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【医師直伝】鳥刺し・レバ刺しは科学的に安全な食べ物である。【2021年最新版】
こんにちは、医師・医療経済ジャーナリストの森田です。
今回は、
「鳥刺し・レバ刺し、実は安全ですよ!」
と、声を大にして訴えたいと思います。
「え?あの国でご禁制になったレバ刺しが安全?」
「鳥肉は半生でも食中毒になるからだめ!ってみんな言ってるよ!」
(例えばこちら)
「お前は本当に医師なのか!?」
とお叱りの声を医学界の四方八方から頂きそうな予感でいっぱいですが!(^_^;)
でも、かなり本気で科学的な話をしようと思ってますので、ご理解頂けますと幸いです。(科学的とはいえそんなに難しい内容ではないです。)
本題
そもそも、例の2012年の焼肉チェーンの事件が発端で
腸管出血性大腸菌感染(食中毒)の危険が大だからダメ!
ということで禁止になった「生レバー」。
まぁ、たしかにレバ刺しを検査すると、腸管出血性大腸菌が検出されるらしいです。。。
「やっぱり危険じゃん!((((;゚Д゚))))」
と思いますよね。
でも実は、生野菜でも果物でも調べれば腸管出血性大腸菌が検出されることもあるんですって(^_^;)
そのあたりはコロナ関連で有名になられた感染症専門医で神戸大学教授の岩田健太郎先生のこちらの本に詳しく書いてあります。
この本にはこう書いてあります。
検査すれば生野菜からも腸管出血性大腸菌が検出されることはあります。(中略)ぼくらはばい菌・微生物の情報も重視しますが、微生物の情報だけを見るのは間違っていると知っています。レバーから大腸菌が見つかるか、という微生物情報も大事ですが、それだけでは片手落ちです。より大切なのは「結局それでどれだけの健康被害が起きたか」です。(中略)
胃酸は食物の消化・殺菌という仕事をしてくれているのです。(中略)胃酸がきちんと作られている健康な人であれば、多くの細菌はそこで殺されていしまします。たとえ胃酸による溶解をすり抜けて、腸管出血性大腸菌が腸に侵入した場合でも病気を起こすとは限りません。他の常在する菌が腸管出血性大腸菌の増殖を抑えるためです。現に僕も無症状の時にとった便の培養(糞便細菌検査)で腸管出血性大腸菌を見つけることがあります。(中略)
このように、「食べ物に病原体がいる」=「感染症を発症する」ではないのです。現に統計データを見れば感染症の発症者は(特に日本では)少ないのです。厚労省は微生物の情報ばかり見ずに、こういう「人」の要素もきちんと吟味すべきでした。
(以上、「リスクの食べ方」〜食の安全・安心を考える〜 岩田健太郎著から引用)
そうなんです。実はレバ刺しでも生野菜でも、腸管出血性大腸菌は検出されるし、体内に入ることもあるんですが、胃の中で殺されたり(胃酸はかなり強力な酸性で殺菌作用があるので)、腸内の細菌叢で駆逐されたりで終わってしまうことがかなり多いということなのでしょう。
つまり、
食べ物に病原体がいる≠感染症を発症する
ということ。だって、居るか居ないかで言ったら食中毒の代表選手「黄色ブドウ球菌」は、僕らの手のひら鼻の中にだって結構いるのですから。
また、今回は鳥刺し・レバ刺しのお話なので深くは突っ込みませんが、これは新型コロナウイルスでも同様です。ウイルスがいる=感染しているではないのです。PCRで陽性が出たのに無症状。そんな方々が多かったのは、つまりそういうことなのです。
ここは大いに誤解されている部分だと思いますので、強調しておきます。
問題は菌・ウイルスの量と自分の免疫力のバランスなんでしょう。人間って、いい菌・悪い菌いろんな菌の中で、共存したり戦ったりしながら生活しているわけですね。
大事なのは
「そこに菌がいる」という情報にもまして
「その菌で病気がどれだけ発生したか」
(もっと言えば、どれだけ重症・死亡が発生したか)
と言う情報なのです。
