垂涎の一冊

 ようやく栃折久美子さんの新著『森有正先生のこと』(筑摩書房)を入手しました。三ヶ月で三刷。森有正ファン未だ死なず、でしょうか。栃折さんのファンはもちろんのことですが。

 こうなると仕事が手につかなくなりますね。サボっても読みたい垂涎の一冊。霞の彼方に消え去って良いはずの出会いが、なぜこうもヴィヴィッドに描き出されうるのか。つまりそれは、栃折さんと森との出会いがたんなる恋ではなく、栃折さんにとっては、森を〈自分のなかにcreateする〉旅だったからでしょう。

 考えてみると、ぼくだって、森の100分の1ほどの能力もないくせに、学生時代からずっと取り憑かれっぱなしのまま今日に至っているわけで、ほとんど恋愛ですよ、やっぱり。

 栃折さんが、自分で立ち上げた工房の運営を後輩たちに譲って──、

 自分の「アトリエ兼書斎」に戻ったら、最初にする仕事は「森先生との十年間」を書くこと、と決めていたので、ドイツへ行く前から、十年分の日記を出して、付箋をつけながら読みはじめていた。

栃折久美子『森有正先生のこと』筑摩書房、200頁

 遥かな時を難なく超えてなお惹き付けて止まない、森有正の磁力の強さよ!(2004.1.12)

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