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モンゴル帝国と大英帝国を比較してみると…

陸の王者と海の王者。どちらが強い?

でもこれは、いささか愚問かもしれません。
前提が違う。スタイルが違う。
…「どちらもそれぞれ」強かった!

13世紀は「モンゴルの世紀」です。
1206年にジンギス・カンが世に出て膨張。
その後継者、オゴタイ・カアンの時代、
1241年には東欧にまで攻め込む。

モンゴル高原から、南は中国、西は東欧まで…。
1274年・1281年には
海を越えて日本にまで攻めてくる!
鎌倉幕府はこれを撃退しましたが、
撃退できず、滅ぼされた国のほうが多い。

いわゆる『パクス・モンゴリカ』ですね。

これに対して、大英帝国はどうか?

その最盛期は19世紀~20世紀のはじめ。
アメリカ合衆国は独立したものの、
中国、インド、中東、アフリカ、
オセアニア、東南アジアなど
世界中に勢力を伸ばしていく…。

『パクス・ブリタニカ』
グレートブリテン島、「大・英」の島が中心。

モンゴル帝国が「陸」から支配したとすれば、
大英帝国は「海」から支配を広げます。
はやりの「地政学」風に言えば、
「ランド・パワー」と「シー・パワー」。
陸の力と海の力。
それぞれスタイルが異なる世界帝国です。

本記事では、この2つのスタイルを比較します。
時代が異なりますので条件は違う。
かいつまんで取捨選択して書いています。
それらを割り引いてお読みください。

まずは「強さの秘密」から。
モンゴルの強さは「騎馬軍団」

①生まれながら優れた騎兵
②中央集権的な軍団の編成
③移動がとてつもなく速い …

①は、遊牧民族であることが大きい。
馬は身近。幼少の頃から乗る。
農耕民族が騎馬隊になるのは大変ですが、
モンゴル帝国の人は苦労せず騎兵になれる。

②は、厳しい自然環境であるがゆえに、
リーダーの判断が生死に直結する。
生き残るために、
圧倒的なリーダーに従うのが基本です。

③は、フットワークの軽さ
食糧も住居も住民も一緒に移動。
戦いでは「いかに兵力を集中するか」が重要。
一気に戦力を集中して、敵を撃滅した。

あと、弓矢の技術が凄いとか
火器も使いこなすとか(元寇でも使われた)
敵を怯えさせて恐怖で支配するとか…。

一方、大英帝国はどうか?

もちろん軍艦を持ち「海軍力」は凄かった。
しかし彼らが世界帝国になれたのは
同時代の他国と比較して
圧倒的な「経済力」を持っていたことが大きい。

世界初の産業革命で「生産力」が高い。
船もたくさん持っていた。
20世紀初頭、世界の船の半分が英国籍。
「物流力」で世界中の商品を輸送…。

たくさん作って、たくさん運べる!

当然、コストは低く抑えられます。
各国の国産では太刀打ちできない。
ゆえに経済を支配できる。
ネットワークに組み込んでいくんですね。
英語が、世界的な公用語になった。

13世紀頃のモンゴル帝国は、
圧倒的な「軍事力」で優位に立ちました。
19世紀頃の大英帝国は「経済力」が凄い。
だからこそ世界帝国になれた。

次に、政治体制(意志決定)について。

モンゴル帝国は先述したように
「圧倒的な指導者」が支配します。
優れた指導者、初代のジンギス・カンや
二代目のオゴタイ・カアンの時代は、
それはもう本当に強かった。

…ただこれは、諸刃の剣でもあります。
もしもトップ同士で仲間割れが起きたら?
潰し合って弱体化、または分裂…。

大英帝国はどうでしょう?