ということでレバ刺しの話に戻りますと、「じゃ、レバ刺しを食べていたことでどれだけの人々が病気を発症していたのか」と言う情報を検証すべく、今年の9月に神戸大学・微生物感染症学講座感染治療学分野教授の岩田健太郎先生が「レバ刺し禁止前後の腸管出血性大腸菌感染症発症率の変化」という論文を発表されたのですね。
簡単に言うと、『レバ刺しご禁制の前後で日本における腸管出血性大腸菌感染(食中毒)の食中毒の発症率は減ったのか』と言う研究分析です。
かつての焼肉屋で普通にレバ刺しを食べられた時代。僕も含め日本人みんな結構食べてました。
そして今、基本的に生レバーがご禁制になり食べられない時代。
もちろん、順当であれば「レバ刺し禁止以来、腸管出血性大腸菌感染の食中毒の発症率は格段に下がった!」と言う研究報告があってしかるべきなのですが…
結論から言うとなんと、
「変化なし!(σ・∀・)σ!」
ということだったのです。
「レバー生食禁止前後の腸管出血性大腸菌発症率の変化」
上が「不顕性感染」、下が「顕性感染」。2012年の縦の実線は「レバ刺し禁止」の時期。
出典:"Did the ban on serving raw beef liver in restaurants decrease Enterohemorrhagic Escherichia coli infection in Japan?: an interrupted time-series analysis." BMC Infect Dis. 2019 Nov 8;19(1):949. doi: 10.1186/s12879-019-4576-0.
Iwata K1, Goto M
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31703557
レバ刺しを禁止しても禁止しなくても、日本人の腸管出血性大腸菌感染(食中毒)に変化なし!
ちなみに、食中毒の発症率だけでなく、死亡数・死亡率も概ね変化はなかったそうです(死亡件数が少なすぎて統計解析できないレベルだったそうですが)
レバ刺しなんて、いかにも危険そう。
だから犯人扱いされて全面禁止になっちゃったわけですが、その結果をしっかり検証したら、実は…
腸管出血性大腸菌感染の真犯人ではなかった。(実は他のもので感染・発症している)
ということですね。
■鳥刺し
これは、『鳥刺し』についても同じことが言えます。
『鶏肉の生食』というと、鹿児島・宮崎など南九州独特の文化なので、馴染みがない方も多いと思います。かくいう僕も横浜出身なので、大人になるまで食べたことはありませんでした。
だって、鶏肉と言えば
「絶対に火を通さないとダメ!!」
と、親からビンタされて泣いた記憶もあるくらいですから。
ま、全国的にはだいたいそんな認識ですよね。
でも、鹿児島県内のスーパーに行けば、おそらくどの店でも
『鳥刺し』が大量に売られています。
こちらのスーパーはこの一角全部「鳥刺し!」。大人気で油断すると夜にはもうなくなっています。
こちらのスーパーは、上下4段ぶち抜きで「鳥刺し」!
鹿児島では一日3万パックくらい出荷されてるらしいです。県の人口が170万なので、かなりの県民が日常的に食べていることがわかります。
各家庭の食卓に日常的に「鳥刺し」が並ぶ。それが鹿児島・宮崎の食文化なのです。もちろん僕も、大体週3で食べてますね(^^)。
こちらはオシャレ感いっぱいな鳥刺しグルメ。
↑「Mebuki grand」https://goo.gl/maps/jSiiknYP9BG2 の鶏刺し。
ちなみに、鶏のレバーはご禁制ではないので鹿児島では全く問題なく今でも提供されています。
↑鹿児島市内「天文館 大衆やきとり 頂」さんのレバ刺し。
鹿児島県民はこんなにたくさんの鳥刺し・レバ刺しを、日常的に食べているのです。
「鳥刺し」を食べることが食中毒の原因となるのなら、
鹿児島県民の食中毒は全国平均よりかなり多いはず!!
と思いますよね。
ということで、過去8年間の「食中毒発症率」を調べてみた結果がこちら。
逆に全国平均より少なめ!!
