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大路の春【掌編小説】

 食べられる雑草の本を購入した。

 もう所持金は無いに等しいが、欲望に駆られて煩悩塗れの弁当を買ってしまうよりかは賢明な選択だったに違いない。
 私は、まんまと弁当を購入した別の世界線の自分に哀れんで同情した。
 それが自分にとってただ一つの、優越を覚える手段だった。

 拾い物のパスケースを曲がらない程度に握り締め、どうして自分がこの力加減を知っているのか、思い出そうとする。
 しかし出てくるのは、過去の私が漠然と抱いていた、いずれ自分にも訪れるであろう保障された未来、その一つだった。
 立ち返って呆然とする。心に春を抱くことは、私には許されなかった。

 ここが何処だか分からない。
 だからここから何処へ向かっても同じことだ。
 まだ生温いガスの香りはしてこない。しかし緩慢な気流が、私の背中を確かにかすめ取っていた。
 途端、空気が酸味を帯びてくる。道路の向こうから黄色い声がして、皮肉めいた穏やかな陽光が、一緒になって私を、正義の面持ちで笑っているような気がした。

 きっともう、春なのだろう。

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