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任意後見人になった話と、法定後見人になった話(長いよ〜)

任意後見人になった話と、法定後見人になった話です。

ちょい長いですが、体験談として面白いと思うので公開します。同じ悩みを持った人にお役に立てば。


公証人役場でひらめいた

仕事柄、「公証人役場」によく行きます。

公証人役場とは、公正証書の作成、私文書の認証、確定日付の付与等を行う役場です。法務局が所管し、公証人が執務します。

いろいろ啓発ポスターが貼ってあったり、パンフが置いてあるので勉強になります。
「遺言書を作りませんか」「公正証書は行政書士にお任せください」みたいな。

離婚の時、子供の養育費を決めていてもそれが支払われない場合、公正証書があれば相手の給与差し押さえできるとか、確定日付を取っておけば言った言わないのトラブルを防げるとか、まぁそんな知識が増えていくわけです。

その中で一番興味を惹かれたのが「後見人制度」です。

後見人とは、判断能力が不十分な人に代わって契約などの法律行為をする人のことです。

親もけっこうな歳なので、この先何かあることもあるだろう…と言うのも、元気いっぱいで一人暮らししていた90代の叔母が、たった数センチの段差を1段踏み外して骨折し、あっという間に認知症になって施設に入居してしまったので。

ボケそうにない実父だけど、そんな事故もあるだろうし、そうなったらお金の事とかいろいろ面倒だな…
今のうちに後見人とやらを決めてきましょうってパンフがあったな…

で、そのパンフレットを父に渡し「お父さんがボケたら銀行のお金が動かせなくなって私ら姉妹が困るので、元気なうちに後見人決めておかない?誰でもいいから、お父さんが信頼できる人に」と、ぶっちゃけました。

そういう話をすると「縁起でもない!」「俺が死ぬのを待ってるのか!」と怒り出す人もいますが(そういう人は大抵何の準備もせず亡くなる)、うちの父はさばけた人なので、こっちが驚いたことに翌週には「公証人役場に行って頼んできた」と言うではありませんか。
はやっ!


父の任意後見人になりました


というわけで、私と姉は父親の「任意後見人」になりました。

この先父の判断能力がなくなったり、事故や病気で動けなくなったりした場合、後見開始の手続きによって公正証書に記載されている事項について本人に代わって手続きできます。

どういう事項を記載するかは本人の希望を聞きつつプロが作成するのですが、「目一杯詰め込んだので、これでほぼ全てカバーできます」とのこと。

またまたぶっちゃけますが、父が亡くなったなら話は簡単なんですよ。
こちらは正当な相続人なんだもの。

難しいのは、『存命しているけれど意思確認ができない』場合。

「本人の意思確認」ができないと預金の移動(たとえ家族でも、人のキャッシュカードでお金を下ろしたりするのは、本当はダメです。本人に頼まれてもダメです)、不動産の売買や賃貸、携帯電話の解約、車の売却、諸々何もできない。
家族が知らなかったローンや借金があってもその明細も開示されない。怖いですね。

そしてこれは盲点かもですが、重度の認知症の人は相続人になれません。
ええと、例えば父親が亡くなって相続人が「妻と子ども」だったとして、その妻が意思確認できない程度の認知症だった場合、相続手続きが頓挫するということです。

この場合は「法定後見人」が必要ですが、それが決まるまで預金の移動も不動産の売却も何もできない。

この間に故人の借金が発覚したらどうするんだろう…相続放棄のタイムリミットって3ヶ月じゃなかったっけ。借金まで相続しなきゃならないの??
あと、もたもたしてるうちに相続人の誰かが亡くなったりしたらとてつもなく面倒なことになる。
しかし事前に任意後見人を決めておけばこういう事態を回避できるのです。

手数料はかかりますが、いや手数料さえ払えばあとはすべてプロがやってくれるので楽チン。これで父に何があってもお金のことは大丈夫!とほっとしました。

これが去年の秋の話。

夫の実家売却計画が持ち上がる、が

私の話はこれで終了ですが、もうひとつ気がかりがありました。

夫の実家のことです。

一人暮らしをしている義母に認知症の症状が現れ始めた数年前から「いざと言う時のために誰かを後見人にしといたほうがいいんじゃないの。今なら簡単だよ」と夫氏に言っていたのですが、夫氏曰く「えー、財産があるわけでもないのに?」

そりゃそうだよね、必要に迫られなきゃフツーは後見人を立てようなんて思わない。
でも「必要に迫られた時」は概ね手遅れなんですが。

さて、認知症の進行のため一人暮らしが難しくなった義母が施設に入居して5年が経過した去年、空き家となった義実家に放置していた荷物を「そろそろ片付けよう」ということになり…ええ、コロナのせいで出歩けなくて暇だったんですよ。

衣類、食器、大型家具、家電、布団、大量の段ボール箱、あらゆる雑貨、大変だったのはオルガン(昔のものなのでむちゃくちゃ重いうえ、2階にあった)かな…

ほとんど自力で処理場に持ち込みました。自力搬入なら家庭ゴミは無料なので(量に制限あり)自家用車に目いっぱいゴミを詰め込み、処理場に20回は行ったと思う。

でもこんなに集中して片付けができるのは、義実家が徒歩圏内だったからです。これが新幹線で行くような場所だったらこんな片付けは無理だよ~

そろそろ秋も終わりの頃、永遠に終わらないかに思えた片付けが終わり、ガランとした家の中を見つつ、夫氏が「この家、売れるかなあ?」と言い出しました。

これは私も実感していたのですが、コロナで人流が変化しているようで、数十年間も空き地だったいくつかの区画が、ここ半年で全て売れて家が建ったり、長年の空き家が解体されて新築したりと「もしかして売り時?」て感じだったのです。

乗るしかない、このビッグウェーブに!

