苺のスープにツップフクーヘン、ときどき旅に出るカフェ。
約300ページ。30ページほどの短編が10編。
こんなにも満たされた感覚を味わえるとは思ってもみなかった。
今年の読書、2冊目に選んだのは近藤史恵さんの連作短編集「ときどき旅に出るカフェ」
少し前に書店で見かけて、あらすじや短編のタイトルにとても惹かれて購入した本。
語り部となる主人公は会社員で37歳独身、中古マンションを購入しそこで一人暮らししている奈良瑛子。
裏表紙のあらすじを軽く紹介すると、平凡でこの先ドラマティックなことも起こらなさそうな瑛子は偶然元同僚の円が営む、旅先で見つけたものを再現し出しているという素敵なカフェと出会い、心や日常が少しずつほぐれていく、というもの。
一編一編のタイトルが本当に素敵すぎる…
そこで心を鷲掴みにされました。
一遍目はこの記事のタイトルにもあるように「苺のスープ」
書店で手に取り目次(Menu)を見た時、いちごのスープ…?実際にあるの?スイーツ?美味しいのかな?どんな味だろう?とはてなが浮かんだ。
作中、聞いたことも見たこともないスイーツや料理、それにまつわる現地のエピソードが沢山出てきて、店主円のように色んな国へ旅行に行った気持ちにさせてくれる。
その異国のスイーツを知ることで、自分の考える常識や、誰もが無意識のうちに縛られてしまっている社会の圧のようなものから優しく解放してくれる。
瑛子は既婚や子持ちの同僚、友人たちに対して特に羨ましがるわけでも批判的になっているわけでもない。
自分と境遇が違おうとも、出来る限り相手の気持ちや考えを汲み取り配慮しようとする。
そんなところも読んでいてとても気分がいい。
瑛子と同じ会社を辞め、カフェ・ルーズを開いた葛井円はとても人当たりが良く、一切押し付けがましくなく、この世の様々な世界を教えてくれる。
特に9編目から10遍目の流れや、最後のページ、あの締め方が心底好き。
新年早々こんなに安らぎをくれる素敵な短編集と出会えて、今年はいい年になりそうだなと思う。
なんだかピリピリしていて、世論という大きな刃物を振り翳し八つ当たりしてくる凝り固まった人に笑顔で配って歩きたい。
元々購入した時は長編ミステリーや海外文学を特に読んでいた時期で、ゆったりと読めるような作品だったらいいなと購入したけれど、想像の何倍ものんびりとゆったりと、噛み締めながら一編一編を読み進めた。
300ページほどならば、普段は大体数時間で読み切ってしまう。
それを3日かけて本当にゆっくりと大事に大事に読んだ。
それほど素敵な物語とスイーツたちだった。
夕陽が差し込み、店内が火事のように真っ赤に染まったカフェ・ルーズでツップフクーヘンを食べながら本を読む素敵な休日を過ごしてみたい。
今年は何処か素敵なカフェと出会えますように。
皆さんも是非。
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