研究アウトプット(論文)の書き方
12月初めに少し日本に行っており、そしてその後コロナに罹ってしまって、2週間ほどお休みしておりました。
今日は研究アウトプットの書き方、すなわち論文の書き方について。これに関しては様々な書籍がありますが、私は上野千鶴子先生の「情報生産者になる」が最も参考になると思っています。この本では、主に社会学分野の例が出されていますが、基本のお作法などは、理系の学生及び研究者にも共通のものです。私は理系の分野に属しますが、定性的な研究もやりますし、数式を全く使わない論文も書きます。この本は全分野に共通した作法を分かりやすく示してくれています。主に学生向けに書かれていますが、若手研究者だけでなく、ベテランの域に達した方にも非常に参考になると思っています。
論文の書き方には「お作法」があり、これが分かっていないと、まず論文は書けません。まず、論文というのはどんな構成が典型的なのかを理解する必要があります。以下が典型的な構成です。
1.はじめに(Introduction)
2. 既往研究のレビュー(Literature review)
3.研究方法(Methodology)
4.結果 (Findings)
5. 考察 (Discussion)
6.おわりに(Conclusion)
1.では、研究の着想に至った背景、研究の問い、そして目的を明確に書きます。ここで、背景として文献のレビューを多少入れる場合もあります。2.では、当該分野での先行研究においては、どんな問いが立てられ、何が明らかにされ、何が明らかにされていないか、そして本研究との関係を明確にする必要があります。ここで、本研究の位置づけ(すなわち、本研究は、これまで明らかにされていないどんな点をどこまで明らかにするのか)を先行研究と照らし合わせて、研究のオリジナリティを示すわけです。この「オリジナリティ」が認められなければ、「その点に関しては既に明らかにされている」とされ、研究としての価値が認められません。研究としての価値が認められなければ、論文として発表する価値もないのです。
そして、3.では研究方法を記します。どんな理論に基づくか、研究対象(もの、人、地域など)、データはどんなものを使うか(それは自分でアンケート調査や実験などをして集めるのか、公のものを使うのか、など)、分析方法はどんな手法(例えば統計、検査など)を使うかを明記しなければなりません。研究によっては新しい研究手法を提案して、その有効性を検証するものもありますが、学生の論文では、既に当該分野で使われ、その有効性が広く認められている手法を使う場合がほとんどですし、指導教員からもアドバイスがあると思います。
4.では、データと分析結果からどんな事が言えるか、それが研究の問いに対してどんな回答をもたらすかを示します。
5.では、結果からどんな事が言えるか、また研究で明らかにされなかった点及びデータ収集や分析において予期せず起こってしまった事などを書きます。これに関しては、英語ではlimitationと言います。どんな研究でも全てを明らかにはできませんので、「ここまでは分かったけど、これ以上は分からなかった(すなわち、研究の限界)。もしこんなデータや分析手法があれば、もう少し踏み込めたかもしれない。」というようなことを正直に書くわけです。私個人は、このlimitationの部分が、次の研究につながる非常に重要な情報だと思っています。
6.では、もう一度簡潔に研究の目的、問い、手法、結果について書きます。そしてどんな事に使えるか(政策への提言など)、他の地域でも同じ研究手法が適用できるかなど、研究への示唆(research implicaiton)を書きます。論文によっては5と6をまとめて一つの章として書く場合もあります。
以上が論文を書く「作法」です。私の経験では、権威のあるジャーナルほど、この構成に従って書いていないと、まず採択にはなりません。
ジャーナル(いわゆる学術誌)では、世界中の当該分野の研究者がボランティアで審査をします。権威のあるジャーナルほど、論文の採択率は低いですが、その分審査も厳しく、審査員もトップレベルの方達です。こうしたジャーナルにチャレンジする利点は、たとえ採択されなくても別のジャーナルに再チャレンジするために論文を修正する際に非常に有益なコメントがもらえる事です。何しろ審査員はその分野の頂点にいる方達ですから。若手研究者が権威あるジャーナルにチャレンジして、最初から次々と論文を発表する事は難しいですが、まずは経験することからしか始まりませんので、どんどんチャレンジしてもらいたいと思います。ただ、その際のエチケットとしては、自分ができる最高レベルの原稿を出すこと、そのためにはドラフトを誰かに読んでもらって、意見をもらい、何回か推敲し直したものを出すことです。審査は基本ボランティアですから、審査員もせっかくの時間を、「まだ投稿するレベルに達していない」原稿を読まされるために費やすのは非常に苦痛ですし、そういった原稿には、したくても有益なコメントをするには限界があるからです。
論文を書くスキルは、書き続ける事でしか磨かれません。そして、慣れないうちは、書く作業にばかり集中していると、読み手の事を忘れてしまいます。読み手にとって読みやすい原稿とは、読み手の「それで?それで?」という問いに次々と答えを提供する文章です。本当に面白い論文を読んでいると、まるで推理小説を読んでいるかのような感覚を覚えることもあります。
研究論文は自分のためではなく、同じ分野の研究者や、結果を参考にする政策立案者などのために書くものです。ぜひそうした「読み手」の視点も持ちながら、書くスキルを磨いて頂ければと思います。
以下に、私が学生に薦めている参考文献を挙げておきます。
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