人はなぜ書くか:作文学習における目的の意義
1. 生活の中で書く
書くことは生活に役立つ。手書きや印刷で、掲示や配布で、一枚ずつで、あるいは製本されて、等々、いろいろな形で、いろいろな分量で、さまざまな事柄が記されて、多様な生活場面で使用されて役立っている。
生活するために書くことが役に立つからこそ、長い歴史を通じて、人は書くことを続けてきたし、書くことを学び続けてきた。
人は、生活の中で書くことを通して、書くことが役に立つことを実感する。
人は、生活の中で書く経験を重ねる過程で、書くことの意義を学び、書く力を伸ばしていく。それが、生活の中でなされる学習である。
2. 書くことが役に立つ場で、生活に役立つ書く力が伸びる
書くことの学習の学習を支援する大人が、まずしなければならない大切なことは、何らかの目的を実現するために書くことを役に立てる場を作り、その場で書く活動に、学習者を誘い込むことである。
そういう場がないままにただ命じて書かせるだけでは、何のために書くのかわからないままに、つまり、目的もないままに、ただただ書くという作業をさせられることになる。
それに反して、何のために書くのかが明らかな場に立って、学習者が書く場合は、その目的のために、何をどう書くかを吟味し足り工夫したりしながら書く活動を進めることになり、その活動を通して、書く力が伸びることになる。
3. 目的と相手がある実際の場がもたらす学習上の効果
文章を書く力は、何らかの相手のある実際の場で、何らかの目的を達成するために、適切な単語を選び、平叙文、疑問文、命令文等々の文を選び、単語を漢字や仮名やローマ字などの文字を選び、句読点やカギなどの符号を選び、必要に応じて改行1字下げを行って段落を示したり、目的に照らして、文字の大きさや形を工夫したり、挿絵や色彩等を工夫したり、用紙や用筆(パソコンを含む)を選んで文字や挿絵の配置を工夫したりすることを、実際に行う経験を積むことを通して、徐々に向上する。
人が生活の中で実際にものを書く場面では、どのように書けばよいか、どういう表現や表記を用いればよいかは、書く目的、相手、場面によっても違うし、どういう媒体に書くかによっても違うし、書く本人の人柄や思いによっても違ってくる。
そういう、書く主体の状況をも含めた全体的な場の状況の違いによって、どう書けばよいかの判断は違ってくる。
目的のある場がなければ、どう書けばよいかが判断できない。目的が明らかでなければ、その目的にふさわしい書き方を考えることはできないからである。だから、目的のある場を設定することが、書くことの学習支援を効果的なものにするための大前提である。
なのに、これまでの作文指導は、その大前提をすっ飛ばしたままに、原稿用紙を配って書かせていたのである。そんな作文学習で、やりがいが感じられるはずもなく、したがって、意欲的な学習態度を喚起することもできず、生活に役立つ書く力を伸ばすこともできなかったのである。