【一生使えるCS道具箱 1/x】カスタマーサクセス活動改善マップと改善施策考案の実践 ~サービスサイエンスからアプローチするカスタマーサクセス改善~
こんにちは。朝でも夜でも比留間です。現在、株式会社ログラスでスペシャリスト職としてカスタマーサクセスをしています。
私のバックグラウンドはビジネスプロセスコンサルタント、ITコンサルタントであり、ログラスではそのスキルセットを活かしながらお客様の新規経営管理業務設計や、社内のポストセールスにおける多種多様なプロジェクト推進を担っています。
プロジェクトの旗振り役だけでなく、はじめは自分で実務を引き受け、高速で効率化・型化をしながら、新入社員や業務委託の方々、BPOベンダーさん、学生インターンの方に業務運用を渡していって運用の安定化・生産性向上を図っています。
こうして特性の異なるリソースを組み合わせながら、ログラスの事業・組織のスケールに耐えられるよう、カスタマーサクセス業務を形作る仕事は、自分の持つスキルセットをログラスにとってもっともレバレッジが効く形で還元できているなと感じています。
1人めカスタマーサクセスの矢納さんは経営戦略室に、2人めカスタマーサクセスの浅見さんはPMMを立ち上げてそちらに注力したので、私はログラスの殿軍として大事な役目を果たそうと思っています。
私は、2016年頃、前職のビジネスプロセスマネジメントサービスリーダーであった山本 政樹さんとオムロンフィールドエンジニアリングの元常務取締役の諏訪 良武さんがJUAS(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会)で研究会を持っており、若手としてそこに出入りしていました。
そこで学んだことのひとつがサービスサイエンスであり、普遍性も高く、今でも自分の仕事の根幹にこの体系が根付いています。
私が本格的にSaaS事業のカスタマーサクセスをはじめたのはログラスに入社してからであり、ログラスのカスタマーサクセス活動を通じて考案したナレッジをnoteとして公開したいと思います。
この記事を無料公開することにより、カスタマーサクセス領域のコンサルティング・サービスの流行が3年遅れるかもしれません…笑
各種ネーミングは少しキャッチーに寄せておりますが、ご了承ください。
カスタマーサクセス活動改善マップ
サッと結論からいきましょう。
意味のあるカスタマーサクセス活動の塊(定例会やウェビナー、メールマガジンなど。つまりサービスの単位)を変数として、縦軸に「ユーザーが持つサービスへの期待とベンダー(カスタマーサクセス)が実際に行ったサービスが上方・下方乖離度」を取っています。言い換えると、期待より大きすぎると上のエリアに、期待通りだと真ん中のエリアに、期待より下回りすぎていると下のエリアにマッピングします。
横軸は「投下リソース」です。投下リソース(ヒト・モノ・カネ全般)が多ければ右に、少なければ左にマッピングします。
軸のルールに従って、実態に即して定性評価すると、3つのゾーンと、9つのブロック、そして3つの壁を持つ以下のマップを考え至りました。
マップの構成要素を説明していきます。
3つのゾーン
すべてその名の通りと言ってしまえばそれまでなのですが、説明を付け足していきたいと思います。
お節介ゾーン
たとえば、勤怠管理システムのカスタマーサクセス担当から、月初から勤怠が締まるまでの間、毎日1日3回リマインドの電話がかかってきたら、それはお節介なわけです。
まず甚だしい例を出してみましたが「定例会の頻度が高すぎる」「定例会のアジェンダが多すぎる」といった、ユーザーの時間を奪いすぎているタイプのお節介も起こりえます。
ユーザー目線では「不満ではないのだけれど、そこまでがんばらなくていい」カスタマーサクセス活動です。
これはプロアクティブに動くカスタマーサクセス活動だからこそ起きやすいもので、リアクティブなカスタマーサポート活動だと起きづらいです。起きるとすれば、せいぜい問い合わせ回答文面に、やたら関連記事や参考情報を載せたりする程度でしょう。
これは、リソースがギリギリの状態でやっているカスタマーサクセスチームよりも、リソースに余力のある一定規模の大きいカスタマーサクセスチームで、このゾーンのカスタマーサクセス活動が起こりやすいでしょう。
がっかりゾーン
ユーザー目線で「もっとがんばってほしいなぁ」と思われてしまっているカスタマーサクセス活動です。私自身も「必ず常にお客様の期待を越えられているか」と問われたらNoと答えるので、あまり偉そうに言うものではないですが、いかにこのがっかりゾーンのカスタマーサクセス活動を減らすかがカスタマーサクセス組織の総合的な質に直結すると言ってよいでしょう。
