現代NYジャズの理想型 〜 ハリシュ・ラガヴァン
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Harish Raghavan / Calls For Action
南インド系アメリカ人ジャズ・ベーシスト、ハリシュ・ラガヴァンのデビュー・アルバム『コールズ・フォー・アクション』(2019)。とんでもない傑作だと思っているんですが、なぜか日本語で書いてある文章がほとんど見つからないですね。
リリース当時話題にしたひとがいたかもしれませんが、ぼくが言っているのはブログとかのまとまったちゃんとした文章として日本語では残されていないということ。さがした範囲では Música Terra さんのくらいしかないのでは。紙媒体のならあるの?
ぼくがこのハリシュのアルバムに気づいたのは2021年に入ってからだったという、なんとも遅れすぎなことなですが、いまさらながらビックリ仰天、大感動で、最新の現代NYジャズの理想型じゃないかとすら思っているんで、きょうペンをとっている次第です。
ハリシュの『コールズ・フォー・アクション』。メンバー編成は自身のコントラバスのほか、ジョエル・ロス(ヴァイブラフォン)、イマニュエル・ウィルキンス(アルト・サックス)、ミカ・トーマス(ピアノ)、クウェク・サンブリー(ドラムス)といった面々。つまりイマニュエルのワーキング・バンドそのままですね。
もうこれだけで胸がワクワクする願ってもないメンバーですが、演奏のほうも壮絶。特に数曲あるビートの効いたハードなナンバーでは、クインテットの面々が同時並行でインプロヴィゼイションをとっていて、それがそのままアンサンブルになっているという、つまりソロ/アンサンブルの概念を根底からくつがえすというか、現代ジャズの特色の一つでもありますがそういったやりかた、それが最先鋭なやりかたで具現化しているんですよね。
個人的にことさら着目したいなと感じたのはクウェクのドラミング。若手ジャズ・ドラマーのなかではいちばんのフェイヴァリットで、クウェクが中心になって表現するこの熱いパッション、五人が一体となってぐいぐいハードに昂まっていくそのさまには、聴いているこちらの血までたぎるかのよう。バンドを牽引しているのはクウェクの激しく熱いドラミングじゃないですか。
4曲目「Sangeet」とか7「Seaminer」とか、ほんとうにものすごい演奏だと、心から感動します。バンドの躍動感がすさまじいし、しかも、上で書いたようにこれらではどこまでがコンポジションでどこからがインプロ・ソロなのか判然としないんですよね。ぜんぶが一体化してカタマリのようになってぶつかってくる、とでも言えばいいのか、21世紀型最新ジャズでは、もはやコンポジション/アンサンブル/インプロ・ソロの截然とした分割なんかできないし、意味もないんでしょうね。そういうやりかたで音楽をつくっていないと思います。
2019年リリースの作品ですけど、今年知ったこのハリシュ・ラガヴァンの『コールズ・フォー・アクション』、今年のベストテンのトップ5のなかには間違いなく入るだろうと思います。
(written 2021.3.16)