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【一生使えるCS道具箱 2/x】サポートデスクBPO移管経験者が教えるカスタマーサクセス業務BPOのはじめ方~What編~
この投稿は、CS HACK Advent Calendar 2023の記事です。前日はHubble CCOの山下さんの「就任半年、リーガルテックのCCOが今思うこと」という記事です。
2023年がんばった皆様にクリスマスプレゼントとして本記事をお贈りしていきたいと思います!
こんにちは、朝でも夜でも比留間です。経営管理クラウド"Loglass"を開発・販売する株式会社ログラスのビジネス職8人目、カスタマーサクセス職3人目の社員で、現在はカスタマーサクセス部でお客様対応やCSOpsに近い領域でマルチに働いています。
前職ではIT・業務プロセスコンサルタントをしており、IPAが出しているビジネスアーキテクトに近いスキルセットを持っていると思っていただけたらと思います。
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【一生使えるCS道具箱 2/x】と題されていますが、1作目はこちらです。
はじめに
2023年12月14日に日本のSaaS/CSを語るうえで欠かせない存在、山田ひさのりさんからカスタマーサクセスのBPOに関するnoteが発されました。
ログラスでも今年からBPOベンダーを用いた、カスタマーサクセス活動にチャレンジしており、そのノウハウをお届けできると日本のSaaS業界/CS界隈に貢献できるのではないかと考え、noteを出すことにしました。
私自身、専門商社のお客様にコンサルタントとしてご支援していた際、SAP社内サポートデスクの立ち上げ(自分でオペレーターもやりました)からBPOベンダーにアウトソースする取り組みをしていたことがあります。このnoteでは当時の経験を生かしつつ、ログラスでカスタマーサクセス業務BPOを行った取り組みのポイントをお伝えしていきたいと思います。
前編はWhat編(本記事)、後編はHow編(2024年始公開)という2部構成にしていきますので、ぜひ最後までお読みくだい。
はじめにBPOベンダーに渡すのに向いている業務特性
結論からお伝えしますと、以下①~③に当てはまる業務をBPOベンダーにはじめに渡すことをオススメします。
①相対的に中程度の付加価値を持つ業務
②周期性と反復性が高い業務
③お客様に価値が届くまでの業務プロセスが相対的に短い業務
それぞれ触れていきます。
①相対的に中程度の付加価値を持つ業務
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いきなり抽象度が高いですが、この点に山田さんがズバッと切り込んでくださっています。
オンボーディングをやったことがある人であればわかると思いますが、新規顧客への導入支援は共通のパターンが存在します。オンボーディングはそもそも、将来のアウトカム創出の前提となる「高活用状態」を作るために、「初期利用時にここを外してはいけない」というポイントを把握し、そのために設計されたオペレーションにそって新規顧客にそのポイントをトランスファーする行為です。これは裏を返すと、
A:外してはいけないポイントの見極め
B:それを促進するためのオペレーションの整備
の2つがされていれば誰でも再現可能ということを意味します。
業務の付加価値の高さと再現性の低さは、多くの場合相関します。特にB2B SaaSのような特定の業務ドメインへの深い理解を要するビジネス・プロダクトであれば、お客様に価値を届けるためには、ドメイン知識・プロダクト知識・自身の経験とスキル・お客様の固有事情などかけ合わせて仕事をしなければなりません。そうなると再現性は低いと言えます。
なお、1年に1回ほどXで「即レス」に関するポストが盛り上がりますが、これは付加価値が高く・再現性も高い仕事術であるためだと私は考えています。できるかできないかの世界ではなくやるかやらないかの世界ということです。
「相対的に中程度」と言っているので「低い程度」についても言及しなければなりません。契約更新に関わる営業事務・契約事務や、データ整備や監視といったことはそれぞれ重要な機能を担いますが、お客様への付加価値を基準とした際には相対的に低いもののなります。
営業事務・契約事務であれば、セールスやコーポレートサイドとワークシェアして、契約社員の方や派遣社員の方に担っていただくのが向いています。データ整備や監視は整備ルールやしきい値、ネクストアクションが決まっているのであれば、学生インターンの方に任せていってもいいでしょう。
ですので、
相対的に高付加価値:正社員CS
相対的に中付加価値:BPOベンダー
相対的に低付加価値:契約社員や学生インターン
というようなイメージで業務とリソースの割り当てをイメージするとよいかと思います。業務とリソースのスキルセット、ケイパビリティをセットにしていくのはマネジメントの基本ですが、BPOでも重要となります。
断り書きをすると、こう書くとBPOベンダーを低く捉えているように思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。それぞれの役割が結集しなければ、お客様に価値は届けられないと考えています。
法人のミッションも個人のキャリアもそれぞれどう設定するかは自由であり、双方尊重しながら協働していくマインドセットを持っています。自分自身が事業会社のクライアントに対するベンダー側にいたことが長く、いわゆる「ベンダー扱い」されるよりも、パートナーとしていっしょにお客様に向かっていくほうが気持ちよく、良い仕事ができると考えています。
