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パトリシア・ブレナン『Maquishti』がとても心地いい

(3 min read)

Patricia Brennan / Maquishti

一聴惚れです。

新人パトリシア・ブレナン。メキシコ出身で現在はニュー・ヨークのブルックリンを拠点に活動するヴァイブラフォン/マリンバ奏者ですが、そのデビュー作『Maquishti』(2021)に引き込まれてしまっているんですよね。傑作だと思います。

このアルバムはパトリシアの完全独奏。参加しているのはパトリシアひとりだけ。ソロ・ヴァイブラフォン(三曲だけマリンバ)演奏で組み立てているインプロヴィゼイション・ミュージックなんですよね。といっても、折々にギター・エフェクターを使ったりエレクトロニクスによるサウンド処理も聴けますけどね。

基本、ジャズというよりフリー・インプロヴィゼイション・ミュージックといったほうが近いのかなと感じるパトリシアの『Maquishti』。前衛フリー・インプロというとかなり苦手とする分野なのですが、このアルバムだけは不思議と聴きやすく心地よい感触で、聴いていてイージー&スムースに気持ちが静かに落ち着いていく、吸い込まれるような音楽だなといった感想です。

『Maquishti』におけるパトリシアは、フレイジングで組み立てていくやりかたじゃなくて、サウンドの響き重視といいますか、これはたぶんアンビエント・ミュージックふうな音構築をしているんだなと思います。ヴァイブのフレーズは、できるだけ贅肉をそぎ落とし、必要最小限の音数だけを叩いて、その残響音もひっくるめた上でのサウンド・トータルで聴かせていますよね。

ヴァイブの音色って、もちろんもとから硬質なんですけど、パトリシアの奏でる音は不思議とやわらかい暖かみをまとっているように感じられ、フレイジングだけなら、たとえばエリック・ドルフィーの『アウト・トゥ・ランチ』で演奏するボビー・ハッチャースンみたいだなと思うものの、できあがったサウンドの響きはまったく異なっています。

緊張を強いられる音楽じゃなくて、パトリシアの『Maquishti』は聴いていて安楽気分でくつろぐことができるもので(ぼくはね)、スムースに音楽が流れるので、トータルで一時間近いフリー・インプロがあっというまに終わってしまいます。「聴き通とおすのに体力が必要」との評も見かけたんですけど、そんなことないですよ、正反対の印象です。

夜遅くなってから、部屋の照明をちょっと落として、これからベッドへと向かう入眠準備といった時間帯に、これ以上ないリラクシングなムードを演出してくれるパトリシアのヴァイブ独奏『Maquishti』、なかなか得がたい快楽音楽に出会えて、ほんとうに幸運だったなと思います。

心地いい、気持ちいい、不思議にデリケートで、やわらかく聴きやすい、まるで香りのいい空気につつまれているかのような音楽に思えます。ヴァイブの音しか入ってないのに、なぜか豊穣な響きがします。

今年の年間ベスト一位はいまのところこれでしょう。

(written 2021.3.12)

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