庄内の 水田照らす スイデンテラス

『ようこそ、田んぼに浮かぶホテルへ。』

こんなキャッチフレーズの
ホテルをご存知ですか？

山形県の庄内地方。東北地方の日本海沿い。
「鶴岡市」や「酒田市」があるあたり。
日本有数の稲作地帯。

ここにあるのが「スイデンテラス」。
本記事は、このホテルのご紹介を。

まずは「庄内地方」の歴史に少し触れます。

古くは「庄内藩」の領地。
とにかく国替えの多い江戸時代、通常は
鉢植えの如く大名が変わっていくのですが、

ここは、譜代大名である酒井氏が
一貫して治めてきました。
ゆえに藩主・家臣・領民の結束が
きわめて固かった。

天保の改革の頃です。
幕府から国替えするよう命令がありました。
しかし何と領民たちは、幕府へ直訴！
この国替えの沙汰は、無しになりました。
（「天保義民事件」と言います）

戊辰戦争後には、明治政府から
藩主の移転の処罰が下されたのですが、

家臣や領民たちが三十万両もの
献金を集め政府に納めることにより
藩主を領内に呼び戻したりしています。

「一致団結力」が、凄い！

そんな庄内地方も、廃藩置県を経て、
「山形県」の一部になりました。

山形県の県庁所在地は、内陸部の山形市。
海沿いの庄内地方とは、文化や風土が違う。
それゆえに庄内地方は山形県の中でも、
独特の立ち位置にある…。

そんな地方です。

前置きが長くなりました。
「スイデンテラス」は、
この庄内地方の「鶴岡市」にあるホテル。
『鶴岡サイエンスパーク』というエリアの
一角にあります。

このエリアは、鶴岡市長であった
富塚陽一さんが構想を立ち上げたもの。

◆「新しい知的産業を興そう！」

2001年に「慶應義塾大学
先端生命科学研究所（先端研）」
を誘致、主にバイオ系のベンチャー企業が
エリア内に続々と生まれていきました。

◆うつ病の診断キットの開発
◆人口合成クモ糸繊維の量産化
◆唾液によるがんの発見 …

『バイオベンチャーの聖地』が、
このエリア内に生まれていったのです。

ここにスイデンテラスを作ったのは、
「ヤマガタデザイン」という会社です。
…2013年、ある男性がこのエリアに
やってきたことから、お話が始まります。

当時の鶴岡サイエンスパークは、
開発予定の21ヘクタールのうち、
三分の二の14ヘクタールが未着手でした。

鶴岡市もこれ以上の投資は難しくなり、
残りの開発は民間でやらなければならない。
でも引き受け手が見つからない…。
そんな状態でした。

そんな時に、三井不動産から、
このパークの「Spiber」というベンチャーへ
転職してきた男性がいます。

その人こそが、山中大介さんでした。

山中さんは、資本金10万円を元に
「ヤマガタデザイン」を立ち上げ、
このパークの未着手部分の開発へと
邁進していきます。

（ここから引用）

『最初に取り組んだのは
地権者の方々の同意を集めることでした。

地権者集会を開いて、
「あなたたちの土地を買います。
つきましては
協議のテーブルについてください」と。
その後、一軒一軒回って判子を押してもらって。

こういうのって面白くて
地権者同意が実際に取れると、
みんなの態度が変わるんですよ。

それまでは半信半疑だった行政も
「あれ？ これもしかして
本当に実現しちゃうの？」みたいになって。

卵が先か鶏が先かみたいな話で
ある人は「お金が集まったらやるよ」
ある人は「地権者同意が取れたらやろう」
またある人は
「設計してくれる人がいるなら協力する」
という感じで様子を伺っているんですよ。

だから最初は、ある種ハッタリを
かますようにして既成事実を作っていく。

すると、どこかのタイミングで
全てがピタッとはまって回り出すんです。』

（引用終わり）

どんどん開発が進みます。
ただその過程で山中さんは
ある厳しい問いかけを、受けた。

（ここから引用）

『地方都市の人って、
よく分からないコンサルの人が
東京から来て、散らかすだけ散らかして帰る
みたいなことを何度も経験していて、

ある種ものすごい人間不信に
なっている部分があるんですよ。

最初は僕らもそう映っていたと思います。

今でも忘れられないのは、
ある株主さんから言われたことで。

「お金を出すのはやぶさかではないけれど、
山中さん、君はリスクを取ってないよね？
10万円しか出していないし、失敗したら
どこかへ逃げればいいだけでしょ」って。

当時の自分には
貯金が20万円しかなかったから、
10万円だって十分
リスクだったんですけど（苦笑）。

その出来事が僕にはすごく悔しかった。

それからは個人的な借り入れもしたし、
株式を増やしたりもしました。

地方の人はそいつが信頼に足る
「本物」かどうかを厳しく見ていると思うので。

よく地方を蘇らせるのは
「よそ者、若者、ばか者」なんて
言われますけど、

あれは嘘ですよ。

「本物」かどうか、ただそれだけです。』

（引用終わり）

「本物」として認められていった山中さんは、
ついに2018年、スイデンテラスを
オープンさせるに至るのでした。

「地元の方々がこれまで見過ごしていた
地域の魅力を再発見できる場所に！」

そう、スイデンテラスは
ただの宿泊施設では、ない。
地元のため、街づくりのための施設なんです。

…私の目にはこのホテルが、
庄内藩が官民ともに一致団結して
地域を発展させていった姿に重なります。

山中さんは、同じく2018年に、
「キッズドームソライ」という
児童教育施設も作っています。

ソライとは、庄内藩校の致道館の教え
「徂徠学（そらいがく）」の教育理念、
「天性重視 個性伸長
（生まれながらの個性に応じて才能を伸ばす）」
から、名前を取っている。

このソライからは、
未来の庄内地方を担う人材が
羽ばたいていくことでしょう。

最後に、まとめます。

何となく綺麗に書きましたが、

このスイデンテラス、開業しばらくの間は
とにかくバタバタでした
（コロナ禍でキャンセルもあり…）。

しかし2021年6月に
中弥生さんが総支配人に就任！
オペレーションが整っていった。

パークハイアット東京などの
複数のラグジュアリーホテルなど、
名だたるホテルを経験した凄腕の支配人！

彼女をこのプロジェクトに巻き込めたのも
山中さんの「本物」の「巻き込み力」と、
庄内の「一致団結力」によるものではないか。

そう、思うのです。

いくらモノ・カネが集まっても、
「ヒト」が集まらないと地方創生はできない。

いかに人材を集めていくべきか？
山中さんもそこは重々分かっていて、
コロナ禍でキャンセルが多くなったことを
奇貨として、人材集めに力を入れたそうです。

それはヤマガタデザインが手掛ける、
移住希望者と庄内の企業をマッチングする
転職情報サイト「ショウナイズカン」にも
あらわれています。

…さて、読者の皆様の地域には
「巻き込み力」を持った人はいますか？

行政と民間が一致団結して
開発が進んでいるでしょうか？

「本物」は、いるでしょうか？

※本記事は以前に書いた記事の
リライトです↓
『スイデンテラス、水田照らす』

引用記事元へのリンクも貼っていますので
ぜひ合わせてどうぞ！