追悼:アンドラーシュ・リゲティ

ハンガリーの名指揮者アンドラーシュ・リゲティが今年の9月に亡くなったそうだ。

享年68歳。

イェネー・ヤンドーが協奏曲の録音を行う時に、よく共演していた指揮者で、黎明期のNAXOSを代表する一人だった。

今日は、グリーグのピアノ協奏曲を聴く。

グリーグのピアノ協奏曲の名盤というと、真っ先に思い出されるのは、ダブラフカ・トムシックがアントン・ナヌートと共演した録音で、これは決定盤とも言いたくなるくらいの出来だ。

それに双璧な演奏を、ヤンドーとリゲティも繰り広げており、1988年の録音ながら、この頃のNAXOSとしては申し分のないものである。

ヤンドーは、一部ではとても評価の高いピアニストであるけれども、私には、この人の真価が、長らく掴めなかった。

余りに純粋で、面白味を欠く事が、ままある。

ただ、そういう生真面目さが、協奏曲になると全くの長所となって、オーケストラとの調和が図抜けており、音楽全体がキラキラと輝いたものとなるから、アンサンブルの達人なのだな、と思う様になった。

それは、直球のヤンドーにぴったりと付けながら、絶妙なバランスでオーケストラを鳴らすリゲティの采配もまた、大きかったに違いない。

ヤンドーというピアニストには極上上の素材といった趣がある。

リゲティもどこか職人気質で、決して主張の強い指揮者ではないのだけれども、さりげなくブダペスト交響楽団から実力を引き出して無理な運びがない。

誰の音も伸びやかで、自然体の美しさに溢れていて、しかも親密だ。

ただただ、美しい音楽だな、と思わされる。

それは、シューマンでもモーツァルトでも変わらない。

古典派だとか、ロマン派だとか、そういう演じ別けも、この人には必要なかった様である。

きっと、使い勝手のよい指揮者として重宝されたのだろうけれども(ヤンドーもまた、そうだったのだろう)、名手と名匠が組んでも演者の色ばかり強く出て、ちぐはぐになり勝ちなグリーグの協奏曲を、ここまで名作に仕立て上げた手腕は、録音芸術史における金字塔であったと言ってもよいのではあるまいか。

リゲティが、NAXOSで活躍していたのは、未だ30代の頃だった。

全く気にした事がなかったけど、とても早熟な指揮者だったのだと思う。

そういう才人が、早々と人知れず舞台から去って往く。

それは、亡くなるよりも遥かに早く訪れていた様にも見える。

世の中は残酷だ、とは言うまい。

輝かしいレコードが幸運にも遺されて、未だに大切に聴き続けられているのだから。

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