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「名言との対話」9月11日。加藤九祚「人生に、もう遅いはありません。老いは免れませんが、好奇心は抑えられなかった」加藤 九祚(かとう きゅうそ、1922年5月18日 - 2016年9月11日)は、人類学者。享年94。

韓国生まれ。10歳で来日し韓国姓の李を加藤に改名する。工業学校を経て鉄工所に入社。上智大学予科を仮卒業し入隊に満州へ。1945年ソ連軍の捕虜となり、5年間を過ごす。上智大学に復学し卒業し、1951年平凡社に入社。1971年退社し念願のシルクロードの旅にでる。1975年に国立民族学博物館教授に就任し、ソ連とモンゴルの民族学標本収集と研究に従事する。1985年の定年退官後は相愛大学、次いで創価大学教授としてシルクロード研究センター長をつとめる。退職後にウズベキスタンのテルメズ郊外のカラテパの仏教遺跡の発掘に着手する。

2000年前後からロシアや中央アジアに関する年報『アイハヌム』を創刊編集し亡くなるまで続けた。「アカデミズムの外で達成された学問的業績」として高く評価されパピルス賞が贈られている。

2016年9月、ウズベキスタンで発掘調査中に倒れ、搬送されたテルメズの病院で死去。創設した「オクサス学会」の最終号の追悼紀要には「労働者であり、学究であり、思索の人であり、行動の人であり、夢見る人であり、文筆の人であり、大地を掘り下げる人であり、人間をこよなく愛する人であり、酒盃に詩の言葉を浮かべた人であり、ひたすら人びとに愛された人」と記されている。

以上は「加藤九祚 日本美術年鑑所載物故者記事」(東京文化財研究所)の要約だ。

加藤はシベリア抑留中に「この機会にロシア語でも勉強しよう」と独学でロシア語の勉強を始め、戦時下の軍部の弾圧で死を遂げた、「悲劇の天才言語学者」の親日学者・ニコライ・ネフスキーを知る。日本留学中にロシア革命が起き帰れなくなり日本に定住し日本文学、神道アイヌなどの優れた業績をあげるが、1929年にソ連に戻るがスパイ容疑によって非業の死をとげる人だ。加藤は自分の境遇と似ているこの学者を研究し『ニコライ・ネフスキーの生涯』を書き、1976年大佛次郎賞を受賞する。

『シベリアに憑かれた人々』(岩波新書)を読んだ。1974年の刊行である22歳から27歳までの抑留生活を送ったシベリアの地に眠る仲間たちに捧げた本である。自分の日本での生活も抑留生活的な側面があるとも書いている。

シベリアは18世紀初頭のスエーデン人捕虜に始まり、19世紀のポーランド反乱参加者、ツアーへの挑戦者、20世紀の革命後の流刑囚や日本人捕虜の存在などの歴史がある。

部下を救おうとして冬の海に飛び込んだために死を迎えたピョートル大帝、遺骸が板にしばられて土に埋められたベーリングカムチャッカ志を訳した前野良沢、日本への使節となったラクスマンの父であるエリク・ラクスマンエカテリーナ2世に謁見した大黒屋光太夫、、、などシベリアに憑かれた人々の苦難の歴史がつづられている。加藤自身もその一人なのである。

加藤は65歳から考古学を始める。「人生に、もう遅いはありません。老いは免れませんが、好奇心は抑えられなかった」、そして「私の希望は発掘しながら、パッタリ死ぬこと」と語っていた。それから30年ほど後の2016年にウズベキスタンの発掘調査の現場で94年の生涯の幕を閉じた。ウズベキスタンでは「国民の損失」とまでいわれた。シルクロードに憧れ、シルクロードを遊歴し、ついに発掘の場を見いだし、その現場で生涯を終えたのである。

梅棹忠夫との対談を読んだ記憶があるが、加藤を民博に招いたのはシベリアで知り合った梅棹だったことを初めて知った。加藤九祚のユーラシアをにらんだスケールの大きい波乱の生涯と、撃ちてし止まんの不屈の精神には感服した。この人のことを知ったのは収穫だった。

改めて加藤の生涯を大きく眺めてみる。50歳までの青年期は、入営、ソ連の捕虜を経て、出版社で仕事をする。50歳からの壮年期はシルクロードの旅で知り合った梅棹忠夫に誘われて国立民族学博物館の教授として過ごし、ソ連やシベリアに関する本を上梓する。そして、実年期の65歳からは考古学を始め、シルクロードを遊歴し、熟年期の最後の94歳で、ウズベキスタンで発掘中に倒れる。これは希望通りの最後である。人生100年時代のモデルとすべき人である。「人生、もう遅いはありません」という言葉を納得させる生涯だ。

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