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ブロッコリーは人気者。それでも僕はカリフラワーを愛し続ける。
久松農園の冬野菜を代表するブロッコリーにカリフラワー。似ているようで、でも全然違うその2つの野菜について、久松農園代表の久松達央さんに話を聞きました。聞き手・書き手は久松農園サポーターの子安大輔です。
メジャーデビューしたブロッコリー
-今日は、何となく似たカテゴリーに存在している「ブロッコリー」と「カリフラワー」を比較して、色々お話を聞いていきたいと思っています。早速ですが…。
久松:ちょっと待って。最初に言っておきたいんだけれど、僕はカリフラワーに対して特別な感情を抱いているんです。それはもはや「愛」、いや「偏愛」と言ってもいいくらいのものです。
-(この人、いきなり何を言い出すんだろう…)
久松:栽培者として、ブロッコリーのことはとても好きです。ただね、カリフラワーはね…ちょっと別格なんですよ(遠い目)。
-妙なところから話が始まってしまいました。久松さんがカリフラワーを愛しているということは、わかりました。ただ、順を追って聞いていきましょう(苦笑)。僕(1976年生まれ)が子供だった1980年代とか90年代前半は、ブロッコリーとカリフラワーって、同じ程度の存在感だったように記憶しています。いや、我が家に限って言えば、むしろカリフラワーのほうが食卓に登る機会は多かったかもしれません。ただ、今ではすっかりブロッコリーがメジャーになったのに対して、カリフワラーは日陰の存在になってしまったように感じます。そのあたりの理由を聞かせてください。まずはブロッコリーについてうかがいます。久松農園では、ブロッコリーはどの時期に栽培しているんですか?
久松:出荷は11月上旬から1月いっぱいという感じです。最初にカリフラワーについての愛をカミングアウトしてしまいましたが、僕にとっては数ある野菜の中でブロッコリーも特別な存在です。ブロッコリーを収穫するとき、初物の感動というものは強いんですよね。これは僕だけでなく他のスタッフも同じみたいで、シーズン最初の収穫のときには「うわー、ブロッコリーだ!」って、みんなテンションがあがるんですよ。
-それくらい久松農園にとって、特別な野菜ではあるんですね。ちなみにブロッコリーの産地ってあまり意識したことがないんですが、どのあたりが生産量が多いのでしょう?
久松:全国で見ると北海道で一番つくられていますね。関東地方だと埼玉県、群馬県の生産量が多いです。きゅうりと同じで、各地をリレーしていく感じですね。
-今ふと思ったんですが、スーパーでブロッコリーを買うときに、僕はあまり産地を見ていないようです。袋詰めされている野菜だとパッケージに書かれた県名が目に飛び込んできますが、ブロッコリーってどーんと陳列してあって、自分でビニール袋に入れるような売り方が多いですよね。そうなると、意外と意識しないのかもしれません。それに社会とか地理の授業で、「群馬県嬬恋のキャベツ」とか「神奈川の三浦大根」なんかを教わった記憶はありますけれど、当時はブロッコリーってメジャーではなかったから、そういう知識も身についていないです。
久松:確かにブロッコリーがメジャーになっていったのは、そんなに古い話ではありません。1990年代後半くらいからじゃないでしょうか。でも気付けば「子供の好きな野菜ランキング」で、今では上位になっていますよ。
-そうなんですか!それは驚きです。なぜブロッコリーは人気になったのでしょう?
久松:まず食べる側の観点で言えば、緑色が濃いので栄養価が高そうに見えますよね。「緑黄色野菜」なんていう言葉がありますけれど、いかにもその代表という感じがします。それに使い勝手も良いです。だって、茹でてマヨネーズをつけるだけでいいんですから。茹でて冷蔵庫にストックしておけば、お弁当の彩りなんかにも重宝します。
-確かにそうですね。ミニトマトと同じく、ちょっとした添え物が欲しいときとか、彩りを加えたいときにぴったりですね。
久松:生産サイドでも1990年代後半から品種改良がどんどん進みました。ブロッコリーって、可食部である花(緑色の房の部分)の周りを、大きな葉っぱが包んでいる形状です。葉っぱが大きいと畑の面積を食いますから、葉を小さくして面積効率を上げるような改良が進みました。もちろん葉を小さくすると光合成にはマイナスですから、そのバランスは大切です。ただ、消費者の中で人気が高まっていましたから、種苗メーカーはこぞって改良を進めたんです。ちなみに、「サカタのタネ」はブロッコリーの種子に関しては、世界シェアの半分くらいを持っているんです。
-それはすごいですね!ブロッコリーは世界中で食べられていると思いますが、その半分近くは日本生まれの種ということなんですね。
久松:それから輸送方法も進化しました。ブロッコリーは収穫後傷みやすい、繊細な野菜です。気温が高い時期は、すぐに花が咲いて黄色くなってしまって、野菜としては見栄えが悪くなってしまいます。コールドチェーンと呼ばれる冷蔵輸送インフラが全国で整備されてはじめて、ブロッコリーが一年中で出回るようになったんです。夏場は北海道の独壇場ですが、「氷温輸送」といって、ブロッコリーに氷を乗せて運ぶ方法を取っているんです。氷を乗せることで、水分を与えながら零度近くで保管すると、休眠状態になって劣化のスピードが遅くなります。これによって最大で2週間くらい持ちますから、超距離輸送ができるようになりました。日本には今ではアメリカや中国から輸入物も入ってきています。だからスーパーなどでも一年中、大量に供給できているんです。
-それによって、当然価格も下がっていったということですね。
久松:その通りです。スーパーでは100円を切る野菜は、一気に裾野が広がってコモディティになると言われています。ブロッコリーは安いときにはまさにそんな価格で売られていて、急激に家庭の食卓に入り込んでいったわけです。
-見た目の違いは感じにくいですが、当然品種はたくさんあるんですよね?