ヘルプページが分かりづらいであったり、ウェビナーのバナーがカッコ悪い、ユーザーコミュニティイベントの運営がグダグダしている、だとかそうしたことも、お金を払ってサービスを利用しているユーザーからは気になるものです。
得てしてユーザーの評価と自己の評価では、自己の評価のほうが甘くなってしまいがちですので、意識的に厳しめに自己評価して、がっかりゾーンと後述するハッピーゾーンの見極めをすべきだと思います。
ハッピーゾーン
こちらは、ユーザー目線で「対応してくれてうれしい、期待通りだ!」と満足しているカスタマーサクセス活動です。
プロダクト新規機能の内容だけでなく、過去要望や業務を踏まえた具体のユースケースまで踏み込んだ案内であったり、ユーザーがしてほしいと思っていること、期待していることにしっかりと打ち返せている状態がこのハッピーゾーンです。
顕在化している期待もあれば、潜在的な期待もあり、そうしたことに応えらえるとかなりスジの良いカスタマーサクセス活動であると言えるでしょう。
事前期待とサービスの関係については、サービスサイエンスについてぜひ書籍等で学んでいただけますと幸いです。
ゾーンごとの割合
ゾーンを区切ったからには割合にも言及せねばなるまいと思い、考えてみようと思います。
理想はもちろんO:H:G=0:10:0です。もしくは新たなカスタマーサクセス活動や施策の検証のために、O:H:G=0:9:1~0:8:2、といった割合も健康的でしょう。
一般的に、成熟したカスタマーサクセスチームであれば、O:H:G=1:7:2であればとても優秀。立ち上げ初期のカスタマーサクセスチームであれば、それぞれのCSMのクオリティの差や入社歴の浅さもあるためO:H:G=1:3:6~1:6:3くらいが幅ではないだろうかと思います。
9つのブロック
ネーミングでおおよそ察することができるかと思いますが、微に入り細を穿つことになるため、機会があれば別のnoteで詳述しようと思います。【H-1】理想郷、【H-2】お互いちょうどいいと【H-3】正しい努力で至った仕事の色を変えている理由だけ補足します。
【H-3】をお客様(サービス受益者)目線ではハッピーなのですが、ベンダー(サービス提供者)目線ではアンハッピーであるため色を変えました。ゾーンの名称はすべてお客様目線で記述しており、複雑化するためブロックの色変更に留めました。
縦横軸を抽象度の高いものにしているため、すべてのカスタマーサクセス活動は、この9つのブロックのどこかにはマッピングされます。
自分たちのカスタマーサクセス活動がどのブロックにマッピングされるか分からない
こうした状況にある企業さまは多いと思います。各社のカスタマーサクセスチーム皆さん手探りでやられていて、自分たちの支援がユーザーの期待に応えられているのか不安に思いながら日々はたらかれてているかと思います。
一定、成功体験を積んできたチームや事業運営年数が長く規模の大きなカスタマーサクセスチームでは、すでにハッピーゾーンの活動が中心であり、このマッピングに価値を感じづらいかもしれません。
一方で、プロダクトの立ち上げ時期やカスタマーサクセス活動(≒チーム)の立ち上げ時期で、まだカスタマーサクセス活動のラインナップが定まっていないような状況にある方には価値を感じていただけるのではないかと思います。
「自分たちのカスタマーサクセス活動がどこにマッピングされるかわからない」そう思った方は、まず現状把握をしましょう。
現状を把握することはとても重要です。ログラスも"But We Go"(越えられない壁はない)というカルチャーがありますが、厳しい現実を直視しなければ、何を乗り越えるべきなのか定めることはできません。
"But We Go" (越えられない壁はない)について詳しくは以下のnoteを参照してみてください。
シンプルに言うと、ユーザーに聞きに行きましょう。
プロダクトのNPSではなく、カスタマーサクセス活動についてのNPSや評価アンケートを実施します。同時に、いわゆる①ファン顧客・ロイヤル顧客、②中庸顧客、③低利用率・解約懸念顧客など、属性やカスタマーサクセス活動への評価に差分が大きそうなユーザーを選ぶと幅のある評価が得られるでしょう。
そうした調査の結果をもって、自分たちのカスタマーサクセス活動を棚卸し、どこにマッピングされるか考えてみましょう。
3つの壁
やめる勇気の壁
皆さんも何がしか経験あるかもしれませんが「行きもしないジムの月会費を払い続けている」「ほとんど見ないネット配信サービスの料金を払い続けている」といったことは多かれ少なかれ実感があるのではないでしょうか。
