる」
でもそれは、目立つ外見だから仕方ないんじゃ・・・。
その状況を利用して、日本の女の子と遊ぶ外国人は、いくらでもいるのに。
当時20代前半だった私は、彼の憂鬱の意味がよくわからなかった。
「もうさ……そんな女の子ばっかでめんどくさくて。
誰とも会いたくないから、工場で働いて、休みの日も引きこもってずっとゲームしてる。
今日は久々に職場以外の人と話したわ」
アメリカの方がよかったんだ。
「アメリカの方がよかった。帰りたい」
なんで帰らないんだろう。
帰れないのか、帰らないのか、その理由は聞かなかった。
数年後。
今度は、日本嫌いのアメリカ人女性に出会った。
彼女は英会話サークルの講師で、私はその生徒。
会議室にグループで集まり、みんなが一緒になってディスカッションする、という内容だった。
最初のクラスで、彼女は「日本人はなぜ英語が話せないのか」と持論を展開し、「私は英語を話せる日本人としか話したくないから、日本語を話す気がない」と言い放った。
「息子はアメリカで警察官なの。すばらしいのよ」
「この前のオバマの演説を聞いて、涙が出たわ」
うっとりと「夢のアメリカ」を語る彼女。
しかし、そう言いながら、彼女は日本語を話さないまま、日本にもう10年以上住んでいるという。
嫌いな「英語が離せない日本人」相手の仕事をしているということにも、矛盾を感じる。
生徒である日本人たちは、とくに何も言わず、熱心に彼女の英語に耳を傾けていた。
私は、言葉にできない違和感がぬぐえず、その英会話教室には行かなくなった。
「そんなに嫌なら、帰ればいいのに」
そう言うことは、簡単だ。
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