ヒットの法則:手段の目的化の法則
今日もご覧いただき、ありがとうございます。
先週のチューナーレステレビに続いて、「日経トレンディ」の「2022年ヒット商品ベスト30」の中から商品を取り上げたいと思います。
INSTAX mini EVOの例
今回取り上げるのは、20位にランクインしている富士フイルムの「INSTAX mini EVO」です。
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00732/00001/
いわゆるインスタントカメラが今もまだ売れている理由は何なのか、見ていきたいと思います。
「手段の目的化の法則」
結論から書いてしまうと、「INSTAX mini EVO」を含むインスタントカメラのチェキシリーズが提供している価値は「写真を撮ること」ではありません。
「思い出の解像度を上げること」が提供価値になっていると考えられます。
もともとカメラは写真を撮ることで"記録"することを目的とした存在です。それは記録媒体がフィルムからデジタルに、さらにはスマホになっても基本的には変わりません。日常に限らず、旅行やイベントなど、思い出を残しておくために、写真で”記録”していると思います。"記録"においては正確性が重視されます。
一方、インスタントカメラは記録ではなく、”記憶”にアプローチしています。富士フイルムによると、インスタントカメラの魅力として、独特な色合いがあり、ユーザーは「その場の空気感が切り取れる」と言うそうです(今風の言葉でいうと「エモい写真が撮れる」といったところでしょう)。つまり、見たものを正確に"記録"をしているのではなく、その時に見たものの"記憶"を写真にしているわけです。後で見返した時にも、より鮮明に思い出がよみがえってくるでしょう。
また、他のカメラにないインスタントカメラの特徴はその場で印刷できることです。例えば、友人や家族との旅行で、現像した写真をその場で見せれば、そこから会話が始まりますし、新しい思い出という”記憶”が生まれます。これはスマホで撮った写真をLINEで共有するのではできない体験でしょう。
以上のように、インスタントカメラは本来のカメラの目的である"記録"ではなく、写真を共有するためにインスタントカメラを使う、という手段が目的に置き換わっています。これにより、"記憶"を残し、コミュニケーションのきっかけになることで、より深い思い出を作ってくれる、コト提案のツールになっていると言えるでしょう。
ユーザーを広げる
ここまでインスタントカメラの提供価値を見てきましたが、「INSTAX mini EVO」に関しては、クラシカルな外観が男性にもウケて、ユーザー層を広げることができたことが、ヒットにつながった要因となっています。
また、本モデルから搭載された「スマホで撮った写真を現像できる機能」は社内でも賛否両論あったそうですが、スマホで撮った写真でもその場で共有できることは、コミュニケーションツールとして強みとなります。スマホという敵を味方にした点も、商品の存在価値を高めています。
「Instax mini EVO」はコト提案が重要だと言われる中で、「思い出」という普遍的なニーズで商品を展開したわかりやすい例だと思います。
どんどんデジタルに移行する中でも、チェキシリーズを作り続けた富士フイルムは、きっとインスタントカメラの本当の価値を理解していたのだと思います。
(画像出典:富士フイルムホームページhttps://www.fujifilm.com/jp/ja/consumer/instax/cameras/minievo )
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