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「さて、死んで来るか。命乞いする蜘蛛を割り」ヒスイの毎週ショートショートnote

「私を差し出せば御命が助かりましょう。ぜひに、ぜひに」
彼女は完璧な曲線を作り、つつましくうずくまっていた。
ほ、と彼女の肩がふるえたように見えた。

松風の音が聞こえる。

無音の室内に、煮えがつく音が広がる。
水一杓で湯の煮えがいなされる。俺の揺れも、いなされる。
茶室の中が一瞬だけ静まりかえり、ふたたび湯が沸きはじめる。

「おまえを命乞いには使わん、『平蜘蛛の釜』よ」
茶筅を振る。茶が練りあがる。
虚空で、俺は俺を殺そうとしている男に茶を差し出す。

織田信長。裏切りに裏切りを重ねた俺をついに、この信貴山城で殺そうとしている男だ。城の外は織田の軍勢。
そして俺は、小さな茶室で命乞いをすすめる蜘蛛とともに最後の時を過ごした。
『古天命平蜘蛛(こてんみょうひらぐも)』、天下の名器と呼ばれる茶釜。
湯がぐらぐらと煮えたぎる平蜘蛛に、手にした茶碗を叩きつける。すべてが割れる音が涼やかに響いた。

さて。
死んで来るか。

【了】(改行含めず395字)

本日は たらはかに さんの #毎週ショートショートnote  に参加しています。


相方ヘイちゃんのお話はコチラです!

時代物、というネタは、ここからいただきました(笑)
歌舞伎ものみたいで、けっこう好きだなあ、これ。


今日も ヤスさんの #66ライラン  に参加してます♡

66日連続で記事公開。
簡単そうでいて、ヤスさんご自身も苦労されているみたいです!

ヒスイも、けっこう大変なんですよ(笑)



ちなみに、このぬいぐるみ。
ちょっとほしくなりました(笑)


では、明日。シロクマ文芸部でお会いしましょう!

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