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完全習得学習という欺瞞

 全国共通の到達目標に準拠した評価尺度を作り、その尺度に照らして学習者の弱点を見つけ、その弱点を無くそうとする教育観がある。「完全習得学習(マスターリー・ラーニング)」という教育観である。

 その教育観に潜む問題の一つは、既に目標に達していると評価された子はそれ以上学ぶ必要が無くなり、教師はそれ以上指導することがなくなるという問題である。

 この種の教育観が重視する評価は、到達目標に対して何が足りないかを見る評価である。そういう評価を受けた学習者は、どうしても、自分の不足点に注意が行きがちになる。その結果、自己肯定感が低下する。自己肯定感が低下すれば、学習の意欲と効率が低下する。これもまた問題である。

 そして、もっと根本的な問題は、全国共通の到達目標に準拠した評価尺度で評価して何が不足しているかを明らかにして指導しても、全員の子を目標水準に到達させることは不可能であるという事実である。

 実際には、到達目標を全員が達成しない場合でも、時間が来れば、次の指導事項の指導に進んでしまう。「完全習得」させないままで次の学習事項に進むのである。そうしなければ、所定のカリキュラムを所定の期間内にこなすことができないからだ。

 そして、その子が達成できなかったのは、その子自身の努力不足のせい、もしくは、その子が元来持っていた学習困難性のせいであるとする。そうすることによって、指導者は自らの気持ちを楽にする。

 そうしていながら、「完全習得学習」を唱えるのである。これを欺瞞と言わずして、何と言おうか。

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