見出し画像

違和感の記憶

先日のこと
デ・キリコ展を観に行ってきました。

身近な友人が本展覧会の企画に
関わっているというのと

少し前に訪ねた写真展で
「キリコ」と題された作品で
足がとまったから。
それはまた別の友人写真家の作品で
在廊中だった彼に
「キリコですか、」と言うと
「大それたタイトルつけちゃったのですが」
とはにかんだ。

実は、そのタイトルが何を意図するのか
不勉強なわたしはほとんど分からなかった。
キリコやその作品を漠然としてしか
いや、ほとんど知らなかったから。

でも、わたしは、
その作品に足をとめた。
つかめそうでつかめないのは
自分がキリコを知らないからと恥じてしまい
そのときはそれ以上は話題にしなかった。

このふたつが動機になった。

デ・キリコ展でみたものは
当初、やはりというか、
わたしには、奇妙で、居心地悪く
どうも好きになれない感じがあった。
直視するとくらくらしそうで
足早に眺めたり。

そうそうそうだ、
だからわたしは、キリコを
これまで知ろうとしてこなかった。


少し話がそれるけど
わたしには、子どもの時に見た、
後味の悪い夢の記憶がいまだある。

それはのっぺりとしたピンク色の世界で
見渡す限り、なのだ。と思いきや、
目の前に立ちはだかるもの。

鬼のふとい脚の肌色であるそのピンクに
視界を覆われていた。
奥行なんてないのだ、おお怖い。
(なぜそれが鬼とわかるかは意味不明)

同時に、何が発するのかわからない
音もどこかから聞こえてくる。
その、音の感じと、
重く迫る圧倒的ピンクがないまぜになって
わたしのなかに、うん、まだ残る。

今はだいぶ薄れたけれど
かつてはそれを思い出させる要素を
嫌って(ほとんど本能的に)
具体的にピンク色が苦手だった時代もある。
(小学生のとき、テレビで
 まさにその色のワンピースを着た
 女性が出てきて、慌てて画面を消した)

わたしは、居心地のいいものが好き。
わたしは、安心感のある世界が好き。

ホラー映画とかだいぶ苦手だし、
一時は、ハッピーエンドかどうかを
確認できないと鑑賞しない
という姿勢であったことさえ。
娯楽としてでもバッドエンドが
わたしは観たくなかった。

いいとかわるいとかではなくて、
これは趣味だ。
それにまあ、
居心地いいものが嫌いというひとも
何かしらのポリシーが
そういわせるのであって
みんなたいがいが安心感に由来して
日々を築くだろう。

ともかく、わたしのことに戻ると
そういうようなわたしが
キリコに出会ってこなかったのは
個人的には納得がいったんだ、改めて。

そういういみで出会えた、とも。

さらに、そして、知ったこと。

芸術や、創作は、
誰しもにとって心地よさを表現したり
追及するためにある
わけではないのだということ。

プロパガンダ要素もあるけど
ただもっと生理的に、
そして、様々な背景から必然的に
違和感こそ扱う人もある。

今回、デ・キリコは、
そういう芸術家だったのかと体験し

わたしにはそうすることで、
全体的な自然さを感じられた。

うまくいえないけど
わたしは、偏っていたということ。

あるいみわたしも
違和感を扱ってきたのかも?
逃げる、回避するというやりかたで
意識してきた。

でもそれでは感じられなくなる
領域があることにも
気づき始めていた。

安心感や
自分の中心を見つめることと、
自分の苦手とすることを
排除するのは
相反するものではないんだ。

今回、ふたりの友人のおかげで
キャプションを丁寧に読み楽しみ
鑑賞した。
そこに解説されるものが
橋渡しとなって
だんだんと共感や身近さを感じ
作品を見ることができるようになっていった。

半身半馬像と
後半にあった絵画で
わっと惹かれる作品もあった。

そのひとつは
スーツを着た立派な男性が、
海で、水着になったとたんに
なんだか別の生物になったみたいに見える
ビーチの滑稽さを描いていた。

幼少、いや本心では毎夏思う
記憶が刺激され笑った。
感じてていいし
感じていたい違和感だ!と
清々しいくらいだった。

あと、最後、
船に乗った男(キリコ自身)が
航海を終えて、自分の部屋に戻ってきた
という絵。
これもすごいよかったな。

キリコさんと喋って「わかりますー」
って言いたくなるような感覚が
最終的にとてもとても心地よく

違和感を通して
もしくはそういったかたちで残る記憶にこそ
実感が伴って
そのひとだけのかたちをつくる
そのときの
安心感や信頼感は
とても好ましいなと感じた。

安心感や居心地から
はみでることをおそれるパターンが
わたしにはあるけれど

そういった頑なさでは
触れることができない
とびらがあると思った。

何かが変わってきていると思う。
それで、表現するものが変わらなくても
くつろいだり
格闘したり
色々しながら
もっともっと、自分らしく
正直に、ありたいなあと思った
デ・キリコ展だった。








いいなと思ったら応援しよう!

大川久乃
わたしの創作活動をサポートしてくださる方がありましたらぜひよろしくおねがいいたします。励みとし、精進します。