あまりにも荒れ放題の庭の草取りと、簡単なハウスクリーニングを業者さんにしてもらい、近所の不動産屋さんにお願いして査定、チラシ作成、サイト掲載してもらったところ、ななんとすぐに買い手が現れ契約の運びとなりました。
びっくりー!!!

頭の片隅に「あ、でも名義人のお母さんが認知症だけど大丈夫かな」と言う不安はあったのですが、「まぁ会話はできるし、何とかなるか」と思っていました。

何とかなりませんでした。

義母と面談した司法書士さんから「判断能力なし」とダメ出しされ、このままでは家の売却ができないことになってしまいました。なんてこったい。


義母名義の自宅を売却するために「法定後見人」を立ててくださいと言われました。


法定後見人を立てなきゃ家を売れない!

法定後見人とは、判断能力のない本人に代わって家庭裁判所が選ぶ後見人のことです。

「任意後見人」=自分で指名する
「法定後見人」=裁判所が指名する

もちろん長男である夫は、自分が母親の後見人になりたいと思っています。

でも裁判所の判断で誰が選ばれるかは分かりません。後見人の職業、経歴、本人との利害関係、その他の事情を考慮し、後見人として最もふさわしい人が選ばれます。

ほとんどは弁護士や司法書士らしいのですが、その場合は毎月の報酬(2万円~)が発生するし、預金その他の管理は全てその「家庭裁判所が指名した誰か」が管理することになります。まったくの他人に親のお金を全て預けるわけです。

そして自分が後見人になれなかったからといって「じゃあ申立を取り下げます」ってこともできません。
後戻り禁止。厳しいのです。

とにかく後見人がいなければなにもできないので、後見開始の審判を申立てをすることにしました。申立てできる人は、本人、配偶者、四親等内の親族、親族がいない場合は検察官などです。

通常は申立から不動産の売却まで「半年から1年かかる」と言われていますが、家を買いたいと言う人をお待たせした状態で1年なんて冗談じゃない。

幸い私の職場は官庁街に近いので、市役所、年金事務所、銀行、裁判所、法務局を駆け回って必要書類を集めました。
年金証書、介護保険料の通知書、固定資産税の通知書、自宅の謄本、その他もろもろ、あったと思ったら最新のものではなかったりと、もう全て再発行の依頼です。
これ、職場が町外れなら3倍の時間がかかったと思う。

マイナンバーカードがあれば証明書を簡単発行!なんて言いますが大嘘です。なんの役にも立ちゃしねえ。

そのほか、主治医の診断書、ケアマネさんの意見書、家族の意見書、財産の目録、施設の経費の領収書。数十枚に及ぶ書類の記入。
これらを揃えて家庭裁判所に提出しました。


法定後見人が決定した!

結果から言うと、こちらの希望通り夫氏が後見人に選出されました。

家庭裁判所から「あんたが後見人」という審判書をもらい、そこから2週間経過したら審判が確定し、さらに1ヶ月後「後見人登記」が終わって登記番号をゲット。

そこでいよいよ「居住用不動産処分の許可の申立て」を行い、1ヶ月後これに許可が降りて裁判所の関連は終わり。

そっから先がまた長かった!!

住宅診断(インスペクション)や指摘事項の補修、土地家屋調査士による境界石の設置(費用たっか!)などなどを経て、ようやっっっと家屋の売却は終了しました。

かかった時間は8ヶ月。

裁判所の手続きだけなら4ヶ月で終わって不動産屋さんには「すごい早いです!」と褒めてもらったけど、とにかくひとつ申請するたびに毎日郵便受けを見ては「まだ裁判所から通知こない……」と焦る日々はちょっと辛かったよ。

土地家屋の売却がこんなに面倒で時間のかかるもんだなんて知りませんでした。

実家が近所でさえこんなに面倒なんだから、これが遠方なら物理的に無理だよ~空き家の放置が増えるわけだわ。
しかもこれ自分の実家じゃなくて夫の実家のことなので…ふうぅ~~…


親が元気なうちにやっておけば、安い、早い、そして簡単

そんなわけで、私と夫はそれぞれの親の後見人になりました。とはいえ私はまだ後見開始していないのでやることはなにもありません。

夫は後見開始しているので、日々のお金の管理と、あとは毎年裁判所への報告が必要ですが、施設への支払いは履歴もきっちり残るしそれ以外に動くお金なんてほとんどないので面倒なことはないです。
まあ、そんなだから身内が後見人に選ばれたのかもしれません。

で、なにが言いたいかというと「名義人が重度の認知症の場合は不動産の売却ができません」、ここだけ覚えておいて、あとはそれぞれの状況に応じて事前に対策を考えておいたほうがいいよってことです。

一人暮らしなのか、同居家族がいるのか、不動産価値、住宅ローン残債の有無、年齢、財産状況、家族の関係、認知症の程度、施設に入居するのか、その費用はどうなのか、もろもろ加味してベストな方法をシミュレーションしておかないと。

親が元気な時に「家やマンション買うなら援助するよ」と言われてそのつもりでいても、認知症が進行したらできなくなっちゃうかもしれません。

とにかく早め早めに本人と家族で話し合って、専門家に相談することです。
「俺が死ぬのを待ってるのか!」と怒り出すような親なら、なおさら事前準備が必要です。だってそういう親は自分の口座や重要書類の場所なんかを家族に教えないんだもの。

「こんなはずでは」にならないよう健闘をお祈りします。

では!


2021年10月17日のブログより加筆転載


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