戦前欧州のヴィンテージ・ジャズ・ムード 〜 アナベル・チヴォステック
(3 min read)
Annabelle Chvostek / String of Pearls
萩原健太さんのブログで知りました。
カナダはトロント出身のシンガー・ソングライターらしいアナベル・チヴォステック。なんでもウェイリン・ジェニーズっていう同国のトリオに在籍していたこともあるそうで、そのバンドはブルーグラス/トラディショナル・ミュージックをやっているんだって。
とはいえ、ぼくはこの今回の新作『ストリング・オヴ・パールズ』(2021)でしかアナベルを知らないので、まったくのレトロ・ミュージック志向なんだとしか思えず。ジャネット・クライン、ダヴィーナ&ザ・ヴァガボンズなどなど、ああいった路線ですね。
それにくわえアナベルのばあいはヨーロッパ風味が濃厚で、ちょうど第一次大戦と第二次大戦のあいだ、1930年代くらいに大陸で花ひらいた、かの音楽文化、ジャンゴ・ラインハルトらのジプシー・スウィングとか、ムーラン・ルージュっぽいキャバレー・ミュージックとか、そのころ欧州でも大流行したタンゴとか、そんなムード満載なんです。
もちろん禁酒法時代のアメリカのボールルームへの回帰みたいな側面が基底にあって、その上での濃厚な戦前ヨーロッパ大衆音楽テイストみたいな感じでしょうか。そんな雰囲気がアルバム『ストリング・オヴ・パールズ』には横溢しています。新録音だから音質はあたらしいものの、音楽性はまったくもってヴィンテージ。
いちばん強く感じるのは、やはりジャンゴやステファン・グラッペリらが活躍した1930年代のフランス・ホット・クラブ五重奏団の音楽で、それとその近隣にいたようなスウィング・ジャズ。雰囲気っていうより音楽性がそのまんまですよね。ヴァイブラフォンのレトロな音色もなつかしい1曲目から、そういったヴィンテージ香味がフルに展開しています。
5曲目までずっとそのままのムードで続き、6曲目「カム・バック」がタンゴ。退廃ムードも濃厚で、いかにも戦前のコンチネンタル・タンゴというフィーリングです。タンゴ、というかこれはミロンガなのか、8曲目「ジャスト・ザ・ライト・ブレッツ」(トム・ウェイツ)も同傾向ですね。ウェイツはこういったうらぶれた雰囲気の曲をよく書きました。
アルバムではこの二曲だけがタンゴ or ミロンガ。10曲目がワルツで、これまたヨーロッパ・レトロですね。これら以外はすべてが戦前スウィング・ジャズのスタイルで統一するっていう、これが2021年新作なんです。それまでこんな路線とは無縁だったらしいアナベルなのに、突如どうしてこうなった?みたいなことは、上でリンクした健太さんのブログ記事にくわしく書かれてあるので、ご一読ください。
ともあれ、前からくりかえしていますけど、戦前ジャズというかニュー・オーリンズ/ディキシー/スウィングのリバイバル・ムード、はっきりあるんじゃないですか、この十数年、世界で。
(written 2021.7.31)
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