実際にログラスに入場いただいているBPOベンダー、メンバーの方々にはご活躍いただいており、とても感謝しています。もっと良くなる点はもちろんありながらも、共に成長していきたいと思っています。
②周期性と反復性が高い業務
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①程度でドヤ顔していては、マネージャー経験のある方からは笑われてしまうので、観点を付け足してもう少し網を狭めていきます。
こちらも直感的に理解できるかと思いますが、説明を加えていきます。
BPOで成果を得る難しさというのは、そもそもBPOベンダーのビジネスサービス・業務実行によって生み出される成果が、クライアントが求める成果基準(QCDなど)を下回りやすいということです。
自社の社員以外の方々に業務をお願いし、安定的に成果を返していただくには、クライアント側のマネジメントが重要です。
周期性と反復性の高い業務は①いつ始まるか、②何をやるか、③どんな状態になっていればいいか、④いつ終わればよいか明確にしやすいです。
一方で、周期性と反復性の低い業務はその①~④の定義が困難です。
これは山田さんの記事でも言及されています。
オンボーディングをやったことがある人であればわかると思いますが、新規顧客への導入支援は共通のパターンが存在します。
まさに反復性が高いことを指していますね。
Loglassは経営管理業務を支援していますので、お客様の年次の組織変更によって、Loglass内の設定を変えなくてはなりません(変えないと翌年使えないので必須)。
お客様自身で設定変更できるのがベストですが、年次の設定であり仕様の細かいところは忘れがちであるため、こうした設定支援は周期性が高いカスタマーサクセス業務と言えます。
すでにお気づきになっているかもしれませんが、周期性と反復性が高い業務は「型化」が進みやすい業務であることが多いです。「型化」は前述の①~④のパターンを集める、定めることとほぼ同義です。
「型化」をしてからでないとBPOベンダーに渡せない、という固定観念を持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、カスタマーサクセス業務のBPOベンダーの営業の方と話を聞くと必ずしもそうではなく「型化」の支援もできますというケースが多いです(次回how編でも言及します)。
周期性と反復性が高い業務は、クライアントとBPOベンダーの間での業務設計、成果の期待値調整・伝達がしやすいため、はじめにBPOを検討する業務として向いています。
③お客様に価値が届くまでの業務プロセスが相対的に短い業務
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②で説明したことを踏まえると、③はスッと理解できるのではないでしょうか。
SaaSビジネスのカスタマーサクセス業務は、各社蓋を開けると多岐に渡っており、クライアントが出してほしい成果とBPOベンダーが出す成果をすり合わせるのは難しいと考えられます。
国内SaaSの雄である、freeeさんは数年前から取り組まれていたようで、難儀した点も伺い知れます。チャーンコントロールというのはまさにクライアントとBPOベンダーの期待のすり合わせ部分だなと思います。
前職のfreeeでもOnboardingのBPOは数年前から取り組んでいたのでとても共感できるnoteでした。
— ymkn | カスタマーサクセス (@ymd1703) December 18, 2023
経営目線で見ても受注量の季節変動に対応できるコストメリットはあると思います。一方でchurnコントロール/VoCやナレッジの集積/メンバーのマインドチェンジ辺りは工夫が必要だった印象です。 https://t.co/9MC0VfGSdh
③に関しては、シンプルな理屈で、長い業務プロセスは成果創出における変数が多くなりやすく、短い業務プロセスは成果創出における変数が少なくなりやすいです。
そのため、短い業務プロセスのBPO化にトライするのがはじめはオススメです。
保険の申請や審査、払い込みといった長い業務プロセスであっても、業務フローや意思決定表(ディシジョンテーブル)がしっかり整備されていれば、BPOできると考えられますが、SaaSのカスタマーサクセス業務においてこうした業務はなかなかありません。
「アウトカム創出」や「NRR向上(受注)」といったことは、一般的にタイムスパンが長く、取り組みが複合的(ボードメンバー、アカウントマネージャー、カスタマーサクセス、カスタマーマーケティング)であることがほとんどであるため、長い業務プロセスと言えます。
長い業務プロセスを渡すと期待値乖離が起きやすく、より細かく割って、短い業務プロセスに咀嚼してから渡していくべきと考えています。
お客様向けのカスタマーサポートや月次・年次案内、FAQ作成/公開、といった短い業務プロセスから渡していき、徐々にアンケート設計~作成~展開~回収~分析といった長い業務プロセス、プロジェクト型の業務を任せるか検討していくとよいでしょう。
何をBPOベンダーに渡すか
どのようなカスタマーサクセス業務をはじめにBPOベンダーに渡すとよいかを業務特性の観点から見てきました。ここからはより具体的にどのような業務を渡していくか説明していきます。
カスタマーサクセス業務一覧の作成
まずは自社のカスタマーサクセスチームがどのような業務をしているか全体像を把握します。
ログラスでは私が入社してから作成・管理しているカスタマーサクセス業務一覧のスプレッドシートがあります。