圧倒的なリーダーの国…ではありません。
国王はいますが「君臨すれども統治せず」。
リーダーは議会で選ばれた「首相」。

与党と野党がいます。政敵が常にいる。
しかし、これこそが逆に強さの秘訣!
もし、一方がうまくいかなければ、
その政敵が政権を取り、違う政策を行う。
ダイナミックに政権交代ができた。

ディズレーリとグラッドストンという
保守党と自由党の党首たちがしのぎを削った
「ヴィクトリア時代」には、
時には外征重視、時には内治重視、
硬軟織り交ぜて、時代の変化に対応していました。

…最後に「なぜ衰退したか」を考えます。

13世紀に圧倒的だったモンゴル帝国も、
14世紀に入ると弱体化。

モンゴル帝国のカアンという指導者には、
「クリルタイ」という全体会議によって
認められないと就任できません。
実力主義。他を圧倒する力が必要。

…となると、後継者を選ぶ時に
「誰もが納得するリーダー」でない限り
ガチでもめる。時には争い合う…。
結果が出たら、粛清が始まる。
いくら敵に対して強くても、
強い味方同士で仲間割れをしていては
全体としての弱体化は避けられません。

「各王国の現地化」も挙げられます。
中国の「元王朝」は、
時代が進むと漢化が進んでいく。
中東に根を下ろした「イル・ハン国」は
イスラームに改宗、現地に馴染んでいく。
「モンゴルならではの強み」「一体感」が
次第に失われていく…。


大英帝国はどうか?
20世紀のはじめ、1914年から始まった
「第一次世界大戦」が崩壊の始まり。

新興のドイツやアメリカが追い上げてくる。
その中で起こった一次戦では、
フランス、ロシアとともに戦い、傷ついた。

戦後は「民族自決」の名の下に
「植民地の独立運動」が盛んになります。
唯々諾々とイギリス商品を
買ってくれていた状況が覆されていく。
不買運動も起こる。

果ては、第二次世界大戦まで起きます。
本国が空襲にさらされる。
植民地を守る余裕がなくなる。
戦後にはアメリカ合衆国(とソ連)に
世界帝国の座を乗っ取られる…。

最後に、まとめましょう。
本記事ではモンゴル帝国と大英帝国の
スタイルの比較をしました。

◆強さ:軍事力/経済力
◆政治:独裁/議会
◆滅亡:同士討ち/世界大戦

…ここから、どんな教訓が得られるか?

「日本」全体で考えるなら、
大英帝国型の国だ、と言えます。
大陸ではなく島国。シーパワー。

そう考えると、
経済力重視、議会と論戦、世界大戦防止、
これで生き残りを図るべき?
もちろん現代では
空中戦(SNSの発信・情報戦)も必要です。

世界に受け入れられる商品は?
ダイナミックな政治の論戦は?
平和な中でどう貿易を振興する?
考えてアイディアを出して、実行する。

トップダウン、圧倒的な独裁をしたり、
実力者同士で潰し合いをしたり…。
そんなスタイルは「風土に合わない」のでは。

でも「個人」においてはどうでしょうか。
自分ならではの独自の商品は?
ネットワークと協力体制は?
友好関係を結びつつのビジネス振興は?
…それともモンゴル帝国型で、一気に?

別に世界征服をしろ、というわけではない。

「誰かに征服されないため」の方策です。
自分のオールを、生殺与奪の権を、
他人に渡さないためにはどうすべきか?
キャリア・オーナーシップ。
そのために言葉で各自が表現すべき…。

皆様は、どう考えますか?

…皆様の会社や組織は、どうですか?
どちらのスタイルを目指していますか?

※モンゴル帝国の二代目、
オゴタイ・カアンについてはこちら↓
『史上最強の二代目 ~オゴタイ・カアン~』

※モンゴル帝国を含む
より広い範囲の歴史はこちら↓
『100年ごとの北アジア史、中央アジア史』

※モンゴル帝国型の国のひとつ、
ロシアの拡大についてはこちら↓
『黒テン、ビーバー、ロシアとカナダ』

※大航海時代から
大英帝国が生まれるまでの推移はこちら↓
『スパイス、コットン、世界帝国の覇権争い』

※大英帝国の外交についてはこちら↓
『「光栄ある孤立」の盛衰
~パックス・ブリタニカの外交~』

※日本で教えられている
「世界史」がどのように生まれてきたか、
「自分の歴史」との関わりはどうか、
などについてはこちらから↓
『歴史の描き方、生まれ方 ~世界史の誕生~』

合わせてぜひどうぞ!

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