上質なシルクのような 〜 ルーマー『B サイズ&レアリティーズ Vol.2』
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Rumer / B Sides & Rarities Vol.2
4月22日には待望の新作が三つも出ました。タジ・マハール&ライ・クーダーの『ゲット・オン・ボード』、ルーマーの『B サイズ&レアリティーズ Vol.2』、ボニー・レイットの『ジャスト・ライク・ザット…』。一日に好作リリースが集中して聴くのが追いつかずうれしい悲鳴っていうのはよくあること。
タジ&ライのニュー・アルバムについてはみんなが話題にしていて耳目をさらっているので、いつものんびりのどかなぼくのブログではあとまわし。ゆっくりマイ・ペースでやればいいでしょう。ボニーもそこそことりあげられています。
ということで、ほとんどだれも言及しないルーマーの新作から書いておくことにしましょう。Vol.2となっているのでおわかりのとおり、2011年の『B サイズ&レアリティーズ』の続編。シングルのみだった曲やそのカップリング・ナンバーなど、いままでアルバムに入っていないものを中心に集めています。
2015年にアメリカに来てピアニスト&プロデューサーのロブ・シラクバリを公私とものパートナーとするようになってからのルーマーはすっかり落ち着いていて、自分の人生をみつけたっていう感じ。水を得た魚のようなのびやかさを聴かせています。
やや翳りと憂いをもたたえた美声を持つルーマーのヴォーカルは、1960〜70年代ふうのレトロでオーガニックなポップスをやらせるのにこれ以上の歌手はいないかもと思わせるほどみごとにはまっていて、ここ10年近くの(ややジャジー・カントリー寄りな)アメリカン・ポップス界ではきわだった存在です。
今回も、そもそもアルバム題だって、いまはもうシングルもデジタル・リリースだけになったから「B面」なんてないのに、あえてこのことばを使うあたりがいかにもなこの歌手らしい世界観ですね。
ルーマーのヴォーカルにはリキむところがまったくなく、すーっと軽くおだやかに声を出しながら、微細な部分にまで神経がいきとどいていてデリケート。それでいて丸みや芯の太さ、信念みたいなものを感じる声質で、ほんとうに近年のぼく好み。ますます磨きがかかってきていますよね。
バート・バカラックの音楽監督を務めていたロブ・シラクバリをパートナーにしたことが成功と成長に著しく貢献しているというのもわかります。本作もやはりロブのプロデュースで、聴こえるピアノもたぶんそうでしょう。おだやかで淡々としたオーガニックなサウンド・メイクなのは変わらず。
バカラックの曲も今作に一個ふくまれていますし、サラ・ジョイス名義での自作もあり。また今回は個人的にとても耳を惹くものが二曲ありました。9「ハウ・ディープ・イズ・ユア・ラヴ」と12「ザ・フォークス・フー・リヴ・オン・ザ・ヒル」。いうまでもなく前者はビージーズの名曲で、いまやスタンダード化していると言っていいでしょう。
後者はジャズ歌手なんかがよく歌うジェローム・カーン作のポップ・スタンダードで、やはりたいへんすばらしいですね。それらはいずれもいまの幸福感につつまれたルーマーの私生活をそのまま反映したような曲で、それを大切に大切にそっとやさしく平穏につづっていく声に魅せられてしまいます。
ロブがつくった伴奏サウンドもほんとうにきれい。後者では自身の弾くピアノだけ、前者ではそれに軽いストリング・アンサンブルが付与されているのみっていう、なんともしずやかでおだやかなテクスチャー。それに乗って上質なシルクのようなルーマーの美声が流れていくさまにはためいきしか出ませんね。
(written 2022.4.25)
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