人間は、ある仕組みの中に入ってしまうと「やめるのが苦手」です。逆に、毎週3時間はジョギングするぞ!といった仕組み化されていない活動は「やらなくなるのが得意」です。
仕事は、基本的に金銭的報酬、生活の糧と紐づいており、会社組織という枠組みで見れば仕組み化されていますので「やめるのが苦手です」。
個人でさえサービスの解約手続きが面倒なのに、組織ぐるみで関係者に説明してまわり、何かをやめるのは一苦労です。
その苦労をするくらいなら、今の苦労を受け容れてしまおうとも思うかもしれません。
お節介なこと、余計なことをやめるのは難しいのです。
ただ、その壁を乗り越えないと、ハッピーゾーンにはたどり着けません。
お節介ゾーンから脱しようとする時に起こり得ることで「やめる」と「減らす」はまた異なっていたりするのですが、反響があれば考えを書いてみたいと思います。
サービス改善の壁
この壁はシンプルであるが、シンプルがゆえに即効性のある改善が難しい壁です。
そもそもユーザーがCSMやカスタマーサクセス活動にどのような期待をしているのか特定、あるいは仮説を立てなければなりません。
ユーザーには、職位、役割、プロダクト利活用状況、企業の業績といった様々な変数が存在し、それによって期待が異なるといったことがほとんどです。
スタートアップのようなリソースや顧客数が限られた組織においては、マーケティングで用いられるようなN1分析を応用しながら探っていくのがいいかもしれませんし、一定大きな企業であれば、近しい属性のユーザーにABテストをしてみてもいいかもしれません。
ログラスは高単価なB2B SaaSということもあり、これまでは1社1社にコミットメント高くご支援してきました。その結果、プロダクトやCSM1人1人の努力によって、高いNPSを得ています。
ログラスではCSM1人1人がまずは個人で改善を回して質を高め、OJTをしながら新入社員に伝授していく、カスタマーサクセスチームの勉強会でシェアするといったかたちでサービス改善をしているのが実態であり、N1分析のアプローチに近かろうと思っています。
このnoteはあくまでマップ、俯瞰・統合として扱いたいので、サービス改善の各論やアプローチについては読者の皆さま各々調べていただけたらと思います。
効率化の壁
この壁の手前、つまり【H-3】正しい努力で至った仕事 までたどり着けたなら、それはとても素晴らしいことです。
カスタマーサクセス活動は、広義ではコンサルティングサービスや代行サービスと同様にビジネスサービスに属しますが非常に難しいビジネス・業務です。
モノであれば、その機能には一定再現性があり、買う側・受益する側の期待はズレにくいです。一方で、サービスはヒトが価値提供を行うため、再現性は相対的に低いです。
買う側・受益する側も欲しいもの・得たい価値が明確に言語化できているわけではなく、期待値調整は難しいです。
そのような中でも、ユーザーの事前期待にマッチする【H-3】正しい努力で至った仕事 のカスタマーサクセス活動ができていることは偉業です。
つまり「いつどこでだれにどのようなアウトプットを出せばよいか」ということが判明したということなので、あとはインプットとプロセスを磨き込むことで「ユーザーは嬉しいけど、CSMはしんどい」という状況を脱することができ「ユーザーは嬉しくて、CSMも余裕を持って価値提供できる」お互いにハッピーな【H-2】に至ることができます。
壁の乗り越え方
「やめる勇気の壁」の乗り越え方
ひとつめはテクニック論ではなく、精神論です。「やめると決める。」これだけです。過剰なサービスを提供しているというファクトが集まったのであれば、カスタマーサクセス部の部長や、マネージャー、チームリーダーにとって、この決断をする圧力は一定あるはずです。
メンバーは「勝手にやめる」ことは、ほぼできないので権限ある職位の方が意思決定すべきです。逆にメンバーの方は「この仕事やりすぎ(【O-3】)かも…。」と思ったらファクト集めて、リーダーに提案するなど、フォロワーシップを発揮するとよいでしょう。
ログラスでは、私から当時カスタマーサクセス部のマネージャーだった浅見さんにかけあい、すぐ決まりました。
やめた取り組みに関してはこちらのnoteを参照ください。
ふたつめは「別の担保手段を用意する」です。とはいえ「やめる」のは怖いです。ユーザーとの接点を減らしたり、これまで伝えてきた内容やチャネルを減らすのは不安が伴います。
ですが、主にテクノロジーの力を使って、不安を取り除くことができる時があります。
ログラスでは、定例会の頻度を減らしたのですが、やはりここでの大きな不安は「お客様の状況をアップデートする頻度が減る」ことでした。
