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【書評】日本の論点 2024~2025

毎年プレジデント社から刊行されている大前研一氏の『日本の論点』を読んだのでまとめます。


対象読者

  • 日本の課題・戦略について考えたい人

  • 世界情勢について考えたい人

概観

本書は前後半でトピックが分かれていて、前半では日本の論点、後半では世界の論点について論じられています。

日本の論点では、岸田政権、植田新日銀総裁、税金と利権、ソロ社会、インボイス制度等について触れられており、世界の論点では、生成AI、安保問題、外交戦略、ウクライナ進行等について触れられていました。

それでは下記に常体ではありますが要約していきます。

日本編

岸田政権

まず岸田政権について、現政権のままでは景気は回復しないことと給料が逓減し続けることが論じられてた。
日本はこのままいけば世界のGDPランキングが世界5位まで転落する見込み。(2023年10月に発表されたIMFの名目GDPランキングで日本はすでにドイツに抜かれ3位から4位に転落しているが、2年以内にインドにも抜かれることが予想されている)

日本のGDP成長率は-0.2%と低成長だが(2023年10月時点)、これはユニコーン企業がほとんど輩出できていないことに起因している。GDP成長率が5.8%と高いアメリカも国全体が発展しているかと言われるとそうではなく、西海岸やニューヨーク近郊のメガリージョンと呼ばれる地域のみが成長を牽引していてその他の地方ではむしろ経済成長は停滞しているようだ。
日本も同様に西海岸ではないが第二の経済都市・大阪のメガリージョン化が期待されていたが、大阪都構想敗戦での指揮の低下や万博も失敗に終わるだろうと予想され、メガリージョン化による成長の牽引は見込めない。

岸田政権が給料が逓減し続けることについては、DX・英語・解雇規制の3つの壁が理由として挙げられる。
DXについては、日本企業がうまくDX化できない点についてSIer等のITベンダが自社の継続的受注のために汎用性の低いシステムを構築してしまう構造的問題が指摘されており、
英語については英語教育自体というよりはBPOがうまくできない点が問題として挙げられている。アメリカの大手IT企業が時差的にほぼ昼夜逆にあるインドにオペレーターをアウトソースしていることは有名だが、例えば日本では対極の経度にあるブラジル等にそのような地勢的ハックができないことが課題である。
最後の解雇規制については、岸田政権が企業に対して賃上げを要求しているにも関わらず解雇規制によって中年層を解雇できないことを問題視している。改革を実施するにはまずコスト削減を断行する必要があるが、一番コストのかかる人件費を日本では削減しにくいことが最大の問題である。

ソロ社会

少子化・ソロ社会については、日本の少子化については対策は大きく2つあると論じられていた。婚外子と移民である。
日本は先進国の中でも女性の合計特殊出生率が1.30(2021年)と高くない。一方で、フランスが1.83である。実はフランスやスウェーデンの子どもが5割以上が婚外子だそうだ。また、デンマークでは出生証明には母親の戸籍しか必要ではない。日本もそのように子どもの戸籍に対する法的緩和や事実婚での婚外子を増やす必要がある。
第二の対策として有効なのは移民であるが、日本は有数の国粋主義なので、移民を受け入れて国家として成功するかというのはまた別の問題であるように思う。
このように日本は未婚化によってもはや核家族社会ではなくソロ社会が到来している。ソロ社会の消費・マーケティングの変遷として、パーソナライゼーションなトレンドが語られていた。例えば、ファッション業界ではH&Mやファーストリテイリングのようなマス製品と対極的に超少量多品種生産をする中国のSHEINが取り上げられていた。


介護問題

日本の人口は2056年に1億人を下ると予想されているが、65歳以上の高齢者3750万人に対して15~64歳の生産年齢人口は5265万人しかいない。つまり、1.4人で1人の高齢者を支えないとならない試算になる。
これは圧倒的な介護人材不足で地方ではたとえお金を払っても優良な介護施設には入れない事態が起こっている。
そこであげられている対策としては、移民の受け入れと海外移住の2つ。移民について掘り下げると日本が健全な国家運営を続けるには毎年100万人規模の外国人移民を受け入れる必要があるそうだ。
一方で、2022年の法務省の報告書によれば

