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パラグラフライティングを「絵の描き方」に例えて解説

論文の書き方に正解はありませんが、多くの先人たちが「こうやれば楽に良いものが書けるよ」という方法を編み出してきました。それは、絵を描いていく方法と似ています。つまり、全体の下絵をしっかり描いてから、細かい部分を描きこんだり、陰影を付けたり、あるいは色を塗ったりしていくという方法です。

この下絵は、論文では「アウトライン」と呼ばれます。詳細や陰影の書き込みや着色は、「パラグラフライティング」と呼ばれます。そこで、絵を描く手順を参考にして論文を書いていく方法について、大阪大学大学院の教員であり、2021年10月に『卒論・修論研究の攻略本(森北出版)』を上梓した著者が解説します。この記事を読めば、下の図のような綺麗な構成で文章を書いていくポイントが分かります。

パラグラフライティングにおける情報の構成

絵を描いていく手順

まずは、絵を描いていく手順を確認しておきましょう。著者は、絵を描くことは専門にしていませんので、あくまでこの後に説明する「論文の書き方」の手順を理解するための題材としてみていってください。

①全体の下絵を描く

まずは全体の下絵を描きます。どんな図形がいくつあり、それらがどんな関係にあるかを決めていきます。形を色々と変えてみたり、互いの関係を調整したりしながら、全体のバランスを整える段階なので、何度も描き直せるように簡単な線で描きます。

全体の下絵

②詳細を描きこむ

下絵が決まったら、各部分の詳細を描きこんでいきます。各図形の意味が詳しく分かるようにしていきます。

詳細で各図形の意味が細かいところまで分かるようにする

③陰影を付ける

続いて、陰影を付けていきます。陰影をつけることで、「こういった形のものが確かにそこにあるのだ」という印象が高まります。

陰影で存在を確かなものにする

④色をのせる

さらに色を塗っていきます。色を付けることで、「実際にはどんなものなのか」がありありと分かるようになります。

色を塗って実際どんなものかをはっきりさせる

絵は「下絵」が命

下絵の図形に詳細・陰影・色を描き加えていくことで、一つの絵が出来上がりました。出来上がったものは、「下絵」のアップグレード版になっていますよね。それもそのはず、詳細・陰影・色は、「下絵に沿って」載せていったためです。下絵が変われば、まったく違う絵になりますよね。良い絵を描こうとするなら、下絵が命なのです。

論文を書いていく手順

さて、ここからが本題です。ここまで理解したことを、論文の話に置き換えていきましょう。この置き換えは難しくはありません。「下絵 = アウトライン」「詳細 = 解説」「陰影 = 根拠」「色 = 具体例」という対応が分かれば十分です。手順を見ていきましょう。

①全体のアウトラインを書く

論文でも下絵にあたる「アウトライン」から書いていきます。アウトラインというのは、「そのタイミングでどうしても伝えたいメッセージ」を、話題発展の接続詞で繋げていったものです。どんなメッセージ(図形)をいくつ用意し、それらをどんな話題発展の接続詞(矢印)で繋げて大筋の話とするかを決めていきます。メッセージ(図形)を色々と変えてみたり、用いる接続詞を調整したりしながら、全体のバランスを整える段階なので、何度も書き直せるように簡単な文章で書いていきます。

これがアウトライン

②解説を書きこむ

アウトライン(下絵)が決まったら、各部分の解説を書き加えていきます。各メッセージの意味が詳しく分かるようにしていきます。解説は、「詳しく言えば…」「言い換えれば…」「何かというと…」といった形で書き加えていきます。

解説を加えてメッセージの意味が詳しく分かるようにする

③根拠を付ける

続いて、根拠(陰影)を付けていきます。根拠を付けることで、「このメッセージは確かにそうなのだと信用してよいだろう」という信憑性が高まります。根拠は、「なぜなら…」「この理由として…」「実際に…」という形で書き加えていきます。

根拠で信憑性を高める

④具体例を載せる

さらに具体例(色)を載せていきます。具体例を書き加えることで、「実際にはどんなものなのか」がありありと分かるようになります。具体例は,「たとえば…」「とくに…」「具体的には…」という形で書き加えていきます。

具体例を載せて実際どんなものかをはっきりさせる

論文は「アウトライン」が命

アウトラインの各メッセージ(図形)に解説・根拠・具体例を書き加えていくことで、1つの話の筋に沿った文章を作っていく流れを説明しました。出来上がった文章は、「アウトライン」という骨格に肉付けをしたようなものになっていることが分かるでしょうか。アウトラインが変われば、まったく違う話になりますよね。良い話を書いていこうとするなら、アウトラインが命なのです。

実際に文章として書く際には、1つの図形を1つのパラグラフ(段落)として分けて書きます。つまり、下の図のように、1つのパラグラフには1つのメッセージがあり、そのメッセージに沿った「解説・根拠・具体例」が書き加えられている、ということです。これがパラグラフライティングの構成です。

パラグラフライティングの構成(再掲)

1つのパラグラフに、解説・根拠・具体例をすべて書き込む必要はありません。メッセージを読んだときに、「詳しいところまで分からないな」と悩ませるようなら「解説」を書き込み、「信じていいのかな?」と疑念を抱かせるようなら「根拠」をつけ、「実際どうなのかな?」と興味を抱かせるようなら「具体例」を載せればよいのです。極端に言えば、メッセージだけで上記のような感想を持たれないようなら、根拠・解説・具体例はなくてもよいのです。ただし、論文というものは、上記のような感想を強く抱く読者に読まれるものですから、なるべくしっかり書き込んでいくことが必要です。

この記事で解説した方法の実例はこちらの記事で紹介しています。

おわりに

論文は「パラグラフライティングで書け」と言われます。その実態は、どうしてもそのタイミングで伝えたいメッセージに対して、解説・根拠・具体例を効果的につけなさい、というものです。そして、どんなメッセージをどのタイミングで伝えるかという話の骨格がアウトラインです。つまり、パラグラフライティングで書くためには、まずはアウトラインを決めておくことが必要だということになります。

アウトラインさえしっかり決めてしまえば、それに沿って半自動的に文章を書いていけるので、執筆は大変に楽になります(もちろん、各文章の信憑性を高めるための文献調査に労力を割くのは大変ですが)。下絵から描いていくような手順で、アウトラインからパラグラフを作っていけるのだということは、しっかり覚えておきましょう。

しかし、大切なことは、「アウトラインが命」だということです。いくら頑張ってパラグラフを作っていっても、その下絵となるアウトラインが良くないと、よい文章にはなりません。何度も何度も下絵を描き直すように、アウトラインも何度も何度も練り直しましょう。

アウトラインをどんな手順で練っていけばよいかについては、拙著『卒論・修論研究の攻略本(石原尚・森北出版)』で詳しく解説しています。「研究を進めるうえで必要なのになかなか教わる機会がない」攻略方法を体系的にやさしく解説した書籍です。1冊手元においておけば、研究の多くの場面できっと役にたつはずです。

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ちょっとややこしくなりますが、パラグラフライティングを本格的に学びたい方にはこのスライドもお勧めします。

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