久松:先程言った通り、種苗メーカーが次々に品種改良を進めましたから、同じように見えるブロッコリーにもものすごくたくさんの品種があります。種のカタログを見ても、ブロッコリーはページ数が多いですよ。ただ、一般的にスーパーで売っているブロッコリーは、僕のつくりたい品種ではないですね。そもそも、売り場の棚で裸のまま放置して売っていることが、僕には信じられません。
-ブロッコリーって、てっきりそういうものだと思っていました。
久松:スーパーの品種は乾燥に比較的強いから、ああいう売り方ができるわけですが、うちの農園でつくっている品種は、すごくしおれやすいんです。だから、収穫する際には、あらゆる野菜の中で最後に採りたいものなんです。その代わり、僕らが使っている品種は茎の部分が柔らかくて美味しいです。
-ブロッコリーの茎って普通硬いですよね。いつも扱いに困ります。
久松:僕はブロッコリーって、茎が美味しいものだと思っているんです。スーパーのものは茎が硬いから、茎を短く切っちゃうんですけれど、僕らはそこを長めに取って出荷しています。房になっている花ばかりに目が行きがちですが、ブロッコリーの美味しいところは絶対に茎ですよ。
-これだけ馴染みのあるブロッコリーでも、知らないことばかりです。
久松:「栄養価が高そう」とか「使い勝手が良い」という理由で、ブロッコリーは消費者の中で人気が高まっていきました。ニーズがあれば作り手も品種改良や配送などで工夫を凝らしていきます。結果的に生産量が増え、価格は下がっていく。すると、消費者もさらに手に取りやすくなる。そんな風に、ブロッコリーにはプラスのサイクルが生まれていって、いつの間にか超メジャーな野菜になっていったというわけです。
カリフラワーの悲哀
-なるほど~。ということは、それとは真逆なのが…
久松:そう、カリフラワーです。ここからカリフラワーの悲哀について話していきます。
-(なんだか表情も少し暗くなってきたな…)
久松:まず、進化の系統図的な観点で言えば、先に存在していたのはカリフラワーです。ブロッコリーはカリフラワーから分化していきました。カリフラワーは「うまみ」が強いのが特徴で、中東からヨーロッパまで広く食べられていますね。
-なぜ、日本ではカリフラワーはメジャーになれなかったのでしょう?
久松:うちのお客さんと話をしていても、「カリフラワーって、栄養がなさそう」と思っている人が多いんですよ。ブロッコリーが濃い緑色で、健康に良さそうに見えるのと対照的ですね。
-確かに、お弁当の彩りとしても、真っ白だと地味ですよね(苦笑)
久松:そうなんです。ちなみに日本ではカリフラワーの売れる時期のピークはクリスマスです。白さが価値を生む機会って、野菜の場合はあまりないのかもしれません。
-栽培という視点ではどうなんでしょう?