令和4年6月末の在留外国人数は、296万1,969人で、前年末に比べ20万1,334人(7.3%)増加

出入国在留管理庁 https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00028.html

と日本の人口の2%台しかいない現状である。ドイツの移民が21%台であることを考えると島国である日本の移民率は非常に低いことがわかる。
また、移民の受け入れは1世代目から成功しないことが示されている。ドイツで成功しているトルコ系移民も第2世代や3世代から社会に適合したが、1世代目は固まって住み、犯罪が増え、一部はスラム化していたことが述べられている。
歴史を紐解くと日本も移民受け入れを緩和したことがあったが、自動車・建設が人手不足の際に一時的にブラジル系移民等を受け入れただけで、景気が悪くなると企業はすぐに雇い止めをし後世まで育たなかった。
これからは公的費用を投下して、移民受け入れの整備をしていく必要がありそうだ。

世界編

ウクライナ侵攻とロシア情勢

ウクライナ侵攻のせいでロシアが失ったものは3つある。外貨と旧ソ連圏諸国との結束と国内での信用だ。
外貨に関しては、これまで輸出できていた兵器、原油、農作物が侵攻を機に各国が輸入を規制し売れなくなったことに起因している。
旧ソ連諸国との結束に関しては、侵攻前まではロシアにべったりだったアルメニアもロシアとの距離感を見直している。
悪くなる戦況とワグネルへの年間1400億円程度の賄賂の発覚でロシア国内での信用も下落している。また、ロシアにはワグネルの他にも民兵組織が30も存在しているので、これからいつ群雄割拠の時代になってもおかしくはない。

そんな世界経済から追放されるようなウクライナ侵攻を企ててもプーチン大統領の支持率が依然高い理由は、プーチン大統領がミハイル・ゴルバチョフ政権後に困窮したロシア経済を回復させたからだ。
平和的にソ連を解体させたゴルバチョフは国際社会からの評価こそ高いものの、経済的に自国民を裕福にできなかったため国内での評価は低い。それに対してエリツィン大統領後に年金改革を行ったプーチン大統領の評価が高齢者を中心にずっと高いままなのだ。

欧米銀行の連続破綻

2023年3月、欧米の名だたる銀行が相次いで経営破綻した。一つはアメリカのシリコンバレー銀行、もう一つはスイスのクレディ・スイスだ。
結論から言うと両社には因果関係がなく偶発的にタイミングが重なっただけで、世界恐慌のトリガーにもならなければ他行への連鎖性もない。
シリコンバレー銀行の経営破綻の原因はジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会議長がマクロ経済を優先し金利を上げ続けたことである。金利を上げてベンチャー企業が金余りになり融資先が見つからずに破綻したのだ。
一方で、クレディ・スイスは富裕層の多くが他行に預金を移したことが原因である。これは安全な長期運用が売りのクレディ・スイスが1988年にアメリカの投資銀行ファーストボストンを買収し経営に組み込んだことが契機である。
クレディ・スイスの経営体質が変容することを危惧して富裕層が一斉に他行に流れ込んでしまったのだ。

中国と不動産不況

中国では2023年から不動産不況が始まった。それも相まって今や中国の若者の失業率は20%を超えている。
中国の不動産不況は日本やアメリカのそれとは構造が異なる。日米の不動産不況には必ず銀行が関与しており、政府が銀行に対して規制を加えることで不動産不況が引き起こった。これなら政府のコントロールによって対策の打ちようがある。
一方で、中国の不動産不況には銀行が直接的に関与していない。中国の不動産価値が下落する理由は、不動産が居住用ではなく投資用で購入されることと不動産が建設されるのが中国ではゴーストタウンを指す鬼城であるからだ。
中国の不動産はスケルトンと言って、人が住めるようになる内装を施す前に分譲してしまう。ここから水回り等の内装を施工するには追加でオーナーが3割ほど負担しなければならない。
ゆえに、鬼城にスケルトン状態で建設される不動産には買い手がつかず不動産価格が下落するのだ。
こういった中国の内部経済の破綻に対して日本はアメリカの猿真似をするだけではなく、独自の外交を模索する必要があるが、中国と正面を切って外交できる人物が今の日本の政財界には一人もいないことが問題視されていた。




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