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映画「ドライブ・マイ・カー」

『幕』

 自我が重い幕を下ろした傷に、自己は粘り強く諦めずに傷を見ろ、という。

 脚本、稽古、舞台、ドライブ、が刺繡をするように丁寧に幾重にも織り上げられ、記憶の幕を開けていく。見事だ。

 車から宙に突き出た2つの手と、2本の煙草の灯火は静かで尊い。けむりは過去を弔うかのように夜の空にほどけていく。

 白い雪の中を赤い車が走って行く。それは血のように鮮やかで、真っすぐな生命のようだ。

 自己は『ワーニャ伯父さん』のようにつらかったことを認めることを最初から知っていた。見ないフリをしているものから、逃げることはできない。くすぶり続ける。

 語りと共に時間をかけて人が自分に向き合っていく姿がとことん描かれていて美しい。
 固く冷たい氷が解けて内側から温泉のように感情が湧き出るシーンは全身が熱くなった。

 ドライブを存分味わい、愉しめました。映画を観る醍醐味を強力に感じた骨太な作品でした。

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