ちなみに、調べた限り過去ずっと鹿児島県内の食中毒による死亡数はゼロでした。
念の為、鳥刺しで一番気になる「カンピロバクター菌による食中毒患者数」のデータも有ったので調べてみたのがこちら。
やっぱり全国平均よりずっと少なめ!ていうか、平成29年・令和元年は発生ゼロ件ですね。
もちろん死亡数もゼロです。
以上、出典はこちら。
↓↓
食中毒統計調査 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450191&tstat=000001040259
僕が作った単純な発症率推移のグラフで、岩田先生みたいに統計解析してないので申し訳ないんですが。しかも5年だけだし(^_^;)。
注意!
鹿児島・宮崎では「生食用」の鶏肉について県が独自に厳しい「生食用鳥肉」の処理基準・取扱基準を設定していまして、県内で販売されている「鳥刺し」はその基準に基づいて加工・処理されています。
そもそも、カンピロバクターなどの食中毒の原因菌は、鶏の腸の中にこそ多数生息しているものの、食用部分である筋肉内には基本的に存在していません。原因菌は処理途中に腸管内などから汚染して鶏肉に付着するのです。だからこそ生食用鳥肉の処理に関しては
・「内蔵摘出後の腹腔内表面は焼却する」
・「 器具の洗浄消毒は,83℃以上の温湯により行う」
・「 鳥刺しを処理するまな板及び包丁等の器具は専用のもの、またこれらの器具は洗浄消毒の容易な不浸透性材質」
など、特別に厳しい規則が県によって定められているんですね。
だからこそ、以上の結果になっているのでしょう。
ということで、鹿児島・宮崎以外の県で処理されたものを、しかも「加熱用」の鶏肉を生食することは絶対にしないでください。危険すぎます(^_^;)。
鳥刺しを食べたいときはぜひ鹿児島・宮崎へ!!
鹿児島県「生食用食鳥肉の衛生対策」https://www.pref.kagoshima.jp/ae09/kenko-fukushi/yakuji-eisei/syokuhin/joho/documents/66345_20180614110024-1.pdf
まぁ結局、象徴的で印象に残りがちな(だけど一過性の)事件やなんとなくのイメージだけで物事を判断するのではなく。
「病気がどれだけ発症しているか?」
について科学的にしっかり検証することが大事なわけですね。
イメージだけで言ったら、日本が誇る寿司も刺し身も、ちょっと前まで欧米では野蛮なゲテモノ扱いだったわけですし、「卵」の生食は今でも世界的に完全NGで、「たまごかけごはん=TKG」を悪魔の食べ物みたいに見る人たちだって多いんですから。
日本ではこんなに安全でみんな食べてる寿司やTKGを、
菌が検出されるし、なんとなく危険だから禁止!
って国連やWHOで決められても困りますよね。
調べれば何でも菌は出るんだから。。。(^_^;)
以上、「レバ刺し・鳥刺しは科学的に見て安全な食べ物である。」でした。
・・・まあ、こんな僕の考え方、今の世の中ではちょっと突飛かもしれませんが・・(^_^;)
皆さんはどう思われるでしょうか。
ちなみに、科学的な反論は大歓迎です!
注:この記事は投げ銭形式です。
医療は誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」、
と思っていますので医療情報は基本的に無償で提供いたします。
でも投げ銭は大歓迎!\(^o^)/
いつも一人で寂しく原稿を書いているので、
皆様の投げ銭から大いなる勇気を頂いております!
ありがとうございますm(_ _)m
僕の本
財政破綻・病院閉鎖・高齢化率日本一...様々な苦難に遭遇した夕張市民の軌跡の物語、夕張市立診療所の院長時代のエピソード、様々な奇跡的データ、などを一冊の本にしております。まさにこれが地域医療・地域包括ケアシステムのあるべき姿だと思います。
日本の明るい未来を考える上で多くの皆さんに知っておいてほしいことを凝縮しておりますので、是非お読みいただけますと幸いです。
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著者:森田洋之のプロフィール
夕張に育ててもらった医師・医療経済ジャーナリスト。元夕張市立診療所院長として財政破綻・病院閉鎖の前後の夕張を研究。医局所属経験無し。医療は貧富の差なく誰にでも公平に提供されるべき「社会的共通資本」である!が信念なので基本的に情報は無償提供します。(サポートは大歓迎!^^)