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選曲の勝利 〜 おかゆウタ 2

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おかゆ / おかゆウタ カバーソングス2

1月26日にリリースされたおかゆの新作カヴァー・アルバム『おかゆウタ カバーソングス2』(2022)、サブスクでなんども楽しんでいますので、ちょこっとメモを残しておきましょう。2021年のカヴァー集第一作(その前、インディのデルコラソン・レコード時代にも一作あり)に続くもので、好調にシリーズ化されていて、いいですね。

おかゆには、以前書きましたが昨年の新曲「星旅」で惚れ、そりゃあもうあんまりにもカッコいいんで、あれじゃあ一発KOされちゃいますって。アホほど聴きました(サブスクで)。存在はその前から知ってはいて、わさみんチェックで視界に入ってくる歌手でしたからね。

どこからどうみても演歌のアルバム・ジャケットじゃない『おかゆウタ 2』、カヴァーされているレパートリーも歌謡曲中心で、鮮明な演歌系といえるのはラストの「氷雨」だけ。ラッパー心之助の「雲の上」やアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマ「残酷な天使のテーゼ」(わさみんも歌った)すらあるくらいですから。

そのへん、とりあげられている曲の初演歌手と作者名を発売元のビクターが一覧にしてくれているサイトがありましたので、ご紹介しておきます。星数の同名異曲がある4「東京」は、やしきたかじんのやつ。

こうした曲の数々を歌うおかゆのヴォーカル・スタイルはっていうと、それでもやはりやや演歌っぽさを感じさせる色が発声とフレーズ末尾の歌いまわしにあって、かといってストレートな演歌歌手として扱うには薄味であっさりしたポップなもの。

そのへんの中間的さ加減っていうか(演歌でもポップスでもない)中庸さがおかゆヴォーカルのよさ、持ち味ですね。ときどき新時代の新感覚歌唱法に挑んだり、やや古くさい従来的な演歌路線もこなしたりという融通無碍なところは、やっぱり新世代のあかし。

今回の『おかゆウタ 2』、まず1曲目「雲の上」で声が大胆にエレクトロニクス加工されぐにゃっとゆがめられていてオッと思いますが、こういったヴォイス処理は「星旅」の一部でも聴けたもの。演歌ではありえなかった手法ですが、おかゆサイドはときどきやるトレードマークみたいなもんかも。

アルバムを聴き進み、個人的にとてもいいねと実感するのは3曲目「メロディ」から。玉置浩二の大名曲でカヴァーも多いですが、はっきり言って玉置はいまアジアでいちばん歌がうまいくらいな歌手なので、それと比較することはできません。

でもこれは曲がとてもいいんですよね。ピアノ一台だけの伴奏でしんみりつづっているなと思いきや、箇所により声のハリとノビもみごと(やや演歌ヴォーカルっぽい?)。「ライヴ」との文字がトラックリストに見えますが、コンサートとかイベントとかじゃなく、無観客スタジオ配信ライヴですらなく、たんにピアノ生演奏に乗りその場で一発同時録りしたという意味みたいです(公式YouTubeにその風景が上がっているので)。

そして4「東京」。こ〜れが最高です。サルサなピアノに導かれキューバン・リズムが入ってきて、完璧なるラテン歌謡を披露しています。ティンバレスも心地よく、アレンジがいいんだねえと思いたかじんのオリジナルを確認すると、ほぼ同じでした。それをおかゆは踏襲しただけで、だから選曲の勝利といえるんでしょう。この「東京」は本アルバムの白眉じゃないでしょうか。

6「みずいろの雨」7「五番街のマリーへ」8「DOWN TOWN」と個人的になじみのあるたいへん好きな曲が続く後半も(選曲が)すばらしい。アレンジやおかゆの歌唱にこれといって書き記すべき特徴はありませんが、曲で聴かせるといった趣きなんでしょうね。

目を(耳を)引くのは9「星めぐりの歌」。知らない曲だなあ〜聴いてみてもわかんないやと思うと、これは宮沢賢治が作詞作曲したものだそう。そう言われれば、歌詞には賢治らしいSF要素がちりばめられています。これは今回のおかゆヴァージョンで初めて知ったものですから、カヴァーとも思えないほど。

ラスト10「氷雨」は<おんな流し>を売りにしている(実際下積み時代に流していた)おかゆらしいギター流しスタイルでの弾き語り。ギター・アレンジも本人がやっています。これだけは従来的な演歌っぽさを強く感じさせ、だから本作ではボーナス・トラック扱いですね。

なお、この「氷雨」でもライヴ収録っぽさというか、観客のざわめきや空気感、拍手まで聴こえますが、それに重なって入るおかゆのMCやヴォーカルはあからさまに層が違うので、現場流しスタイルをよそおっただけのスタジオ収録でのダビングとわかります。

(written 2022.1.28)

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