そこで行ったことは、プロダクトのログデータ集計・出力基盤の構築と簡易的なスコアリング(原始的なヘルススコア)でした。これにより、ログインしていないなど強いアラートを示すユーザーが分かるようになり、データ・仕組み面でお客様の状況把握を別の手段で担保できるようになりました。
すべてのカスタマーサクセス活動で、このような担保の仕組みを用意することは難しいかもしれませんが、より省エネな手段で代替することにトライすることは、効率化文脈にも寄与しますのでオススメです。
「サービス改善の壁」の乗り越え方
カスタマーサクセス活動自体が非常に広範で抽象化しづらいので、反響があれば別のnoteで詳述することにします。
たとえば「お客様への口頭案内のクオリティが低い」時も、プロダクトの知識が弱いためなのか、お客様の業務解像度が低いためなのか、あるいは説明資料のデザインが悪いのかなど、個別性が高く、noteで語るには重すぎるテーマです。
やめる勇気の壁にせよ、サービス改善の壁にせよ大半は一度【H-3】を目指すことになるでしょう。もし示唆出しのスジが良く、ユーザーの期待値把握が上手いのであれば、【O-2】から【H-2】にサッと至ってしまうかもしれません。
しかし、誰でも再現できるようなナレッジとしては、はじめは少し投下リソースが増えるかもしれませんが、愚直に【H-3】にカスタマーサクセス活動を落とし込みに行く方が成功確率は高いでしょう。
「効率化の壁」の乗り越え方
ここに関してはすでに様々なナレッジやノウハウ、サービスが世に出ているため、詳述は控えようかと思います。問い合わせ対応の文脈ではAIチャットボットであったり、ドキュメント作成においてはNotion AIであったり、手段は様々です。
【H-3】に至ることができたら、あとはその業務を効率化して投下リソースを下げ、【H-2】に達することを目指します。ここまでくれば、ユーザー対応をするカスタマーサクセス本人ではなく、業務設計や効率化スキルを持つCSOpsに相談して進めてもらってもよいでしょう。
カスタマーサクセス活動改善マップの展望
読みながら気付いた方もいらっしゃるかとは思うのですが、このカスタマーサクセス活動改善マップには、時間軸の概念がありません。
裏を返すと、カスタマージャーニーマップやサービスブループリントのような時間軸を扱う枠組みとの相性がとても良いのです。
カスタマージャーニーマップで時間を横軸を取ると、カスタマー活動が顧客接点として並び、可視化されると思います。そのカスタマーサクセス活動がどのブロックなのか(【H-2】なのか【G-3】なのか)をプロットしていくと、自然と改善の方向性や順序が重い浮かぶでしょう。
活動の工数ボリュームや、ビジネス(アップセルやダウンセル)への影響度も扱っていません。しかし、これについては設計に沿ってマッピングするというよりも、CSMの定性情報を信用して個々のカスタマーサクセス活動単位で情報を集めたほうがいいでしょう。
こうした一連の取り組みをリードできると、カスタマーサクセス活動の業務改善に悩む企業さまにコンサルティング・サービスができそうですね。
最後に
仰々しく定義や設計を振り回してまいりましたが、ログラスのカスタマーサクセス活動には助けてほしいことがたくさんあります。
マーケティングなど受注前のチームの成果が軒並み高く、パイプライン(受注残)が潤沢で、カスタマーサクセスチームが受け容れるべきお客様がたくさん待っています。
また、IT投資管理のような新しいユースケースも生まれており、経営管理以外のユースケースや新たなプロダクト・モジュールに対応することができるカスタマーサクセスチームのケイパビリティも伸ばしていかなければなりません。
それはCSMだけではなく、CSOpsやカスタマーサポートも同様で、情報コンテンツの増大は常にUXの低下を招きますので、UXを落とさずいかにユーザーに必要な情報を必要な時に届けるかあるいは探せる状態を作り出すか、そうした仕組み作りが必要です。
ログラスのお客様の4割ほどを私が見ていた時期もありましたが、今では2割弱まで落ちており、どんなに生産性を上げても、到底オペレーションしきることはできません。
そんな前向きな課題がたくさんあるログラスのカスタマーサクセスではたらきませんか?
We Are Hiring!!
カスタマーサクセス系の職種はほとんどのポジションがありますので、ログラスでのキャリアに少しでもご関心がございましたら、ご応募いただけますと幸いです。
私のSNS(X(Twitter)、LinkedIn)でDMをいただけましたら、カジュアル面談もいたしますので、お声がけいただけますと幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
比留間