リボーン ~進退の見極め力~
1、香車
将棋の駒で、香車(きょうしゃ)があります。前に進めます。歩が1つずつしか進めないのに対し、香車はまっすぐどこまでも進めます(相手の駒があればそこまで)。しかし、バックができません。調子に乗ってどこまでも進んでしまうと、敵陣に入りすぎて討ち取られてしまいます。
では、香車はやられキャラなのか? 引き返すことはできないのか? そうではありません。敵陣に入って「成る」ことができれば、バックする、つまり後ろに下がることができます。金と同じ動きができます。しかし飛車とは違って、一気に後ろに下がることはできません。
ここに私は、人間らしさを香車に感じます。とにかく前に「進む」。下がれない。しかし経験を積んで、死地を経験して初めて、「退く」ことを覚える。少しずつだけれど退くことができる。
ちなみに水島新司さんの名作『ドカベン』でも、香車(きょうす)という選手が出てきます。とにかく足が速い。あの名投手、白新の不知火から三盗まで決めてしまうスピードスター。しかしフェンス直撃のファインプレーと引き換えに、大怪我をして、フィールドから退くことになります。選手名鑑はこちらから↓。
今回は「進退」についての記事です。
2、退職代行サービス
最近、「退職代行サービス」が流行っています↓。
サービス、ビジネスとして成り立つ、ということは需要があるということです。自分で辞めるのだから自分で言えば良いじゃないか、と楽観的に断言できる方は、とても幸せな方です。この世の中には、あの手この手で辞めさせないようにする組織が存在し、その組織に悩んでいる人がたくさんいます。だからこそ、このような退職代行サービスが成り立ちます。
サービスの内容の詳細は触れません。ここでは、「始めたり進んだりするのは簡単だが、退いたり終えたりのは難しい」ということが言いたいのです。
物事がうまく行っていないときは、比較的退きやすいかもしれません。周りにも説明がつきやすい。自分も納得しやすい。問題は、物事がうまく行っているときです。周りにも説明しづらい。しかし、自分自身は退きたい。退職代行サービスでも、組織側から言えば、組織にとってそれほど重要な人材でなければ「そうですか」で済みますが、たくさん働いてくれていたり、稼いでくれていたりした人材は、「ちょっと待てよ!」と辞めさせたくないでしょう。
しかしそれでも、自分が違和感を持っている場合、このまま続けては心理的肉体的に厳しいことになる場合には、退くという判断はありだと思います。「進退」はワンセットです。何も考えずに突撃すべき時もあれば、退いて時間を作って考え直すべき時もある。アクセルとブレーキとバックは、すべて必要なんです。
以前投稿した記事↓で、「戦術」と「戦略」について書きました。
一概には言えませんが、進むのは「戦術」、退くのは「戦略」に、大きく関わってくると思います。そもそも戦わない、という選択肢もあります。前提としていた「目的」に合わなくなってきたら、「戦術」の見直しのみならず、「戦略」の見直し、状況によっては「目的」の見直しすらすべきではないかと思います。それが自分の人生、アイデンティティに関わるなら、なおさらです。
そもそも、終身雇用が成り立ちにくくなり、カオスな労働環境が生まれてきて、寿命が延びて肉体的な衰えも出ることも想定すると、この「見直し力」「再スタート力」「リボーン力」こそが、これからの世界ではより重要になっていくのではないでしょうか。言葉を変えれば「進退の見極め力」です。「退職代行サービス」の流行は、その一端を示しています。
3、引退宣言
アイドルが引退する際には、「引退宣言」を行うことが多くあります。「ふつうの人に戻ります」という感じです。今でも「卒業」などの表現で、アイドルグループを引退する人もたくさんいますね。
個人レベルで始めた事業や活動においても、これだけネットやSNSが発達していますので、自分の想いを記事にして、引退宣言をして、広く公表する方法をとる方も増えています。
ここで、最近目にした、2つの「引退宣言」の記事のリンクを貼ります。前後の文脈、これまでの実績、関係者の方の感想、ご本人の葛藤もあるかと思いますので、そのままリンクを貼るだけに留めます↓。あなたは、どのようなご感想を抱くでしょうか?
4、進退は自由
いかがでしたでしょうか。
本来、進退は自由なものです。自分の心ひとつです。
本当は、人は、香車のように前に進むだけではないんです。飛車と角行を合わせたように、タテヨコナナメ、前にも後ろにも自由に動けるんです。いや、人生においては、将棋盤だって飛び出していくこともできます。組織や過去に囚われている方は、自分の中で行動の限界の将棋盤を設定してしまい、そのことを忘れているだけです。
しかし、様々な経験を積み、葛藤を経て、初めて後ろにも下がることができるようになる、ということも、また人間の一面を表しています。
最後に、将棋漫画をひとつご紹介して、締めとします。鍋倉夫さんの『リボーンの棋士』です。経験・葛藤・引退・再生の漫画です↓。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。