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【詩】あるモグラの死


蝶番が外れてしまった
僕をかろうじて未来に繋ぎ止めていた
友という蝶番が
太陽に凝視され転がっている
夏の青空はまるで
拒食症モデルのアイシャドウ
膨れ上がる積乱雲は
のっぺらぼうのミシュランマン
舞台『狂気の季節』の死体役に
君は選ばれてしまったらしい



メトロ、君はいつだって必要な時に
僕の寝ぐらの壁をぶち破る
塞ぎ込んだ僕の心を
つるはしで一突きする
ビンゴカードのリーチの箇所に
風穴を空けるように
そしてよく連れ立って
憂さを晴らしに出掛けた
颯爽と歩くジョニー・ウォーカーの足下に
落とし穴を掘ったりした


花火の響きに誘われて
地表近く集う女土竜めもぐらたち
「恋は盲目」と言うけれど
目が退化していると話は複雑
彼女のヘアカラーの名は
『ナチュラル・チホートシ』で
香水の銘柄はたぶん
『KYUGOSHIRAE』だったのだろうが
三尺玉の破裂音を君はあえて
胸の鼓動と勘違いした

  

まったく良くない「いいね!」が堆積して
近頃は地上に出にくい
だからYAMAHAの鍵盤を裏側から叩いて
長調を短調に転じさせる
世を覆う張りぼての陽気さを
ひっくり返すように
君が奏でるのは曲か?
それとも空虚か?
振り向きざまの君の笑みに
漂った悲哀が忘れられない


狭量な了見と
空転する屁理屈
気味の悪い蛙たちも
お気に入りの井の中にいれば
自分たちのゲロゲロ声が
パバロッティに思えてくるもの
だから僕らは困難でも
太陽の下に出ようと約した
自分の価値観と生命を
危険にさらすことになろうとも…



寝床用の穴の中に
金木犀の香りが忍び込む
ブリーズライトで拡げたわけでもないのに
深く長い息がもれる
ねぇメトロ、僕のジェームズ・ディーン
冷たくなった君が地中に埋められ
着信履歴の君の名が
徐々に埋もれていってしまっても
僕の記憶は君の思い出で
埋めつくされたままだよ




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