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新しくカスタマーサクセス職でご入社される方のオンボーディングに用いたり、Google Driveのフォルダ構成の検討インプットになったりしています。
常に最新状態に保つのは難しいため厳密な管理・運用はしていないのですが、組織の機能分業と各業務の型化も進んできましたので、また更新していく予定です。
もしこうしたカスタマーサクセス業務一覧がまったくなければ、有識者の知恵を借りましょう。レクシエス社丸田さんがnoteに公開してくださっていますので、これをスプレッドシートにリスト化しましょう。
その大きなレベルの下に、自分たちが行っている業務メニューを書き出していきます。たとえばCSチーム定例のあと30分設けて、みんなで集中すれば9割ほど書けると思います。
提案依頼するBPO業務範囲の決定
業務一覧ができたら、前述してきた①~③の業務特性に照らして、どの業務をBPOベンダーに渡すか社内で議論します。
次回のhow編で詳しく書きますが、クライアント側が提示しないとBPOベンダーはなかなか範囲外の業務を提案してくれないので、少し広めに業務範囲を出しています。
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2列目の業務カテゴリとなっている列が、元々作成/管理していたカスタマーサクセス業務一覧のレベルと一致しています。なお、業務特性をBPOベンダーに伝える意味はほとんどないので書いていません。
こう見ると、やはりオンボーディングの部分をBPOベンダーにまずは渡そうとしていますね。
LoglassはB2B向け経営管理クラウドであり相対的にユーザー数が少なく、比例して問い合わせ数も多くはないため、カスタマーサポートは初回の範囲に入れませんでした。
おわりに
お読みいただきありがとうございました。クリスマスプレゼントになりましたでしょうか?もし参考になりましたらnoteのフォロー、スキよろしくお願いいたします。
私が今年、カスタマーサクセス業務BPOへのチャレンジ、BPOベンダー調達に関わらせていただきましたが、狙いは単なる生産性の改善だけではありません。
ログラス社のカスタマーサクセス職のキャリアが、より魅力的な存在になるため、その思いを持ってこの取り組みを推進しました。
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CS界隈のXを見ると、カスタマーサクセス職として活躍した方が、PdMになったり事業責任者になったりしている様子が伺えます。
個人のキャリアの歩み方はもちろん個人に依存するものの、従業員の給与というのは市場と、事業と組織の貢献や責任の大きさで決まります。
やはりどこかカスタマーサクセス職のキャリア・給与は天井があり「仕事ができる人が離れていってしまう構造」にありそうだと危惧しています。
非常に共感したopenpage藤島さんのポストを紹介します。ただし、まだ青い鳥感が強いなと感じています。
私の場合は、3年くらいカスタマーサクセスやってるんだけど、この先にどんなキャリアビジョンがあるのか?という1周回った人たちからの相談が増えてます。
— 藤島誓也 | デジタルセールスルームopenpage代表 兼 実践カスタマーサクセス著者 (@seiya_fujishima) December 4, 2023
いつも「会社に影響力を与えるなら社長になるしかないです!」と言っていて、冗談かと思われるのですが、本気で言ってます。… https://t.co/f4UNvVbZDO
私はログラスのカスタマーサクセス職を、経営あるいはそれに準じるハイキャリアを目指す人、自身でキャリアを伸ばしていく志向のある人にとって羨むようなポジション、応募せずにはいられないポジションとしていきたいと考えています。
そうなるためには、より付加価値の高いことにより多くチャレンジできる環境が必要です。そのためにそれほど付加価値の高くないことは、誰かに任せて分業していく必要があります。
ログラスのカスタマーサクセス職で、まずは経営企画の困りごとをシステムの側面から解決できるようになり、次第に経営企画業務そのものを改善したり、CXOレイヤーの経営アジェンダも念頭に置きながらお客様と会話し、課題解決できること「良い景気を作ろう。」をお客様と作れることが、その人のスキル・市場価値を上げていくと思っています。
ノウハウ調の記事でしたが、根っこにはこうした問題意識からBPO化にチャレンジしています。
私たちは、いっしょにはたらく仲間を探しておりますので、もし少しでもご興味ございましたら、YOUTRUSTでもXでもお声がけください。
ログラス🐳から3本、僕のnoteも1本選んでいただきうれしいです!来年も継続して価値ある情報発信していきます!
— 🐳比留間心之介🇯🇵PLO Genius Japan Ambassador (@hiruma_poker) December 16, 2023
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【保存版】2023年 カスタマーサクセス関連 厳選記事 80本まとめ|丸田 絃心 #レクシエス #LECCS #カスタマーサクセス #CS #CSカレッジ @genshin_maruta #note https://t.co/SJtrnetFCv
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比留間
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