バランス
23日朝刊。天声人語氏の語るところはいつものように冷静で、バランスのとれたものでした。これはこのコラムに限らない「朝日」の美点で、煽ることの多い他紙や映像メディアとはおおいに異なるところです。
氏はまず、山口県光市で9年前に起きた母子殺害事件被害者の夫に触れて、「煮えたぎるものを、これほど静かに、強く語れる人を知らない」と綴ります。続けて、NHKと民放の放送倫理・番組向上機構(BPO)の指摘を引くのです。
そして最後に、国民の大多数が満足するであろうところの極刑という判決を得た今、問題はぼくたち自身に帰ってくるのだということを伝えます。「1年ほどで裁判員制度が始まる。一審のみとはいえ、恐らくは証拠と感情が折り重なった部屋で、他人の人生や、時には生命までを処断することになる」。
煽り屋に満ちたエセジャーナリズムは、メディアコントロールに長けている。しかし、だからこそ、今のぼくたちに必要なのはなによりもまず冷静さであり、バランス感覚であるように思われます。(2008.04.25)