久松:ブロッコリーよりもカリフラワーのほうが栽培の技術が必要ですし、手間もかかります。カリフラワーの白さは陽に当たると損なわれます。可食部の花の周りの葉っぱは、その可食部を覆うように伸びていきます。それは寒さから身を守るためでもあるんですが、真冬には僕らはその葉っぱを紐で縛ってあげるんです。そうやって寒さと陽の光から守ってあげなければいけません。
-そんな手間がかかっているんですね。
久松:白さがなくなってしまうとカリフラワーの価値は激減してしまうので、仕方ないんです。しかも、カリフラワーはブロッコリーに比べて、1ヶ月ほど栽培期間が余計に必要です。
-生産者にとっても負担が大きいんですね。
久松:そうです。だから、ニーズが少なくて品種改良も全然進みません。種苗メーカーの展示場に行くと、「これしかないの?」っていうくらい選択肢がありません。たとえば、ある日本のメーカーは東南アジア向けなどにはいくつか品種を持っていますが、国内では1品種しか販売していません。市場としては日本を見ていない感じです。ちなみに、海外から輸入物のカリフラワーなんて、日本には1個も入っていないんじゃないでしょうか。
-確かに、ブロッコリーのケースと真逆ですね。カリフラワーはわかりやすいニーズがなくて、だからメーカーや農家もそこに向き合う意欲がわきにくい。すると生産量も増えず、結果的に価格も高止まりしているということですね。実際に、カリフラワーって1つ300円とか400円とかしたりしますよね。
久松:かたや100円台のブロッコリー。かたや300円もするカリフラワー。これじゃカリフワラーには勝ち目はありません。でもね、僕は味だけを比べるならば、カリフワラーのほうが上だと思っているんです。うまみが強くてスパイスとの相性がいいので、中東ではよく食べられていますね。カレーとの相性もすごくいいです。
-久松さんはどんな風に食べているんですか?
久松:蒸し焼きにするときに、お酢をちょっと入れるんです。するとほんのり酢の味がついて、それだけでもおいしいですし、それを色々な料理に入れたりします。あと、かつお節とも良く合うので、和の出汁との相性もいいですね。
-農家ならではの食べ方ってありますか?
久松:農家ならではというわけではないですけれど、ポタージュにすると最高ですね。ただ、結構な量のカリフワラーを使うので、市販のものを買ったら大変な金額になっちゃいます。
-確かにそれは贅沢ですね!
久松:こんなに美味しいのに、日本のカリフワラーは不条理な状況に置かれてしまって、本当にかわいそうです。僕はそんな悲哀を感じるカリフラワーがいたたまれないんです。「お前、よく頑張っているな。世間がどう思おうが、俺はお前のことを評価しているよ」と、いつも思っています。
-(話がちょっとおかしくなってきたな…)
カリフラワーの仲間たち
久松:ちなみに「カリフローレ」という、茎が長くて小ぶりなカリフワラーの仲間も栽培しています。知り合いの農家からは「そんなひ弱なものをつくるなんて」と言われましたが、食感が柔らかくてこれはこれで美味しいです。まあ、「カリフラワーの仲間」であること自体に個人的には大きな意味があるわけですが(笑)
(下の画像はカリフローレ)
-そう言えば、最近「ロマネスコ」という野菜もよく見かけるようになりましたよね。久松農園でもつくっていたかと思います。
久松:ロマネスコもカリフラワーの仲間ですね。食感はカリフラワーとは全然違いますけれど。ちなみにロマネスコの構造はすごいです。「フラクタル構造」(※1)で「フィボナッチ数列」(※2)ですから、数学的な美しさを感じます。人工物ではないのに、こんなものが存在すること自体、すごいことです。
(下の画像はロマネスコ)
-とはいえ、ロマネスコを栽培している理由はひょっとして…
久松:もちろん、カリフラワーの仲間だからです。いやー、本当にね、僕はカリフラワーが大好きなんですよ。あまりに好きだから、似たようなものにも愛情を感じてしまうんです。カニが好きだからカニカマも好きとか、元カノに似た女性を探してしまうとか、そんな感じですかね。「まがいものでもいいから、僕のそばにいておくれ」。そんな気持ちです。
-(ますますおかしくなってきたな…)
久松:そうそう、昨日、許せないことがあったんです。うちの畑に野菜泥棒が出たんですよ。そいつがあろうことか、カリフラワーをいくつか持っていったんです。ネギをとるならまだ許せるんですが、よりによってカリフラワーですよ?僕がこんなに大切に育てているカリフラワーを。
-(ネギはいいんかい…)
久松:あまりに頭に来たので、防犯グッズを早速買ってきました。近づくと、ピカピカ光りながら、イノシシの鳴き声とかを出す機械です。多分、近所のばあさんの仕業だと思うんですけど、今度やったらタダじゃおかないぞと。
-え?おばあさんなんですか?
久松:過去にも何回かあったんですが、全部ばあさんでした。おそらく今回もそうだと思います。
後日、再び現れた野菜泥棒は現行犯で見つかりました。久松さんの想像通り、近所のおばあさんだったそうです。
-いやー、今回は久松さんの「カリフラワー愛」が強すぎて、最後は変な話になってしまいました。いつもはロジカルで冷静な久松さんも、こんな「偏愛」があるんですね。人間味があって、すごくいい話だと思います。
(下の画像は実際の警報機)
※1:「フラクタル構造」:部分を拡大すると、全体と相似する形を見つけられる構造
※2:「フィボナッチ数列」:前の2つの数を加えると次の数になる数列。具体的には、1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89…のこと。