「名言との対話」 (戦後編)8月19日。和田一夫「無一物 無尽蔵」
和田 一夫(わだ かずお、1929年3月2日 - 2019年8月19日)は、日本の実業家。
神奈川県小田原市生まれ。日本大学経済学部卒業後の1951年、両親の営む静岡県熱海市の八百屋「八百半商店」に入る。1953年、妻きみ子と結婚。1968年、八百半デパートに改称し社長に就任した。1971年、日本の流通業の海外進出第1号としてブラジル進出。1989年、ヤオハンデパート会長。同年、持株会社ヤオハン・インターナショナル設立、代表取締役会長となる。さらに香港にグループ総本部を設立、1990年、家族とともに同地に移住した。1996年、総本部の上海移転とともに上海に移住。30年で世界的な流通・小売業「国際流通グループ・ヤオハン」にまで発展させた。
1997年、経営危機に伴い日本に帰国した。同9月にヤオハン・ジャパンが経営破綻、和田はヤオハン関連の全ての役職から辞任し、ヤオハン・グループは崩壊した。
和田一夫『ヤオハン 失敗の教訓』(かんき出版)を読んだ。 和田によれば3度の失敗があったそうだ。熱海の大家で全焼し無一文になり「一生を八百屋に捧げよう」と決心した時。二度目はブラジリヤオハンの撤退。3度目がヤオハン・ジャパンの倒産だ。
三度目の大失敗の1997年のヤオハン・ジャパンの倒産時は68歳だ。世界16カ国に450店舗を展開し2万8千人の従業員を抱え、5000億円の売上を誇る企業が一瞬のうちに崩壊し、無一文になった。負債総額は1600億円。それを契機に、福岡県の飯塚市に住みIT松下村塾で起業家を育てるなどインターネットで再起をはかり、カンパニードクターとして、自らの失敗の経験を伝える事業を起こした。「失敗をおかした時、人間はそこから必ず得るものがある」と和田一夫はユーチューブで語っている。
一度目の失敗の時に、八百屋「八百半」を創業した、後に橋田壽賀子原作のテレビドラマ『おしん』(NHK)のモデルとなった母から「無一物 無尽蔵」という言葉を教わり、それが失敗時のばねになったそうだ。これは中国の蘇東坡の詩にある言葉である。「花有り月有り楼台有り」と続く。全てを投げ捨て、無一物に徹せよ。花や月など大自然は味わっても尽きることはないではないか。大いに楽しもう。全ては自分次第だという解釈で、苦境を乗り切っていく。
全てのものは因と縁によって移ろうものであり、実体などはない。すべてがなくなったとしても大したことはない。そこからまた人生を味わい、楽しもうではないか。そういう心境が「無一物 無尽蔵」なのではないだろうか。この言葉を唱えると、小さなことにこだわらなくなり、元気がでる気がする。不思議な言葉だ。