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ヒスイ
2015年6月9日 02:08
其の人は泣いていた。誰にも気付かれぬようひっそりと、おそらくは自分でも気付かぬ裡に。その涙を止めたいと願った。瞬く度にはたはたと落ちる涙を、その煌めきを、別の耀きに変えたいと。私は、其の人の笑顔に救われていた。彼女の愁いない咲くような笑顔に、ただただ救われていた。何故、彼女に憂いが無いと思っていたのか。その胸にあるのは耀きだけだと思っていたのか。その胸に巣食う悲嘆が、彼女の胸を詰まらせて
2015年6月9日 02:07
「貴女の涙の理由を、私に話してくださいませんか。」と彼の人は言った。私の痛みがそのまま己の痛みであるかのように、切なく眉を寄せて言った。不思議な話だ。私は泣いてなどいなかった。だが此の人は私が泣いているのが解るのだと言う。私の苦しみを、解りたいと言う。優しい人だと思った。その言葉が私にとってどんなに嬉しかったか。しかしだからこそ私は、話すわけにはいかなかった。優しい彼の人を、私の道に巻