見出し画像

図書館と私のドキドキの2週間

エッセイを毎日執筆するようになる少し前、私は図書館に週5日通っていた。

会社近くに図書館があることを知った私は、ここぞとばかりに通った。以前のエッセイでは週1日通っていると書いたが、実際は週4日〜5日は通っていた。

だが、毎日少しづつエッセイを書くうちに、本を読む時間よりもエッセイを書く時間の方が多くなっていった。図書館に週5日通っていたのも、ある意味エッセイを書かないための言い訳だったのだ。本を読まなくちゃいけないから、エッセイを書く時間がない。そんな風に、本を読む時間はエッセイを書かないための免罪符だった。

そんなエッセイを書きたくない時期を乗り越え、毎日執筆できるようになったのは、本の返却期限を2週間ほど過ぎた頃だった。

正直、返却期限を過ぎていることは知っていたが、忙しさを理由に後回しにしていた。とはいえ、さすがに1ヶ月延滞するのは気が引ける。私が借りてる本を待っている人がいるかもしれないし、ゴールデンウィーク前に何冊か本を借りておきたい。

返却期限から3週間を過ぎようとする頃、私はようやく図書館に行くことができた。あんなに毎日通っていたのに、行くのがこんなに怖いなんて…びくびくしながら図書館に忍び込んだ私は、受付カウンター横の返却ボックスに直行し、しれっと本を投函した。非対面で本が返却できることが唯一の救いだった。

本当はすぐにでも本を借りていきたいところだが、返却まで1時間は見ておいた方がいいだろう。その間、館内をぶらついて本を物色する。いつも本を借りる棚を隅から隅まで眺めてみたり、実用書や児童書のコーナーを覗いてみたり。小学生の頃に読んだ懐かしい本を見つけたり、思わぬ場所にエッセイコーナーを見つけたりと、新しい発見もあった。

気づいた頃には、返却ボックスに投函してから2時間が経過していた。さすがに返却も終わっているだろう。多少不安が残るものの、目星をつけていた本の貸し出しを始める。この図書館には自動貸し出し機があるので、利用登録カードがあれば誰でも使える。

窓口で貸し出しをした場合、司書さんから「この人、2週間も延滞していたのか」と冷たい視線を向けられる可能性がある。自分が蒔いた種とはいえ、その視線を受けながら手続きを待つのは耐えがたい。自動貸し出し機でそそくさと貸し出しを始めた。

だが、いざ貸し出し手続きを始めるとエラーが出てしまった。「本を全て持って受付に行ってください」とメッセージが表示される。2回やっても同じエラーが出た。

これは、「2週間も延滞した人間が本を借りられると思うなよ?」ということなのだろうか。怖くて延滞した場合のペナルティを調べていなかったが、もしかしたら「延滞後数週間は借りられない」「借りられる本の数が減る」といったペナルティがあるのかもしれない。

傲慢にも4冊の貸し出し手続きをしていた私。もしや1冊づつならいけるかも(?)と思い直し、慎重に1冊づつ手続きをする。予想は的中し、エラーが出ることなく貸し出しができた。なんだ、ペナルティなんてないじゃんとほっとしたのも束の間、3冊目で同じエラーが出てしまった。

先に手続きした2冊が借りられたということは、貸し出し自体は問題ないはず。もしかしたら、借りたい本に誰かの予約が入っているのかもしれない。2冊借りられたのだから大人しく帰ればいいものを、ペナルティがないことに安心した私は、図々しくも受付で手続きしてもらうことにした。

事情を説明すると、司書さんは嫌な顔せず手続きをしてくれた。特に予約が入っていたわけでもなく、エラーの原因はわからないまま手続きは終わった。

図書館から帰る道すがら、ふと、こんな風にドキドキしながら本を返すのが初めてではないことを思い出していた。大学生の頃、同じように市の図書館で本を借り、返却期限を過ぎても返さなかった私。どれくらい延滞したのか思い出せないが、図書館から督促状がきた上、なかなか返さない私に呆れた両親が部屋の扉に督促状のハガキを貼る始末だった。

その時も延滞のペナルティはなかったものの、見つからないようにこっそり返却ボックスに返したのを覚えている。歳を取ればもっとちゃんとした人間になれると思っていたのに、いつの間にか返却期限を守れない大人になってしまっていた。エッセイを毎日書けるようになる前に、借りた本を期限内に返せる人間になりたい。願わくば、返却期限を前倒して返せる人間になりたいと思うのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?