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TSMC、とはいったい何の略でしょうか?

「台湾積体電路製造股份有限公司」です。

たいわんせきたいでんろせいぞう
こふんゆうげんこうし。
英語なら「Taiwan Semiconductor
Manufacturing Company, Ltd.」。
頭文字を取って『TSMC』。

股份有限公司とは「株式会社」、
積体電路とは「集積回路(IC)」のこと。
日本語で表現すれば、
台湾の集積回路を製造する株式会社、
という意味です。

この会社、めちゃめちゃ大きい…!

まさに「黒船」だ。このTSMCが
2024年2月、熊本の菊陽町に工場を開所した。
「従業員数73,000人」
「売上高2.2兆台湾ドル」の会社です。
1台湾ドルを約4.5円で計算すれば約10兆円。

「…実に大きな会社ですね。でも、
なぜそんなに売上があるんでしょう?」

世界中から注文が来ているから。
半導体デバイスの注文が、です。
そう、TSMCは世界初の
「専業ファウンドリ」

「…ファウンドリって何ですか?
鳥の仲間か何か、ですか?」

違います。

自社の半導体工場で
他社の半導体製造の前工程を請け負う場所。
foundry。
元の意味は「鋳造所」ですが、
半導体産業においては、実際に
半導体デバイス(半導体チップ)を
生産する工場
を指します。略してファブ!

「実際に半導体デバイスを作る…?
自社で作らない会社なんて、あるの?」

それが多いんですよ。
半導体産業には「ファブレス」という企業が。
ファブがレス。すなわち工場が「ない」。

◆ファブレス:企画・設計・開発「だけ」
◆ファウンドリ:実際に「つくる」

TSMCは、世界中の半導体ファブレス企業から
注文を受けて、実際に製品をつくっています。
だから、売上が凄いんです。

…しかし、なぜこんな世界的大企業が
台湾で生まれたのか?
そしてなぜ今、熊本に進出するのか?
本記事ではTSMCの歴史を追いながら、
この謎に迫っていきます。

TSMCの創業者は「張忠謀さん」です。
モリス・チャンさん、とも呼ばれる。
1931年生まれ。2024年現在、御年93歳。

彼は、中国の浙江省寧波市に生まれました。
中国の南東部の港町。
1948年、中華人民共和国が成立する前、
チャンさんは香港に移住します。

翌年、アメリカ合衆国のハーバード大に入学。
2年時にマサチューセッツ工科大に編入。
1953年、22歳で修士号取得。
働きながら学業を続け、
1964年にはスタンフォード大で博士号取得。
アメリカの第一線で働き、学んだ人です。
1985年には中華民国、つまり台湾に迎えられ、
「工業技術研究院」のリーダーに就任…。

◆寧波→香港→アメリカ→台湾

そんな彼がTSMCを設立したのは
1987年のことでした。創業の当初から
「バーチャル・ウェハー工場」
という構想を提唱していた。

『顧客が、まるで自社工場のように
TSMCの工場を管理できる仕組みをつくる!』

実際にTSMCに注文した企業は、
TSMCのサイトを経由して
製造の進捗をリアルタイムでチェックできる。
何とも便利で、使い勝手の良い外注先!

一言で言えば「餅は餅屋」を目指した。
製造に特化したんですね。

それ以前は、設計から製造までを
自社で行う「垂直統合型」が主流でした。
しかし、技術革新が恐ろしい速さで
進んでいく半導体業界・コンピュータ業界!
「次々に製品をリリースしたい」
そんな野心を持つファブレス企業は、
自社でつくろうとせずに
製造特化型のTSMCと組んだほうが
圧倒的に速くリリースできた。

「私たちが、皆さんの自社工場のように
製品をつくってあげますよ…!」

チャンさんの狙いは見事に当たった。
企画は自社、でも、つくるのは台湾。
TSMCは、世界で最も収益性の高い
半導体メーカーの一つとなる。
彼は「台湾の半導体産業の父」
と呼ばれました。

「…でも、確か日本でも
半導体産業が盛ん
でしたよね?
九州=シリコンアイランド、とか、
1980年代は凄かった、とか…」

そうなんです。1985年時点での
世界の半導体売上ランキングは…?

