あなたは相手に何を見ますか?
お読み頂きありがとうございます。
今回のnoteでは、対象関係の話を中心にお伝えしたいと思います。
心理学において、対象関係論という理論があります。
S.フロイトの提唱した精神分析学を基に、M.クラインが中心となり提唱した考え方で、人が自分以外の存在(=対象)とどのような関係を作るかに焦点を当てて、無意識に対象イメージが歪みやすいことや対象イメージへの執着が生じやすい原因を検討していく手法です。
A.フロイト(S.フロイトの娘さんです)が提唱した自我心理学とは異なり、無意識な心の中での対象に言及していることが多く、親子関係を中心に今でも学ばれることが多い理論でもあります。
対象関係という言葉自体はR.フェアバーンが名づけたと言われ、クラインの考え方をクライン派(Kleinian)と呼ぶこともあります。
①対象関係論
本来は0〜3歳くらいの早期幼児期までの母子関係をベースに考えられています。
対象関係論の中では、新生児期から乳児期の子どもは母親を『良い乳房(母乳の良く出る乳房)』と『悪い乳房(母乳の出が悪い乳房)』とを別の存在として認識していると考えます。
どちらも自分の母親なのですが、良い乳房の母親を求め、悪い乳房の母親を拒絶する、ということになります。
これは母親という全体像がまだ認識できず、目の前の乳房の母乳の出の良し悪しという一部分のみを認識して、求める・拒絶するという認知と行動が生じるからであるとクラインは考えました。
このような対象を『部分対象』と呼びます。
やがて子どもが成長してくると、母親の全体像を認知できるようになります。
良い乳房も悪い乳房もどちらも同じ母親のものである、と統合されるのです。
母乳の出の良し悪しではなく、1人の他の人間として、目の前の母親を認知するようになり、この対象を『全体対象』と呼びます。
通常、成長のプロセスの中で全体対象を認知できるようになると、対象がその場にいなかったり、一時的に怒りを感じることがあったりしても、関係そのものを維持することが可能になります。
これを対象恒常性と言います。
対象恒常性があることで、感情の波があっても相手の存在までも否定したり、拒絶したり、攻撃しなくて済むようになります。
②分裂・妄想と抑うつ
部分対象として相手を捉えると、悪い対象に良い対象が負けてしまう不安が生じます。
この不安を処理するため、分裂や投影性同一視といった原始的な防衛機制が働きます。
この状態を分裂・妄想ポジションと呼びます。
一方で全体像が見えるようになると、対象には良い面も悪い面もあることを認識するようになります。対象に攻撃衝動を感じることに罪悪感を感じるようになり、この状態を抑うつポジションと呼びます。
ある人の発言にイラッとした場合を例にお話します。
ここで生じていることを整理します。
部分対象で相手を見ることは大人として生活する上で、とても不自由な状況です。
でも。
現代社会において、部分対象が目立つ場所からあります。
それがTwitterなどのSNSです。
③SNSと対象関係
SNSでは昔なら実際に知り合うことがなかった人々との出会いがあります。そのほとんどは『はじめまして』の見知らぬ人達です。
たまたま話題が合った、価値観が似ている、好きなことや興味、推しが被る、同じような傷を負っている…。
Twitterでコミュニケーションを取っていても、実際の人となりの全てなど分かりません。
SNSだけで繋がる相手は『部分対象』にならざるを得ないのです。
SNSでの発言を元に、相手を批判しているつもりでも、批判の言葉に相手の人格に関わる言葉(馬鹿、最低、クズ、ブス)が入る場合、部分対象で相手を見ていること(歪んだ全体化とそれに伴った言動)を意識した方が良いと思います。
これは誰にでも言えることです。
昔のアニメのエンディングテーマになったTOM★CATさんの曲の歌詞にこんなものがあります。
相手が表現の自由戦士・オタクと呼ばれても、ツイフェミと呼ばれても、ネトウヨ・パヨクと呼ばれても、実際の人となりや生活はスマートフォンの画面からは見えません。
私達が勝手に脳内で作り上げている最悪の人間は、実際の生活の中で誰かに愛され、必要とされる1人の人間なのです。
SNSという便利なツールは部分対象しか見えないものであることを意識することが、ネットでの過剰な攻撃や諍いを減らすことに繋がるかもしれない…そうあって欲しいなと思います。
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