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「恋」に寄せて、詩「かこ」

絵は、井坂奈津子さんの銅版画作品「恋」です。
このたび、星乃珈琲絵画コンテスト優秀賞に選ばれたそうです。
おめでとうございます!
この絵を見て、2年ほど前に書いたわたしの詩
「かこ」を強烈に思い出しました。
奈津子さんの許可を頂いて、こちらに絵とあわせて発表します。

奈津子さんの作品は、星乃珈琲練馬中村店に展示され、その後巡回予定とのことです。

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「かこ」  
詩 大川久乃

かつて わたしのなかに
二匹の蛇が 棲んでいた

蛇は「かこ」を 餌とした

ただの過去は 食さない
今、という時に 寄生し 育つ「かこ」

「かこ」を 育てていたのは わたし
でも それで生き延びる 
蛇のことなど 知らなかった

「」(かこい)のなかで ゆがんだ 時間
過去―現在―未来 
その未来が 不在
 
ちろちろと 細くゆれる 紅い舌
流れる鱗が

今の鼓動
今と繋がる 
胎盤の

とぐろを まいて
「かこ」を 絞める
「かこ」のなかで 生きている
蛇のことなど 知らなかった

その舌先が 今に 触れる
我が指は 蛇
「かこ」が 今を 求め
今が「かこ」を 生かす 

その罪深き戯れを
ひとつ 重ねるごと
とぐろも ひとまき きつくなる
 

かこいの 外まで のびた 指
あのひとの 
その首を 絞めた
そして 共に 絶えてしまった

蛇のことなど 知らなかった。

わたしのなかに 
一匹の蛇が 棲む
 かこいも とぐろも ほどけてしまった
 もう「かこ」は 食さない
 もう 何も 食べることはない
 
未来という 意志を 置き 
無限という 愛を 得た
かこいのない 命を食べて
かこいのない 今に寝そべる

 

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大川久乃
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