①NEC(日本)◆
②モトローラ
③テキサス・インスツルメンツ
④日立(日本)◆
⑤東芝(日本)◆

⑥フィリップス
⑦富士通(日本)◆
⑧インテル
⑨ナショナル セミコンダクター
⑩松下電器産業(日本)◆

売上上位10社中、5社が日本メーカー!
しかし、2021年になりますと…?

①インテル(米国)
②サムスン電子(韓国)
③SKハイニックス(韓国)
④クアルコム(米国)
⑤マイクロンテクノロジー(米国)
⑥ブロードコム(米国)
⑦エヌビティア(米国)
⑧メディアテック(台湾)
⑨テキサス・インスツルメンツ(米国)
⑩AMD(米国)

日本メーカーは「ゼロ」。
アメリカとの貿易摩擦、
「日米半導体協定」の締結、
韓国や台湾のメーカーの台頭…などが
理由によく挙げられます。

◆1988年の世界シェア:日本は50.3%
◆2022年の世界シェア:日本は8.7%…

そう、日本は完全に半導体生産を
「輸入」に頼っている状態なんです。
半導体は『産業の米』。
あらゆる電化製品に使われる。
その「自給率」が低い…。

そこに2020年頃からの『コロナ禍』。

貿易が低調になります。
…半導体が入ってこない!
自動車、デジカメ、ゲーム機、
そういったものがつくれず
納車や納品ができない状態が続く。

「これは、さすがにまずい…!」

現在、日本政府は
「半導体を国内で生産できるように」と
巨額の支援金で企業誘致を実施中です。
そう、TSMCもその一つ。

ゆえに2024年、熊本に新工場がオープンした。

最後にまとめます。

本記事では、TSMCの歴史を追いながら、
熊本に新工場ができた背景を書きました。

なお、コロナ禍を受けて経済産業省も
本腰を入れて交渉しています。
TSMCは「JASM」という子会社を
日本に設立している。
…これはTSMCの100%出資子会社ではなく、
ソニーも少数株主として入っています。

国からの「助成金」が降りる。
アップルを最大顧客とする
「ソニーの協力」も得られやすい。

そこでTSMCは、元々は台湾南部の台南で
ソニー専用ファブとして
建設予定だった工場をスライドさせて
熊本の菊陽町に建てた…
という裏背景もあるそうです。

顧客のソニーが日本にいるからこそ、
TSMCの工場は日本にやってきたのだ
、と。

人口4万強の菊陽町は今、
東京ドーム4.5個分の巨大な新工場の影響で
湧きかえっています。2024年2月24日開所。

チャンさんも開所式に参加しました。

TSMCの動向、今後の熊本の菊陽町の発展。
読者の皆様も、どうぞご注目ください!
※菊陽町からのレポートはこちら↓

※『TSMC始動 日本の半導体
“再興”の第一歩となるか?』の記事↓

※『TSMCとはどんな会社?
会社概要や経営状況、成長戦略を徹底解説』
の記事はこちら↓

※『【詳説】TSMCのビジネスモデルと
技術戦略とは?~No.1半導体ファウンドリの
強みをIRと特許から読み解く』の記事はこちら↓

※アップルやソニーとTSMCとの
関係に言及している記事はこちら↓
『「TSMC熊本進出」のあまり語られない本当の理由
当然、背景にはアメリカIT大手の存在がある』

※書籍『半導体戦争 世界最重要
テクノロジーをめぐる国家間の攻防』の
Amazonページはこちら↓

なお、手前味噌ですが、
電気産業や半導体産業の誕生については
こちらの私の記事も…。

※『電気の発見・実用化 ~現代社会への分水嶺~』↓

※『半導体 ~現代人を魔法使いにした部品~』↓

※『産業の米 ~サンドイッチも美味い~』↓

合わせてぜひどうぞ!

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